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新学期

 結局学園の欠席は、何とか1日ですんだ。


 後のことは叔父様が対処してくれるし、役に立つのかは分からないけど、今夜中にもトリスタンが到着する予定だし。

 基本、事件現場に居合わせて巻き込まれただけのスタンスの私は、もう公爵家としての交渉事にはノータッチでいいみたい。


 マックスは、昨日のことなんて何もなかったみたいな態度。私もそれに合わせている。もともと私が何かを変えるつもりはないから、結局マックス次第なんだよね。

 心を変えることが難しいことは、私だってここ数年いやでも思い知ってることだから。それは、お互い様だ。


「マックス。一応念のために言っておくけど、普通女の子に許可なく抱きついたら、捕まる覚悟はしといてよ? それに関しては私、保釈の便宜は図らないから」

「他所ではしねーよ!」


 本気とイジワル半々の忠告に、マックスもいつもの調子で言い返す。私、セクハラ野郎には厳しいからね!


「お前は無神経すぎる!」

「あんたを犯罪者にしないために心を鬼にしてるんでしょ」


 すっかり元通りの空気。あの程度のことで、私たちの絆は揺らがない。


 喧嘩して気まずくなったりしてもすぐ仲直りできるのって、やっぱり姉弟だからなんじゃない? 私無神経か? でも、マックスが無理してたらすぐ分かるもん。

 昨日のはちょっと、不安とか疎外感とかが爆発しちゃった感じなんだと思う。あと、自分じゃなくてキアランが一緒にいたことへのヤキモチか。

 吐き出しちゃえば大丈夫だ。公爵血統はメンタルも図太いから。負けず嫌いなのは、場合によっては困りモノだけど。


 1日遅れで教室に顔を出せば、いつもの仲間が2週間ぶりの笑顔を見せてくれた。


「おはよう、グラディス。一昨日は大変だったみたいだね」


 ノアが早速その話題に触れてくる。


「ビックリしましたよ! 大丈夫だったんですか?」

「すごく巨大な多頭の犬型だったそうね。見たかったわ」


 ユーカとヴァイオラも、顔を見るなり話に加わる。学園の方でも、夏祭りの一件で持ちきりらしい。


「昨日より、追及が厳しいかもしれないぞ」


 すでに根掘り葉掘りされてたらしいキアランが、お手上げと言いたそう。冗談にしても、国より厳しい追及って。


 ちょうどいい。情報通に、事件がどの程度広がってるのか訊いてみよう。


「学園ではその辺、どういう話になってるの?」


 私の質問に、ノアがおかしそうに答える。


「あはは。キアランとグラディスがデート中に、森林公園の魔物出現事件に遭遇したって感じかな。昨日二人そろって休んだから、余計信憑性高くなっちゃたよね。昨日は僕もマクシミリアンも周りに色々聞かれて、適当に誤魔化すのに大変だったよ」

「ああ、なるほど」


 それでマックスが拗ねちゃったわけか。


 それにしても、なんでデートしてたことになってんの? あの場にいて私たちの身元を把握してたのって、ほぼ騎士団の連中じゃない。


 道理で、現場での視線が痛かったわけだ。


 想定外のバケモノと命懸けで戦ってる横で、イチャついてるとでも思われてたのかね。

 そりゃ、腹も立つだろうけど。

 だけどあの場の一切は、箝口令が敷かれてたんじゃなかったっけ? 何で情報出回ってんの? ハライセ? ハライセなのか? リア充爆ぜろってやつか?

 実際は鉢合わせただけなのに、濡れ衣ばかり着せられるキアランがなんとも不憫だ。

 祭り会場の巡回なんて、若い下っ端だらけだから、可能性は高いぞ。騎士団の統制、大丈夫か?


「じゃあ、魔物の詳細については?」

「先に見つかった大物を仕留めて、一般人の避難の誘導が終わったところで、後からもう一体小物が現れて、すぐ処分したってとこかな? 小物についての詳細は、どこにも出てこないね」


 含みのあるノアの返答は、新聞の公式発表とほとんど同じだ。情報の封鎖はうまくいったらしい。実際には小物どころか馬鹿強くて、あっさり逃げられたわけだけど。


 さすがに人型魔物については、完全に機密が守られているようで一安心だ。でもやっぱり、ちょっと王子のプライバシー、ナメられ過ぎなんじゃないの?


 私たちだって何を訊かれても、機密情報だから聞かれても答えられない。ノアとかはある程度の情報は知っていそうだ。マックスは身内だから、叔父様と一緒に説明はしたけど、ホントはダメだったのかも。


 ただ、相当大きな問題だから、当分機密にしたのは分かるけど、現実問題として、私と同じ顔した魔物が暗躍してる事実は、何らかの形で公表が必要なんじゃないのかなあ? 個人的な感傷はないけど、安全や防犯上で。マックスは、誰も間違わないって保証してくれてるけど、自分ではよく分からない。そもそもマックス、実物見てないじゃん。


 まあ、確実なのは、これからは私設護衛団に続いて、国からも監視が付くってことか。

 私の方を確実に捕捉しておけば、それ以外が出れば即敵ってことだもんな。


 ――ああ、ますますめんどくさい。


 いやいや、せっかく学園に来てるんだから、楽しいことを考えないと損だな。

 次の学園イベントに向けて、情報収集と準備にでも取り掛かりたいところなんだけどな。


 なんて思ってても、やっぱり騎士の多い学園では、類例が5年前の『アリ』くらいしかない特殊な巨大魔物の出現に、関心が集中してしまうのは無理がなかった。

 私とマックス、キアラン、ノアくらいしか、学園では『アリ』の目撃者はいないはず。あとアーネストも、トリスタンを追うクエンティンを更に追いかけて、遠くからチラッと見たらしいけど。ティルダは出棺で離れたままだったそうだ。


 押しの強いガイ一派なんかは、わざわざ教室まで押しかけて、詳しい話を聞き出そうとしてきた。


「悪いけど、私もぜんぜん見ていないの。広場に集まって、騎士の戦いが終わるのを待っていただけだし、戦闘はアスレチックの奥の方だったから、音しか聞こえなかったわ」


 何を訊かれても、大体こんな感じの返事しかしなかった。みんな大物の方ばかり目が行って、後から出てきて簡単に倒されたという()()には注目してないから、ほぼ嘘はない。私がケルベロスもどきを見たのは、脳内でだもん。現実ではまったく見てないのは事実だ。


 ついでに、キアランと一緒にいたのは、偶然会っただけの一点張りで応じた。こっちも事実だし。


 ひたすらそれで押し通してたから、大体今日1日で質問攻勢も落ち着いた。


 これで、明日から学園行事の準備に専念できそうだ。

200話です。感想ありがとうございます。参考にしつつ、質問疑問については、できるだけ作品の中で回答を盛り込めたらと思います。

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