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交流会

 帰ってからの家族会議は、結論から言うと、穏やかに終わった。


 さすがに叔父様というべきか、これまでの私の言動や状況証拠から、私が異世界からの転生者であることや、生贄対象に含まれているであろうことも、予測していたそうだ。

 そりゃ、そうか。ノアにも分かったんだし。


「君の日常生活に差し障らないよう勝手に護衛するから、いつも通り自由にしていればいいよ」


 そういって叔父様は笑ってくれた。

 護衛を付けているとは聞いてたけど、すでにダース単位でずっと私に張り付いてました、ハイ。


 予言なしとはいえ、私に察知させないなんて、相当な腕利きだよ? 私のイメージ的には、護衛騎士というより、完全にストーカー忍者なんですど。

 おかげで叔父様の配慮通り、日常を気にせず送れてたけど、知っちゃうとちょっと別の意味で怖い。今度外に出たら、何人いるか全力で感知してみよう。


 あと真面目に、キアランの護衛団との顔合わせは必要かもしれない。街中でいきなり正体不明勢力(アンノウン)と遭遇戦とか、ヤバ過ぎる。


 マックスは翌日の早朝から領地へと発ち、私も今日から早速仕事に専念することになった結果、早速ちょっと残念な事態となった。


「君が仕事の上ではっきり会社の広告塔として振る舞う以上、その装いは受け入れよう。だから、君も少しだけ我慢してね?」


 出かける前に叔父様に釘を刺される。


「――はい……行ってきます」


 私は、内心不承不承ながらも受け入れ、屋敷を出る。


 10年に渡る活動の総決算として、ついに今年、満を持してのキャミソールとミニスカートを投入したのだ。

 王都の新し物好きの若い女性を中心に、すでに話題を呼んでいる。いきなりミニスカはハードルが高いという女子用に、スカパンも取り揃えている。中にパンツが付いてるやつだ。今夏は短めのキュロットの売り上げがいいから、それで慣らして、いつかはショートパンツも出してみたい。


 そう、とにかくここで私が着ない手はないのだ!


 昔の日本でもそうだったらしいけど、最初は衝撃的だったミニスカートを、当たり前の感覚のものにするつもり。そのためにアパレル社長になったと言っても過言ではない。奇異の目でなく、憧れの目で見られるファッションにするのだ。

 まあ、結局ファッションなんて自己満足のものなんだけど、ある程度は受け入れられる土壌がないと、自分が楽しんで着れないもん。


 だからこれから2週間、私が着る予定の服は、この国の感覚からいうと明らかに露出過多なものばかりになる。

 『インパクト』のオーナーとして、『マダム・サロメ』の広告塔として、人前に出る時は、大胆に着こなして超目立ってやるのだ。


 渋々認めてくれた叔父様の交換条件は、必ず騎士の護衛を傍らに待機させること。ストーカー忍者は抑止力にはならないけど、ゴツイSPは、傍で睨みを効かせるだけでトラブル回避になる。


 そういうわけでこれから外出中は、ピタリと騎士一人が背後霊のように張り付くことになった。


 秘書とかなら常時一緒でも、楽しくお喋りもできるのに、SPだとそうもいかない。無言で威圧感を放ちながら片時も傍から離れない人間って、地味にストレス。ザカライア時代にはよく撒いてやったものだ。


 これをずっと受け入れてるユーカは偉い。安全が担保されるんだから、空気だと思って私も我慢しよう。


 馬車の中は私一人なのに、実際の護衛は冗談抜きで1ダース。今まさに気配を消した忍者集団が、私を見守りながら街中をフリーランニングしてるのかと想像すると、ちょっと笑えるな。


 今日は王都内の経営者の交流会を目的としたちょっとした立食パーティーがある。パーティーや会合時はマダム・サロメのドレス、普段着としてはインパクトと大体使い分けてて、今日はドレスの方だ。


 馬車から降りると、当然のように、どこからともなく現れた騎士が後ろに付き従った。ずいぶん選りすぐったものだと感心するぐらいの強面、ゴリゴリのマッチョ。騎士の強さは見た目に反映されないんだけど、一般人相手なら委縮するレベルだ。

 悪い虫どころか、商談相手までビビらせる勢いなんだけど。


 会場に足を踏み出せば、注目を浴びるのはいつものこと。

 今日は、オフショルダーの藤色のワンピース。スカートは膝下のフレアで、ここ数年で大分世間に慣らしてきた程度の露出に抑えている。襟ぐりと裾に花のモチーフを散らして、セクシーよりは可憐風味。

 ただしレースとオーガンジーを最大限駆使して、胸元から太ももまでの際どい部分以外はスケスケ仕様。叔父様も真っ青の仕上がりになっていたりする。


「グラディスちゃ~ん。早速会場の視線を独り占めね~。私も鼻が高いわあ」


 ひと足先に来ていたサロメが、すぐに私の元にやってきた。妖艶なマーメイドラインに攻めのワンショルダー、真っ赤なドレスのゴージャスな美人だ。誰もおっさんだとは思うまい。毎度思うけど、あのおっぱいはどう作っているんだろう?


「グラディスちゃんがうちのドレスを着てあちこちに顔を出してくれるのが、一番の販促なのよ」


 会場の視線を二人占めする意図だな? 露出度高めの斬新な衣装で語らう美女と美少女――これは超目立ちますよ。すぐに察知して対応する。


「ふふふ。私もそのつもりだから。それはお互い様だしね。これからジャンジャン着倒すよ」


 金に飽かして熟練の職人を揃えた第2工場稼働以来、マダム・サロメのプレタポルテは今のところうちが独占している。マダム・サロメが売れれば、うちも比例してウハウハなのだ。更に私の流行らせたい服も世間に溢れる結果に繋がり、一石三鳥だ。


 その逆に、『インパクト』発の、デザインが伴った実用的ランジェリーも、マダム・サロメの方で高級品質のものが上流階級に大好評。完全に二人三脚態勢が出来上がっている。


「素敵なドレスね?」


 中央で注目を浴びながら会話を続けていれば、すぐに目敏い御婦人方が集まってくる。商売人だらけのこの会場、目新しいものにすぐ様飛びついてくるのは予定通りだ。


 更に仕事関係だけでなく、招待客の奥方ご息女も含めて、興味を持った女性たちがわらわら集まってくる。


 素晴らしい入れ食い状態。サロメと視線を合わせて、心の中でハイタッチだ。


 さすがの強面SPも、オバちゃんの群れにはかなわない。後ろに下がるように目配せすると、見た目には分からないレベルでほっとしていた。ご苦労さんです。基本君の仕事はセクハラ防止だから、今はいらないしね。仮にこの場でおかしな虫が湧こうものなら、オバちゃんたちがフルボッコだよ。


「とても素敵だけど、私には着こなせそうにないわね」

「ヒップの豊かさをカバーできないものかしら?」

「体のラインにぴったりのドレスに憧れるのだけど、着る勇気が出なくて」

「うちの娘には、どんなドレスが似合うと思う?」


 次々と御婦人方から持ちかけられる相談を、私とサロメのタッグで着実にさばいていく。更に個別に似合うお勧めのデザインを提案し、しっかりと商談や予約も取り付ける。


 普段学園でティーンエイジャーに囲まれて学生をやってる身としては、押しの強いオバちゃまたちの相手はなかなか手強くて面白かった。そもそも生きてる年数だけなら、こっちの方が近いしね。値踏みはしてきても、怖がられることがなくて、のびのびと渡り合える。


 この日だけで、大きな取り引きをいくつもまとめた。

 確かに私たちが人前に立つのが最大の販促だと、実感した一日でした。 

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