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森林サバイバル大会当日の朝

 はい、ついにやってまいりました! お楽しみの森林サバイバル大会当日です!


 いつもより大分早起きして、まだ暗いうちからマックスと一緒に馬車に乗って現地のファーン森林地帯に出発する。

 マックスなんかは、早起き遠征とか慣れっこだろうけど、グラディスとしての私は初めてだ。ザカライアの時は、大護衛団を引き連れての移動にうんざりしたけど、今も規模が小さくなっただけで、あんまり変わってない気がする。


 熱心すぎる保護者のごとくついてくる人たちのことは考えないことにして、昨日の夜から、すっかり遠足に行く子供の気分で過ごした。しかも今回は全員学園指定の体操服だから、余計それっぽい。


「ほんとに楽しみにしてたんだなあ」


 マックスが生温かい目で感心する。


「うん。今日は、優勝も目指すけど、目いっぱい楽しむ方がメインだから」

「やっぱり、俺たちと合流しないのか?」


 直前になっても、マックスが心配そうに確認してくる。


「あんたたちと合流したら、一方的に守られて、ゲームにならないじゃない」


 勝つための作戦としてはそれも有効なんだけど、全然面白くなさそう。武闘大会の優勝者と3位がいるクランって、相当悪質だと思う。

 そもそもスタート地点が別々の上、連絡手段もないから、落ち合うこと自体が最初の難関になる。近い場所からのスタートになるかは、抽選の運次第。

 ああ、でもノアがいるから、謎の情報網で、こっちの居場所が掴めたりしてね。


 私としては、特定のパーティーと落ち合う努力をするより、サクサクと先に進む方に集中したい。


「まあ、その時の状況次第だよね。進んでいけば、偶然遭遇することもあるだろうし」

「無理はするなよ」


 今日は学園行事ということもあって、VIP学生に普段付けられてるような私設警護も、立ち入り禁止。そのせいで、マックスは不安が拭いきれないようだ。まだ事件から数日だから、仕方ないんだけど。


「私個人の護衛はいないけど、仲間から離れないし、学園も生徒の安全に全力で努めてるから、大丈夫だよ。マックスは、自分のことに専念して」


 普段の警護よりよっぽど厳重なくらいなんだからね。


 なだめてるうちに、仮設の駐車スペースに到着した。魔術の照明が点々と灯されている。

 歩くには不自由しないけど、夜明けまではもう少しかかりそう。


 先に降りたマックスが、浮かない表情のまま、私の手を取って地面に降ろす。


 そんな、今生の別れみたいな顔されても……。


 つい放っておけなくて、そのまま、安心させるように抱きついた。

 マックスは困ったように両手を浮かす。


「これは、いいのか?」

「いいよ、ハグなら」

「それはもう、無理そうなんだけど」

「じゃあ、やめる?」

「それもやだ」


 ブツブツ言いながらも、穏やかな抱擁が返される。


「本当に、これ以上心配させないでくれよ」

「ふふふ。善処します」


 それだけ答える。いつだって望んでトラブルに遭ってるわけじゃないから、そうとしか言えない。状況次第では、無理せざるを得ないこともあるから、保証はできないんだけど、それを正直に言う必要はないし。


「テメーら、何やってやがる。真剣勝負の前に、イチャイチャしてんじゃねえっ、ナメてんのか!」


 ちょうど今到着したハンターご一行が、わらわらとやって来た。

 ガイが私の頭にチョップを落とそうとするけど、当然マックスが防ぐ。


「戦いの前だからこそ、家族とのふれあいよ。ガイはやらないの?」

「気色悪りいこと言ってんじゃねえよ。家族でそんなベタベタできるか」

「ぜってーありえねえよ!」


 ガイとジェイドの兄妹が、露骨に渋い顔で全否定する。他のお仲間もほぼ同様な反応だった。


 大家族の中で育つハンター家には、当たり前すぎて、家族のありがたさが分かってないんだな。

 一周目の濃いベタベタ家族から、ザカライア時代に急転直下で天涯孤独の孤児でなおかつお局人生を送った私としては、こうして家族に甘えられるのはそれだけで至福なんだけど。


