表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

211/378

ソナー

 1時間で、3か所のチェックポイントをクリアできた。1か所失敗したけど、いいペースでポイントを稼げていると思う。


 1時間たったから次の区画に移動し、また最寄りのチェックポイントを目指す。


 5区画でポイントが取れると、地図にゴールが浮かび上がる。つまり最短でも、ゴールできるまでは5時間程度かかる。

 もっとポイントを稼いでおきたければ、引き続き回ってもいいし、スピードを優先するなら、すぐにゴールを目指してもいい。

 私たちはスピードで行く予定だから、早めに効率よくポイントを稼いでおきたい。


「近くに水場があるから、ちょっと寄ろう」


 頭の中にしっかり入った記憶を頼りに、罠を避けて目的の場所に行く。いいパフォーマンスのためには、こまめな水分補給は欠かせないからね。喉の渇きを自覚してからじゃ遅い。

 水筒の持ち込みは不可だから、近くに飲食に繋がるものがあったら、多少の時間のロスは惜しまない。我慢大会じゃないしね。


「ナビが正確なだけで、安定感が全然変わるわね」

「そうね。空腹はともかく、水がなくて去年は大変な目に遭ったわ」

「うちは毎年飲まず食わずでやり通すぜ。半日くれえ死にゃあしねえって」

「ここの魔物は食べられるんですよねえ?」

「木の実くらいならともかく、時間的に肉は無理でしょ」


 滞りなくたどり着いた水場で、喉を潤しながら、みんながリラックスしている。緊張ばっかじゃ集中が続かないから、こういうのは大事だ。


「おう、向こうから1チーム来てるぞ。同じチェックポイント目指してんじゃねえか?」

「じゃあ、そろそろ行こうか」


 一番の感知能力を持つダニエルの指摘で、手早く切り上げて同じ場所に向かった。


「おい、このペースじゃ先越されるぞ」

「ふふふ、かまわない。先に行ってもらおう」

「何か企んでるの?」

「――私、味方にまでそう思われてるの?」


 ティルダの一言に、素で訊き返す。非常に不本意だ。


「相手によっての駆け引きはあるけど、後の方が有利なことはあるでしょ?」

「確かに去年、次のパーティーに後ろからのぞき込まれたり急かされたりは、やりにくかったわね」

「まあ、そんなとこ」


 ソニアの実感のこもった体験談に頷きつつ、相手次第での対応策を話し合いながら、タッチの差で遅れて到着した。


「よっしゃ! うちが先だからな!」


 勝ち誇ったように机の前を陣取ったのは、ジェイド・ハンターだった。ガイのとこは今回、兄チームと妹チームに分かれたようだ。


「ええ、お先にどうぞ?」


 私たちは後ろに控えて、余裕で眺める。これはいいカモが来た。


「なんか、気味悪りいな。おい、早く片付けちまえ」

「は、はい」


 リーダーのジェイドに急かされたのは、確か3年の座学トップのライアンだ。2番目に難易度の高い紫の封筒に手を伸ばしかけたところで、事前の打ち合わせ通りの茶々を入れてみる。


「あら? 随分堅実に行くのね?」

「うちは赤をもう3つクリアしたぜ!」

「しかも、全部別教科です!」

「ああ、ごめんなさい? こちらのことは気にせず、低いポイントを確実に取ったらよろしいわ」


 一斉に煽られて、予想通りジェイドがキレた。


「うっせー! そんなちんたらやってられるか! 赤行くぞ! ほら、これでいい!」


 これだからハンターは大好きだ!

 適当に押し付けられた赤い封筒に、愕然とするライアン、頑張れ!


 とにかく手に取った以上、やるしかない。選ばれたのは最高難度の歴史だ。


 封筒から出てきたのは、王国600年の年表。大まかな出来事が、数十ページに渡ってつづられ、最後に「間違いの箇所を訂正せよ」とある。


 これはキツイ! 1文字も読み飛ばせない超難問。この世界に漢字はないけど、つづりの引っかけは要注意。数字関係も正確に記憶してないといけない。

 しかも間違いの数も指定なし。『答え』がいくつかも分からない間違い探しだ。


 当然私たちはハイエナとして、虎視眈々と次を狙う。高難易度の問題の内容がリスクなしで、一つ判明した。しかもこの内容なら、私は確実に正答が出せる。

 あとはぜひ間違えてもらうため、周りで仲間たちにがやがや野次を入れさせて、ライアンの集中力をそぐ努力だ。


「テメーら邪魔すんじゃね~! おい、お前ら押さえろ!」


 二つのパーティーでの小競り合いが続く中、私はちらちらと年表をのぞいて、頭の中で答えを出していく。


 おお、ライアンすごい! さすが市井からトップで勝ち残った学年一の秀才。こんな妨害行為にさらされてる中、なんと年表の間違いを全部訂正してしまった。これは本当に脱帽だ! バルフォア学園の生徒って、レベルが段違い!


