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蜘蛛との遭遇

 なんか、予言とは関係なく、すごく嫌な感じがする。


 まるでこっちから呼びかけた合図に、向こうから返答があったみたいだ。

 ユーカの能力は、魔物に分類されるもの。だったら間違いなく、その返事は何らかの魔物からということ。

 それができるなら、通常の魔物じゃない。知られてない能力と、大なり小なり知能があるということ。少なくともこの森林に生息する種類のどれでもない。


「みんな固まって」


 急に深刻な空気を出した私に、みんなも表情を引き締め、集まった。


「ユーカの感覚だと向こう300メートル先に何かいるみたい。感知できる?」


 私に問われ、4人の戦闘職が、一斉に試してみる。


「全然分からないわ。本当にいるの?」


 ティルダが眉間にしわを寄せた。


「学園の認知干渉の罠にかかっているような、すごくぼんやりとした感覚よ。指摘されれば、いるような気はするけど、よく分からない」


 ソニアが曖昧に答える。


「多分2体。左右に分かれたみたい。集中してその場所を探索すれば分かるけど、ヒントなしでの索敵は無理そう」

「あたしもそんな感じだ」


 ヴァイオラとダニエルも、答えながら自信はなさそうだ。


 つまり魔導師は全くダメ。騎士は多少感知できる。特にヴァイオラとダニエルが多少なりとも詳しいのは、より感覚の強い公爵血統だからか。


「不気味なのがいる。もしかしたら、魔術系は効かない性質なのかもしれない。様子を見よう」


 感知しにくい敵から闇雲に逃げるのは怖い。必要だったらそうせざるを得ないけど、ユーカがいれば奥の手が使える。


「ユーカ。バリアをお願い」

「分かりました」


 緊迫した空気に、ユーカも気合の入った顔で頷いた。今年の夏至以降から、本腰を入れて色々試している新技の一つが、また飛び出すことになる。


 ユーカの体から噴き出した黒い瘴気が、私たち全員をドーム状に覆う。私はぞわぞわするけど、他の子たちは、触れさえしなければ特に気にならないみたいだ。まあ、安全には変えられないから、私も鳥肌は我慢する。


 息をつめて待っていると、数分後、2体の蜘蛛がそろそろと高い木の上から姿を見せた。


 でかっ!


 全員が息を呑む。遠近感が狂いそうな巨大さだ。なんで木の上にいるのに、こんなに造形がはっきり見えるんだ。

 慣れてるはずのヴァイオラたち戦闘職ですら、言葉を失うほど、異質な存在感を放つ魔物だ。


 みんなでガッチリ身を寄せ合って、とにかく刺激しないように呼吸すら抑える。


 ユーカが成長してくれていて、本当に助かった。

 黒い瘴気に覆われた私たちは、多分魔物にとっては、別種の魔物とみなされてるはず。それもユーカの潜在能力から考えれば、相当上位種と判断してもらえるんじゃないだろうか。

 仮に私たちの気配が漏れたとしても、食べられてお腹の中にいるのと同じ状態に見えると思う。


 しばらくこっちの様子をうかがっていた2体は、来た時とは正反対に、弾かれるように飛び跳ねて姿を消した。

 やっぱりユーカは、攻撃対象にはならなかったみたいだ。

 あの蜘蛛を退かせるってのは、どのレベルなんだろう。ある意味召喚された魔物とも言える存在なわけだし、それと同列と考えたら、アリとかケルベロスもどきに匹敵する可能性もあり得る。ちょっと末オソロシイぞ。


 蜘蛛が完全にいなくなってから、一斉に長い息を吐く。


「何よあれ!?」


 ティルダが半泣きで叫んだ。


「こっちの攻撃が通る気が、全然しなかったわ」

「どういうこと?」

「あの蜘蛛に意識を向けられてる間、集中がぼやけてうまくできなかった気がする。グラディスが言った通り、魔術系は通用しにくいかもしれない」

「戦いたくはないけど、最悪、攻撃は物理でってこと?」


 冷や汗を流しながら確認するソニアに、ヴァイオラが首を振った。


「あれは、普通じゃない。戦うことを考えちゃだめよ」

「ああ、今の装備と人数じゃ、どうにもならねえ。逃げの一択だ」


 ダニエルも、戦闘は断固拒否の意見だ。


「初めての魔物です! 間近で見るとすごいですね。ビックリしました!」


 一人いまいち状況の深刻さが読めてないユーカが、興奮気味に声を上げる。物珍しさで驚きはしても、感覚的には自分の下位に当たる同族だからか、あまり本能的な危機感は感じないんだろう。


「バーカ。あれ、学園公認の魔物じゃねえぞ。相当ヤベエ新種だ」


 ダニエルの否定に、ユーカがきょとんとする。


「え? あれって、学園で用意した障害物の一つじゃないんですか?」

「相当危険度の高い、未知の魔物よ。召喚されたのではなさそうだけど、特殊個体には違いないわ」

「領地でジジイどもが言ってた、突然湧いて出る魔物の群れってやつじゃねえ?」


 ヴァイオラとダニエルの推測に、私も頷いた。


「多分そうだね。10年以上前、ラングレー領でも突然大発生して、マックスの父親が犠牲になった。私たちじゃ対応できない。とにかく無事逃げ出すことだけを考えよう。学園側に連絡入れて、騎士団を要請するか。大会は多分中止になるけど、しょうがない」


 初大会にケチが付いたことにユーカは残念そうに肩を落としたけど、事の重大さが分かってる他のメンツは険しい表情で同意した。


 ああ、でも私も正直ガッカリだ! すごく楽しみにしてたのに! 花火に続いて、サバイバルも中止とか、ホント腹立つ!!


 通信しようとした時、甲高い警報が森林中に響き渡った。


「大会運営本部から連絡する。未確認の魔物が複数侵入する、異常事態が発生した模様。森林サバイバル大会は現時をもって、中止とする。全ての罠は解除したが、すでにかかっている者については、近くにいる者が可能な限り救助すること。それ以外は直ちに森林外への離脱を命ずる。遭遇した際は、速やかに退避に徹すること。迎え撃つこと、救助に向かうこと、戦闘することを厳に禁ずる。繰り返す……」


 全員で顔を見合わせる。


「もう、他でも騒ぎになったみたいだね。罠が解除されたなら、最短距離で森林から出て、外をぐるっと回って大会本部に戻ろう」


 方針を決めてから、ユーカに目を向ける。


「ユーカ、バリアはまだ出せる? 完璧には感知できない魔物が相手じゃ、早さよりも慎重さを優先したほうがいい。こまめに瘴気のビーコンで探索しながら、反応があったらバリアでやり過ごして移動するのが一番安全だと思う」

「バリアは瘴気出してるだけだから、ぶっ続けでも30分くらいは保てます。でも、これ遮断だけだから、戦いとか、まだ無理です」

「大丈夫、それなら何とかなる。みんな絶対戦っちゃダメだよ。とにかく逃げること。ソニアとヴァイオラも、外に出るまでお願い」


 私とユーカはまた抱え上げてもらうと、極力くっついて移動し始めた。朝ほどのスピードは出せないけど、それでも普通に歩くよりはずっと早い。


 私も危険回避の予知全開にして、慎重に、森からの脱出にかかった。

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