表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

189/378

来客

 今日は、2ヶ月も前から楽しみにしていたお客様が来る。


 朝からウキウキしすぎて、叔父様に笑われたくらい浮かれてしまっている。

 家で出来る仕事に専念し、その到着を今か今かと待ちわびていた。


 来た!


 まだ我が家の門にも届いていないのに、待ちきれなくてつい玄関の外に飛び出した。


 外でうろうろとしばらく待っていると、数分後、護衛の騎馬を引き連れた馬車がやってきた。


「ロレイン! クリス! お義母様! いらっしゃい!! お待ちしてました!!」


 馬車から出てきたお客様に、飛びつく勢いで駆け寄る。

 マックスと入れ替わりに、この3人がうちに来てくれた。ある意味ハンター家と同じ方式だ。


 子育てが一段落して、そこそこ動けるようになったため、今年からイーニッドも社交に顔を出すことになっている。その準備をしに来たのだ。

 王都が初めてになる双子ちゃんを連れて。


 馬車から降りたロレインとクリスが、出迎えた私の顔を見るなり、ぱあっと満面の笑顔を浮かべる。


 うおおうっ、可愛いぞ! 着てる服は当然大量に送り付けた『ティエン・シー』の製品。愛らしさが際立っている!


 今が一番可愛い!!! って時期を幼児期いっぱい――いや更にその先まで維持し続けるんだから、子供って一粒で何回美味しい生き物ですか!!? 会う度に可愛すぎる!!!

 おおおっ、今が一番可愛いぞおおっ!!!


「ロレイン、クリス、姉さまよ。覚えてる?」


 2歳半になった双子が、とてとてと駆け寄って両脇から抱き付いてきた。


「ねーたま」

「ねーたま」


 ぶっちゃけ覚えてるわけもないのに、何回かしか会ったことのない私が、やっぱり大好きらしい。先を争って甘えてくる。


 おおうっ、可愛い、柔らかい! ここでマックスに差を付けてやる!!


「グラディス、しばらくお世話になるわね」

「はい、お義母様。子守は任せてください!」


 張り切って、みんなを案内した。

 今日は、同行してきたナニーたちの仕事を奪う勢いで、全力で構い倒してやるのだ!

 服だって、カットソーにワイドパンツ、スリッポン。髪も編み込んで、やる気満々。


 長旅をしてきたお疲れの大人たちには、今日の所はうちでゆっくりしてもらって、明日からお店巡りになる。


 とりあえずドレスのデザインに関しては、我が家で私が必要なところを全部片付けちゃう予定。滞在期間が4日間しかないから結構強行スケジュールにしてる。


 もっとゆっくりしていけばいいのに、マックスはともかくトリスタンを野放しにしておくのが、大分心配らしい。――まあ、帰ってから、やらかしの後始末をするのはイーニッドになるもんなあ。


 たまには王都で、優雅に羽を伸ばしていってもらいたいとこだ。


 馬車で昼寝して元気いっぱいの双子を連れて、まずは庭遊びに行く。うちの使用人達に、持参のおもちゃを持ってきてもらう。


 中に、キックボードがあった。私にとってはある意味苦い記憶になる発明品だけど、物自体に罪はない。すでにそこそこ普及して市民権得ちゃってるし。


 かつて私も子供の頃、マックスと一緒に乗り回したものだ。舗装の未発達なこの世界では、私にはなかなかハードルの高い代物。

 果たして2歳児に乗りこなせるものなのかな?


「これ、乗れるの?」


 手に取って訊く私に、おちびたちが自慢げに答える。


「のる~」

「じょうず~」


 二人は、前にクリス、後ろにロレインが乗り、ワクワク見守る私の目の前で、いきなりロケットスタートでぶっ飛び出した。


「えっ!?」


 後ろのロレインが風魔法全開で加速し、前のクリスが騎士の反射神経で、目の前に現れる障害物を見事に避けて舵とバランスを取ってる。


 うちの暴走天使たち、スゲエ!! 天才だ!! やっぱりトリスタンの血ですか!? でも敷地外でやっちゃダメですよ!!


 うちの使用人たちが、あまりの出来事にアワアワしてるけど、全然大丈夫だ。危なげなく使いこなしてる。領地から付いてきたお供の人たちは、平然としてるし。


 これがこの子たちの日常かあ。田舎でのびのび育ってる感じで、楽しそうだなあ。私も一緒に乗れればいいのに。

 私の前を通り過ぎる二人は、これでもかというドヤ顔だ。可愛い~~~~っ!!!


 と思ったら、しばらくぶっ飛ばしていた二人が、そろってしょんぼり萎れて戻ってきた。


「どうしたの?」


 ボードから降りたものの、お互いに引っ付いたまま、モジモジして答えない。


 はい、おもらしですね。はしゃぎすぎちゃったね。


「おうち戻ろっか」


 二人は揃ってこくんと頷いた。

 ああ、やっぱり可愛い~。

 そんな様子すら萌えるんだから、とんでもない最終兵器だ。


 ひとまず外遊びは切り上げて、おむつ替えタイムに屋敷に戻った。


 戻ったついでに、おやつにする。

 領地では食べられないだろう珍しいお菓子を、山ほど取りそろえた。

 うちには親戚は山ほどいても、祖父母はいないから、私が甘やかすおばあちゃん役をやるのだ。毎日はダメだけど、今日だけ特別だぞ。


 仕事しかできないダメ親父と、家族を支えるしっかり者の母ちゃん、子供4人って、よく考えたら、うちってすごく古き良き昭和な家庭だな。


 『パティスリー・アヤカ』が流行らせた故郷の洋菓子は、ここ数年で、割とどこでも手に入るようになってきた。この世界、権利関係は大分甘いから、一度注目を浴びればあっという間に広まる。

 着たい服を流行らせたい私としては、そう悪いことでもない。商売的には、ファストファッションの方式になりつつある。お値段は高めの設定だけど。


 双子ちゃんは目を輝かせて、気になるお菓子に片っ端から手を出していった。よし気合を入れて頑張れ。イーニッドがいない今のうちがチャンスだぞ!


 お腹がいっぱいになってきたら、疲れもあってうとうとし始めてきたから、大急ぎでお風呂に入れて、ベッドに放り込んだ。

 今日はこれで電池切れだ。


 客間の大きなベッドに、ちょこんと並んで眠る二人を、しばらくじっくり鑑賞してから、あとはナニーに任せて部屋に戻った。


 こういうの、普通だったら何もない穏やかな家族との1日ってやつになるんだろうなあ。私には、ごくたまにある貴重で新鮮な体験、ってことになっちゃうけど。


 さて、残った仕事に取り掛かろう。また着せたい子供服のイメージが、溢れてきたぞ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