宣伝
まずはデニム素材のガウチョパンツから、様子見。上は抑えめにシンプルなカットソーにして、下に目が行くようにする。
やっぱり素材もデザインも物珍しいらしく、その辺を歩いてるだけで、早速人目を集めた。私に連れ添う秘書のクレアが、すかさずバッグから、別の見本も取り出して、営業トークを開始する。
目の早い商売人や、街のオシャレさんから色々な意見が聞けたりで、かなり参考になる。
更には順調に、何件か商談にも持ち込めた。メンズ物としてなら、きっと今すぐにでも売れそうな手応えを感じる。そっちは後日に回して、うちの交渉専門部署に任せるけど。
あとでユーカにもプレゼントしてやるかな。
あの子も相当目立つ存在だから、宣伝要員にちょうどいい。権力のある人間がひしめいてる場所で、誰かの目に留まれば、それだけでひと商売に繋がるはずだよね。
ジャージをありがたがる子だから、きっと何の疑問もなく喜ぶだろう。王城をTシャツ・ジーンズで闊歩する姿を想像すると、ちょっと笑えるし。是非やらかしてもらいたい。
次に選んだ衣装はもう一歩進めて、オールインワンにチャレンジ。これもまた、どういう構造なんだと、次々人だかりができて、質問が飛んでくる。
隣でクレアが、勢いに乗ってガンガン商売の交渉して、スケジュール帳が見る間にアポイントで埋っていく。すごい頼もしい。
お祭り面白いわ。普段だったら、目立てば目立つだけ遠巻きにされるだけで、絶対こんな風にならないもん。この浮かれた空気が作用するのか? 夏祭り、サイコー!
それからも、定期的に衣装チェンジをしては、出店でお買い物やゲームをしたり、食べ歩きをしたりする。
今回はデニムの売込みでもあるから、パンツだけでなく、前ボタンのワンピースにしたり、タイトなスリット入りのロングスカートにしたりで、デニム縛りでもなかなか変化があって面白い。なんか、普通に日本で着てた服みたいだ。
まさに一人ファッションショー。いつも自分の部屋でしかできないから、人前でやれて超楽しいです。
もちろんお仕事の一環だから、人目を引き付けるような言動を意識するのも忘れずに。
街に溢れるどんなパフォーマーよりも目立ち倒してやるぜと、気合を入れ直す。
というのも、お祭りの常というべきか、ここぞとばかりにおかしなコスプレをした人もうじゃうじゃ溢れてて、ライバルは多いのだ。
さっきドレス着た髭面のおっさんとすれ違ったし。
だからこそ私も今日だけは、どんな衣装でも周りから浮かずにいられるんだけど。
ハロウィンほどじゃないけど、もはや文化祭のノリに近い。頭に斧を叩き込まれた扮装は、やっぱりこの世界でも鉄板だな。
目立ち方でちょっと負けてる!? いや、でもさすがにイロモノには、なかなかかなうものではありませんよ?
仕事の実務部分はできる秘書にほぼお任せし、とにかく私は街ブラでひたすら祭りを楽しみまくった。
遊びなら、仕事以上に疲れ知らずなのだ!
でも、気心の知れた仕事仲間でもいいんだけど、どうせ夏祭りを一緒に回るなら、やっぱり友達がよかったなあ。
そこは少し残念だ。
明日学園で会えるけど、夏祭りとかの特別感は別格だもん。
みんなも最終日の今日まで、修行やらなんやらで忙しくしてるのかなあ。マックスは今夜遅く帰ってくる予定だから、夕食はご馳走を指示している。
私は祭りで食べ歩きするから、一緒には食べないけどね。
そして陽も傾いてきたところで、最後の衣装にお着換え。
バストより下がふんわり広がる、フェミニンなシャーリングキャミソール。
いやいや、肩ひもは太めのレースで、肩口でリボンを結んでるから、キャミソール程の露出はありませんよ! せいぜいノースリーブ程度ですから! と、ここにはいない叔父様に言い訳して、最後くらいは着てやるのだ。
自分が着たくて作ってるのに、なんだかんだで私、人に着せるばかりで、自分が着る機会がなかなかない。手に届くとこにあるのに着れないとなると、余計に憧れと欲望が募るばかりだよ。叔父様ジャッジは厳しすぎるんだ!
上がふんわりな分、下は対照的にスッキリとスキニージーンズ。このデザインも、ここでは珍しい。
もうそれほど歩き回る予定もないから、靴は驚異のヒール高13センチのプラットフォーム! どんだけ足長いんだよ、ってくらいの仕上がり!
もはやスーパーモデル並みの身長で、並みの男なら見下ろす勢いだ。
目新しいパンツスタイルの長身美少女。これは超目立ちますよ!!
「素晴らしいです! 今日一番に目立ってます!」
クレアも真正面から大絶賛だ。凡人には履きこなせませんけどね、とも続いたけど。
そこはまあ、私も前世で経験あるから分かる。
モデルさんが素敵に着こなす服や靴に憧れてうっかり試着したって、それは最早別物なのだ。それでも購入を強行すれば、後悔必至、恐怖の呪物的アイテム!
腹は立つのに捨てられないまま、お前なに勘違いしてんだよ、って幻聴を脳内で聞く羽目になるのだ。
そもそもこんな靴、日常では私だってとても履いてられないし。あくまで宣伝のためのもの。ファッションショーのランウェイみたいなもんでしょ。
今日の目的はとにかく人の印象に残ることだから、そこは売る側としての確信犯だね。
そしていざ、今日最後の出陣!
それはもう想定通りの注目を浴び倒すことができたので、仕事的にも個人的にも満足です。
厚底の靴で花魁のごとく街を練り歩き、日も沈んだら業務時間終了。クレアとも仕事の成果を喜びあって、解散となった。
あとはお楽しみ、プライベートの時間。
夏祭りの本番は夜だからな! 一人でもきっちり楽しんでやらあ! ――寂しくなんかないぞ!!
その服のままで、まずはイベント系が行われる森林公園に向かった。
前にアレクシスとのおしゃべりで、この夏祭りに出ることを話したら、花火見物のベストポジションを教えてもらった。
昔、人目を忍んでエリアスとデートした場所だそうだ。国王夫妻もきっちり青春してますなあ。当時の私はすでにお局状態だったのに。
花火が始まるまでは、参加者が楽しむダンスタイムとかがあるらしい。
私がいつもやってるきっちりしたやつじゃなくて、気軽な土着の踊りみたいなやつかな?
あまり庶民的な踊りは知らないんだけど、それはそれで楽しそう。大昔、盆踊りと見れば、張り切って飛び入り参加したもんだ。
一人の私でも、中に入れるといいな。
そこでふと、覚えのある気配を感じた。
振り向いて、同時に目が合う。
人混みの向こうに、一般人に紛れた装いをしたキアランがいた。