「じゃあ、俺ら行くから。ダニエル、ケガすんなよ」

「おうっ、じゃあ、お前らまたな」


 すでにメンバーがそろっているハンターチームは、ダニエルを置いて、そのまま魔導師たちのいるテントへと向かった。


 いかにも強そうな騎士・魔導師集団の中に、ちんまりとベルタが見えた。ちょこちょこと慌てて付いていきながら、私に会釈してくる。

 あらら。あいつらに付き合わされるのは、大変だろうなあ。それとも案外図太いとこのある子だから、意外と相性はいいんだろうか。

 とにかく頑張れと、手を振って見送った。


「グラディス! こっちです!」


 テントの前には行列がいくつかできてて、その一列からユーカが手を振っていた。すでにヴァイオラ、ソニア、ティルダがそろっている。


「ああ、じゃあ、私たちも行くわ」

「おう。俺のとこはまだいないみたいだから、ここで待ってる。気をつけろよ」

「うん」


 マックスとも別れて、パーティーのみんなと合流する。

 これで全員集合だ。


 集合場所には関係者やら来賓やらのテントも張られていて、照明も万全。周囲がよく見える。

 まずは魔導師の元で、一人ひとり防御魔法をかけられる段取りになっている。

 学園のイベントは国の全面協力があるから、今回も参加者の安全のために、多くの宮廷魔導師が動員されてるわけだ。


「結構並んでるね」

「遅いわよ! スタート地点が遠かったら面倒だわ」


 ティルダが文句を言いながら、私とダニエルを列に引き入れる。


 自分の列の先をのぞいてみて、ちょっとげんなりとする。

 トロイが女子生徒相手に、実に楽しそうにおしゃべりしながら、術をかけていた。男子が相手だと、非常に手早い。感心するくらいの無駄のなさ。

 腕が良いのは分かるけど、なんか別の列にすればよかった。


「やあ、グラディス! 今日も運命がいい仕事してるなあ。すぐ済ませるからちょっと待っててね」


 トロイも気がついて、ブンブンと手を振ってくる。すぐ済まさんでいい! いいからとにかく、目の前の仕事に専念しろっての!


「君のパーティーは美人揃いだから、やりがいがあるよねえ」


 順番が来て、一人ずつ防御魔法をかけながら、嬉しそうに言う。明らかに、仕事より娯楽が上回ってる感じだ。


「ああ、ユーカ。せっかくの実戦の機会だから、出し惜しみしないで、新技どんどん試すといいよ」


 ユーカの順番になると、能力開発の実質的な責任者らしく、一応それらしいアドバイスもしてきた。


「はい! 楽しみです!」


 ユーカもヤル気満々で答える。修行の成果が色々と、順調に出てるらしい。ちょっとうらやましいぞ。


 最後に私の番が来て、トロイに手を取られる。

 思わず冷ややかな視線を向ける。


「さっきから気になってたんだけど、それ、女子の時だけよね?」

「これくらいの役得くらいないと、やってられないからね! 君にはサービスして特に念入りにかけてあげるね」

「普通でいいから!」


 非常に明快な返答に、ばっと手を振り払った。

 ホントに学園の運営は、このセクハラ野郎を女子生徒に近付けさせない方策を取るべきだと思う。保護者(ルーファス)はどこだ! 確か今日は、手薄な騎士団の方の任務にあたってるはずだから、森林の警備かな? こいつを扱える護衛も手薄だぞ!


「遠慮しなくていいのに」


 悪びれもせず、それでも手際よく作業を終わらせた。やればできるのに、なんでやらないんだ、まったくもう!


「頑張ってね~」


 気の抜けた応援を無視して、さっさと次の段取りに移る。


「相変わらずです」


 ユーカが無になって一言漏らした。

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