 最後のページまで、しっかりと訂正し終えて、魔法陣に解答用紙を乗せる。


 はい、残念、不正解!!


 解答用紙の書き込みはすっかり消えて、元通りになった。


「てめえふざけんな、何やってんだよ!」

「……す、すいません」


 ジェイドが責めるけど、ライアン君、超優秀だったからね? 頭の柔軟性と視野が普通だっただけで。


「じゃあ、その問題、私がもらうわね?」


 私はライアンの手からもぎ取り、ライアンがしたのと全く同じ解答を書き込んでいく。


 結果が気になるのか、ジェイドたちはこの場に留まった。当然、さっき私たちにやられた妨害工作の報復をしつつ。


 そんなんでどうこうできる私じゃないけどな!


 私が最後まで書き切ったところで、ライアンに耳打ちされたらしいジェイドが、身を乗り出してきた。


「おい、最後のページまで、まったく同じかよ! それじゃ、不正解だろ!?」

「ライアンは、最後の一つに気付かなかったのよ」


 答えながら、年表の欄から大きく外れた、用紙の一番下の文字に二重線を引く。

 パウエル出版を、ハウエル出版に訂正。


 魔法陣に乗せて、はい正解! 50ポイント獲得だ。


「はあっ!? なんだよそれ! 汚ね~~~~~っ!!」


 ジェイドの雄叫びが響き渡る。


 うん、ほんとに性格悪いよね。素直で真面目なだけじゃ解けないみたいだよ、今年の最難関問題は特に。

 間違いの箇所は訂正って指示だからね。参考資料の出版社名くらい、覚えとこうね。


 それにしても、マジで誰がこの問題考えたんだ?


「じゃあ、ジェイド、またな」


 ダニエルが慰めるように肩を叩き、私たちはさっさと次に向かった。


「ちくしょう、覚えてろよ~~~~!!!」


 ジェイドの心の叫びを背にしながら。


 それから3つ目の区画に移動し、罠をかいくぐり、遭遇した魔物を倒していく。


「やった、4体撃破!」


 うちの強力すぎる攻撃陣が、危なげなく魔物を倒す。これもしっかり記録されてて、あとでポイントに加算されるから、うちくらい強いパーティーだと、魔物との遭遇はむしろウエルカムだ。


「向こうから2体来てるわよ」


 ヴァイオラが魔物の接近を感知する。


「認識阻害の罠もあるから、感知を信用しすぎると痛い目見るわよ」


 きっと去年痛い目を見たんだろう、ティルダが忠告をする。


「じゃあ、私も調べてみます!」


 ユーカがそういうと、ほんの一瞬だけ、鳥肌が立つような嫌悪感がかすかに走った。


「ヴァイオラ外れです。あっちの200メートルくらい先に3体いますね」


 ユーカがドヤ顔で断言する。


 ユーカの成長が目覚ましすぎる。

 今のは黒い瘴気を潜水艦のアクティブソナーのように打って、魔物の場所を探知したのだ。

 この調子だと、多分来年は、戦闘職の方に分類されるんじゃないかな? 今でもすでにギリギリアウトな気がする。


「じゃあ、それもついでに仕留めて行こうか」

「了解!」


 行きがけの駄賃に通りがかりの魔物を3体仕留めて、その先を行こうとした時、またさっきと同じ嫌悪感が走った。


「っ!?」


 ユーカがまたやったのかと思ったら、同じタイミングでユーカも驚いている。


「えっ!? 今の、何ですか!?」


 森の奥深く、一点を凝視するように、視線を送る。他のみんなは気付いていないようだ。怪訝そうに私たちを見る。


「今の、ユーカじゃないの? まったく同じ感覚だったんだけど」

「いいえ! 私、何もしてません。でも、さっき私がやったのと同じ感じでしたよね? 500メートルくらい向こうから来ましたよ!」


 ユーカにとっては嫌悪感ではないんだろうけど、違和感ははっきり感じたみたい。


「――まさかそれ、『パッシブソナー』……?」


 なんだこれ……。なんか、すごく嫌な感じがしてきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