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夏祭り

 夏季休暇の最終日は、世間的にも休日。毎年恒例の夏祭りが開催されていた。


 街では、朝から陽気な賑わいが続いている。

 王都庶民の、年に一度のお楽しみ。お祭り好きな貴族も普通に、あるいはお忍びで参加し、この日ばかりは、街中が無礼講の様相となる。


 この前おちびたちと遊んだ国立森林公園での特設ステージなんかでは、歌やダンスやお芝居の各種イベントに、出し物、出店も様々で、テンションが超上がる。


 今日の街はどこも、商売人にとっては稼ぎ時。

 私もこれまでは見物人として遊びに来ることがあったけど、今年はお仕事としての参加だ。でも残念どころか、むしろ内容的には相当楽しい。


 うちも『インパクト』として、夏祭りに協賛しているのだ。

 うちで提唱する最新ファッションに身を包んだ社員や臨時雇いが、出店や商工会企画のお手伝いに励みつつ、宣伝活動に勤しんでいる。


 『インパクト』最大の広告塔である私も、自社製品を纏って目立ち倒すのが、今日の役割! おススメの衣装を纏う、動くマネキンだ!


 ということで、仕事にかこつけて、おしゃれをしつつお祭りを目いっぱい楽しんでやるのだ! どうせ物珍しい服着て人混み歩いてりゃ、勝手に目立つからな。


 今日だけは仕事の性格上、見える護衛はキャンセル。

 人目を惹きたいのに、後ろの護衛に視線を奪われたり怯えられたりじゃ、営業妨害だもん。もちろん近くで目立たないように立ち回ってるはずだから、何かあればすぐ出てくるけどね。


 まあ明るいうちは、自治組織の街のおっちゃんおばちゃんたちの目が光ってるから、そうそうおかしなことにはならないでしょ。

 騎士団の警備や巡回も、祭りの間はいつも以上に強化されるしね。


 護衛の代わりに、同じく目立つ装いをした秘書のクレアと、今日は女二人連れでの行動をしている。

 私が目立って人を集め、クレアが実務でそれをさばく役割分担。

 初めての試みだから、どれだけ売り上げに繋がるかも楽しみだ。いつもの上流階級相手の気取った雰囲気じゃなくて、街の人たちとの気さくなやり取りも、たまには面白い。むしろ私は、もともとこっち寄りの人間だし。


 スタッフに着せた服は、私やユーカの目にはごく普通に見えても、この世界の人たちにはすごく変わって見えるらしいのはいつものこと。

 できるだけ人目に触れさせて、順調に世間に慣らすのに、祭りの非日常間感の空気はちょうどいい。


 今年売り出したキャミソールやミニスカは、目論見通り街の若い女の子にじわじわと広まり、徐々に庶民層で市民権を得つつある。受け入れやすいように、生地面積も多目で厚手。様子を見ながら徐々に、私の知ってる形に変えていく予定。

 そこかしこでも、さっきから着ている子をちらほら見かける。大量生産に加え、従来の服より布地が少ない分、お財布にも優しいしね。

 今回サロメが着てた大胆ドレスの反応が良くて、すでに上流階級からも、次のシーズン用に注文が来ている。ホルターネックやオフショルダーが次の社交の場では見られるはずだ。


 この調子なら、もう数年のうちには、常識やタブーを考えないで、自由なデザインを世に出せるようになるんじゃないかなあ。


 ともかく、ひとつの目標にようやく手が届いた気分で、実に感慨深いですなあ。


 かつて、思春期真っ盛りの中学生時代、試着室で着たキャミソールのあまりの似合わなさに愕然として以来、早70数年。頑張った甲斐あって、なんとか私が着れる若いうちに間に合ったぞ! ――なんか文として変な気がする。


 だけどもやっぱり今回も、街歩きに関しては、叔父様から当然のように露出禁止令が出ている。

 作っても作っても、私が着れないのは何なの!? 今更ガッカリなんてしないけどね!!


 とにかくキャミソールやミニスカは他のスタッフに任せて、今日はパンツスタイルに専念だ。私にとっての、もう一つのゴールでもあるから、別にいいもん。


 ここの一般女性は、普段着にズボンを穿かない。戦う女性も、戦闘服や訓練着とはきっちり分けてるし。せいぜい制服までが許容範囲。


 あくまで実用で、おしゃれなイメージがないんだよね。

 女性が着ても、普通に労働者用の作業服としか思われないし、先入観を変えるのがなかなか難しい。その上、布地も製作の工程も多い分、価格が高くなるし、あえて女性が選ばない。


 スカート風のワイドパンツとかで、これまでもちょろちょろ世間の反応を見てきたけど、どうも芳しいとは言えない。でもスカンツとかキュロットは、ほぼスカートに見える分意外と受けがいい。


 ザカライア時代から思ってたけど、この国で社会的にいまいち認められてない女性の二大ファッションが、露出とズボンだった。


 今までは、この社会には馴染みの薄い露出系を、まず当たり前にすることに主眼を置いてきた。

 結果、10年かけてようやく目途が立ちつつある。


 でもそのせいで、ある意味逆を行くパンツスタイルは、気にはかけつつも、二の次になっていた。

 そろそろ次の啓蒙に勤しんでもいい時期に来てるんじゃないかと思う。また新たな目標を決めて、一歩一歩コツコツとね。


 ファッションの幅を前前世並みにして、いずれ着たい服を自由に着れるようにしたいなあ。


 そして何より、パンツスタイルの売り出しに、本格的に舵を切る決断をした最大の理由。


 なんと、去年ついに満足のいくデニム生地の開発に成功したのだ! 染めもバッチリ。ファスナーもあるし、ジーンズはやっぱり欲しいところでしょう!

 

 今までどこにも存在しなかったものをいきなり出せば、全く新しいイメージで、世間に受け入れられるんじゃないだろうか。新しもの好きの若者に、是非期待したいところだ。

 そこをとっかかりにして、女性にも広めていけたらいいなあ。まあダメでも、素材として優れてるから、応用の幅は広いしね。


 この半年はデニムの商品開発にも力を入れ、自宅では私自身もモニターを務めてきた。

 その一連の商品を、次の秋冬から出す予定になってる。


 今日はその先行発表の場とも言える。私の注目度の高さを目いっぱい利用し、今日はデニム中心で宣伝をかますのだ。


 もちろんそれに合うシューズも、フェミニンからスポーティーまで、抜かりなく取り揃えているから、話題性は更に高い。


 ここで人目をガンガン集めて、まずは世間の反応を確かめてみよう。

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