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抽選

 メンバー全員が、防御魔法をかけられた。


 それが済んだら続いて、出発準備の整ったパーティーの順に、抽選が行われる。


 少し離れた場所のテントに、最前列のグループが入っていく。中の様子は見えないけど、代表者が抽選箱の中に手を入れてるはずだ。

 折りたたまれた紙を一枚、手に掴み取る様子は、さながら甲子園予選で運命を握る野球部部長。


 これは、私がザカライア時代に取り入れた、くじ引き方式。


 引いたクジは、今回の舞台となる森林の地図になってて、任意のスタート地点が指定されている。

 紙を開いて確認すると、喜んだり、悔しがったりと、反応は様々。テントの反対の出口から出ていくから見えないけど、それぞれの表情観察ができれば、ある程度の場所が推測できたりする。


 というのも、スタート地点にもアタリハズレがある。


 ここから遠ければ、すぐに移動しないと開始時刻に間に合わず、いきなり失格になる。

 植物や魔物の分布状況や、水場の近さ、地面の起伏、その他いろいろな条件の違いでも、有利不利が全然変わってくる。

 長年見てきた私としては、デメリットの裏にはちゃんとメリットもあって、一長一短だと思うんだけど、3回しかトライのチャンスがない学生だと、目先の有利さにどうしても目が行っちゃうみたいだ。

 魔物が多い場所は水場も豊富だし、逆に歩きやすい広めの場所は、一網打尽系の罠が仕掛けやすかったりするんだよね。 


 抽選で場所が決まれば、直ちに指定のスタート地点へと移動。


 前のグループがいなくなったら、また次が進む。任意のパーティーのスタート場所の特定ができないため、合流はなかなか難しい。

 指定の装備以外持ち込めないから、メモを残したりもできない。どうしても合流したかったら、色々と工夫が必要だ。


「うちは毎年、とにかく地図の真ん中で合流だ」


 ダニエルによると、ハンターはやっぱりこのイベントでも、クランを作る予定だそうだ。

 実にハンターらしい、単純明快な作戦。時間はどんなに早くても3時間以上はかかるけど、これが一番確実。


「分かれる前の共通ルートの地面に、メッセージ残してくパーティーもいるらしいぜ」


 先に進んだ方が、スタート地点の区画を、分岐前の道に書き残していくらしい。すぐに後続が、確認してから消す。


 事前に細かい打ち合わせをしておいて、それに従って先行チームが動き、後続が計画的にそれを追いかける作戦だという。


「考えただけで頭痛くなるぜ。めんどくせえ。うちには絶対できねえ作戦だよな」


 その説明に、私は内心で笑いをこらえて尋ねる。


「それ、ちゃんと合流できると思う?」

「分かんねえよ。やった奴が、結果教えてくれねえもん」


 首を捻るダニエルに、我慢できずに噴き出した。


「それ、すでに罠にかかってるよ。絶対、書き換え係が潜んでるから」


 っていうか、ザカライアの時、私が率先して書き換えてたから。書かれたそばから、喜々としてアサッテな地点に特大で書き直したからね。


 罠の仕掛けは、夏季休暇からすでに始まってる。このタイミングでの妨害は、すでにアリなのだ。


 無理に小細工するより、素直に決まった場所で待ち合わせるのが一番確実だ。単純なハンターが実は一番正しかったりする。


「なんだ、それ! ズリーな!」


 初めて知る新事実に、ダニエルが笑った。


「引っかかる方がバカなのよ。罠を見抜くのもゲームのうちでしょ」


 ティルダが至極当然の指摘をする。ヴァイオラも笑って続ける。 


「そもそも生息する魔物自体大して強くないでしょ。ハンターくらいの戦力があれば、無理にクランを作る必要性もないんじゃない?」

「戦うだけなら、確かに戦力過多なくらいね。むしろ問題は、チェックポイントの方なんじゃない?」


 去年も経験してるソニアが、別の意見を出す。ダニエルが力強く頷いた。


「そうなんだよ! ここの魔物なら、あたしらレベルなら単独撃破できる。でも、チェックポイントの問題がスゲー根性ひん曲がってんだよ! だから、教科別トップそろえて、共用する作戦だったんだ。何人かいりゃ、誰かしら答えられる確率が上がるだろ? 今年はベルタを使う賭けに出たから、ガイのチームは数学以外ほとんど捨てた状態なんだ。合流できなかったら、ボーナスポイントは絶望的だな」


 ルールでは、正解した教科数が多いほど、ボーナスポイントが付く仕組みになっている。できるだけ万遍なく科目を制覇した方が、同じ正答数でも、最終的な獲得ポイントが大きく変わる。

 数学だけに標的を定めたということは、ボーナスを捨てる代わりに、得点を確実に数多く拾っていくという戦略になる。

 合流が可能なら、1~2科目でも別の教科の正答が欲しいところだろう。魔物の脅威度が低い分、魔物の撃破ポイントは意外と低くて、得点を稼ぎにくいのだ。


 ダニエルの解説に、ユーカが好奇心いっぱいの表情を浮かべる。


「そんなにすごい問題が出るんですか?」

「ああ、ぜってー解けねーって! 作った奴の性格、間違いなくねじ曲がってるから。奇跡の起こしようもねえくらい、タチ悪りいんだ。グラディスでダメなら、うちはチェックポイントでの得点獲得はないからな。頼んだぜ、グラディス!」

「ふふふ。任せて」


 気楽に請け負うけど、実際、私でもレベルによっては解答できる自信はない。過去問調べたけど、年々悪質さがパワーアップしてる感じだった。

 かつての私が可愛いく見えるくらいの問題が、正直いくつもあったぞ。


 難しいからこそ、脳筋どもは、支えてくれる文官のありがたさを身に染みて理解できるようになるわけだから、学問系の教師陣がエスカレートさせちゃうのも分かる。

 ただ、あんまりやりすぎると、肝心の正答が出せなくて役立たずの印象を持たれちゃうんじゃないだろうか。

 私が言うのもなんだけど、ほどほどにしておけよ!?


「次のチーム、前へ!」


 サクサクと列が消化され、私たちの順番が来た。


 後ろの方を振り向くと、少し先に、キアランたちと合流したマックスが見える。3人が私に気付いて、手を振ってきた。

 お先に失礼~、と手を振り返し、先に進む。


 さあ、抽選だ! 難しくて面白い場所だといいな。

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