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待っていたもの

 ぎゃ~~~~~~~!!!


 現在蜘蛛の団体さんに追われてる真っ最中!! やっぱりそうそう甘くはなかった。


キアランに抱えられたまま、上下左右緩急と変幻自在でまったく規則性のない超スピードの疾走に、追いかけてくる巨大蜘蛛の集団。

 いくら絶叫マシン好きだったとは言っても、限度があるっての。しかも醍醐味の絶叫は、蜘蛛を刺激しないために封印中。何も楽しくない! このままじゃ確実に酔う! キアラン酔いする!


 もはや完全にただのパニック映画の一場面。っていうか実際そんな映画、深夜に見たわ。最初に襲われるのはいちゃつくカップルのはずでしょ~! 私には全く無縁なんですけど!


 マックスもさすがに対応できる数じゃなくなって、とにかく私の指示する方向に逃げまくるしかない。

 幸い本気のスピードならこっちの方が上だけど、時々糸が弾丸のように飛んでくるから、まったく油断できない。


「まだか!?」

「もうすぐのはず!!」


 マックスの問いに答えるけど、正直私だって大まかな場所だけで、そこに何があるかなんて分からない。

 たどり着いたとして、蜘蛛の集団にどう対処すりゃいいのかなんて、ホントに出たとこ勝負だ。


 進んでいくうちに、周りの木がどんどん太くなって、その分、自由に動ける隙間が狭まっていった。


 そういえば森の中心地は、樹齢千年を超える木が密集してるんだった。

 ザカライア時代に散々出入りした森林だけど、このエリアの木は登りにくくて、こっち方面の上部に仕掛ける罠は、結構人任せだったんだよな。


 いつも見上げる景色だったけど、どこまでも続く大木の、それもかなりの高所をすり抜けていくのはなかなか壮観だ。追いかけっこの相手が魔物でなければだけど。


 場所的には、そろそろこの辺りのはずなんだけど、一体何が起こるんだ!? 誰だか知らんけど、呼び出したならちゃんと責任取って迎えに来い!!


 内心で苦情を叫んだ瞬間、私の胸元のヒンヤリとした感触が、急激に熱を帯びた。

 図書館で、デメトリアの隠し金庫を発見した時と同じ現象だ。

 私の守護石が、薄紫色の光を放ちだした。その光が収束して、レーザービームのようにある大木の幹に差し込む。

 大木の光を受けた部分が、1メートルくらいの円状に、守護石の光と同じ輝きを放った。


「あの光に飛び込んで!!」

「っ!?」


 私の指示に、一瞬驚いた二人も、瞬時に覚悟を決める。


 うん、大木に激突してくみたいで、私も正直かなり怖い。


 でも、行けっ!!


 キアランにしがみつく腕に力が入る。とてつもない勢いで目の前に迫った大木に、反射的に目を瞑った。


 入った瞬間の、静寂。


 恐る恐る目を開ける。木の中じゃないと一目で分かる、明らかに木の体積を超える白い空間。


 以前カッサンドラに呼ばれた場所とよく似ていた。あまり長居していい場所じゃないかもしれない。


「マクシミリアン!?」


 キアランの驚きの声につられて横を見て、私も声にならない悲鳴を上げる。


「マックス!?」


 マックスが、完全に動きを止めていた。飛び込んだ直後の様子で、まるで石像にでもなったかのように。


 慌てて飛び降りかけた私を、キアランが離さずに抱き留める。


「キアラン!?」

「待て。今お前から離れたら、俺もどうなるか分からない」


 私を抱える腕に力を込めながら、周囲を警戒する。


「え……? ――ああ、そうか……」


 逆に私には、この事態に一つ思い当たることがあった。


 ここがカッサンドラの所在地やデメトリアの隠し金庫と同じような空間なら、時間の流れが停止に近い状態になっているということかもしれない。


「見たところ、止まっている以上の異変はなさそうだが……」


 キアランの言葉に、少しホッとする。


 だったらマックスも、ここから出れば元に戻るはず。


 キアランが無事なのが、王家の特別な血のためか、私の守護石が一緒に加護を与えてくれているからなのか、それとも他の理由があるのかは分からない。だけど今、あえて離れてまで実験してみる余裕はない。

 なにより、ここでキアランにまで停止されちゃったら、心細すぎる。


 キアランには、そのまま抱えててもらうことにした。


「グラディス、あれを見ろ」


 周囲を注意部く観察していたキアランが、地面にポツンと落ちている物に注意を促してきた。


 ルビーのように赤い球体の石が、転がっていた。


 ハッとして、私の胸元から、守護石を引っ張り出す。


「色違いの、同じもののようだな」


 私を抱えたままのキアランも、その石を見比べて、感想を言う。


「でも、存在感が違う」


 それが私の印象。

 色以外の、形や大きさは、確かに同じ存在に見える。

 でも、私の守護石は不自然なくらい影が薄いのに、赤い石は空間いっぱいに存在感を放っているよう。

 この時間の止まった空間から出されたら、何が起こるのか心配になりそうな、圧倒的なパワーを感じる。空間にその圧力が充満していたせいで、キアランに言われるまで、その存在に逆に気付かなかったくらいに。


 キアランが近くまで歩み寄って、私の手が届くようにしゃがんだ。

 私は手を伸ばして、恐る恐る指先で触れてみる。私の守護石より、熱い。


 これが、私を呼んでいたものだ。この時間の止まった空間で、ずっと私を待っていた?


 確信と同時に、覚悟を決めて、掌に掴み取った。


 その瞬間、弾けた光とともに、白い空間から放り出されていた。


「うわっ、何だ!?」


 マックスの、焦った声が聞こえてほっとすると同時に、大木の根元で、私たちは完全に蜘蛛に取り囲まれている状況に気が付いた。


「くそっ!!」


 即座に、たとえ効果があまり期待できないとしても、防御のための魔力を溜めようとしたマックスを止める。


「大丈夫、マックス。やることが分かった。やり方も」


 私は、掌で熱を放つ赤い石を握りこんだ。


 掴み取った瞬間に、理解した。私の中で圧縮されたまま眠っていた預言の一部が、私の中に自然に流れ出して溶け込んだから。


 大預言者としての、私の最初の仕事だ。


 この赤い守護石はそのために、あの空間で600年間私を待っていた。


 私に託した元の持ち主は、建国の初代大預言者、ガラテアだ。 

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