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公表

 トロイたちと別れ、荷物を取りに教室に戻る。


 余計な道草に時間を食ったせいで、もう教室は空っぽだろうと思ってたら、いつものメンバーがなぜか勢ぞろいしていた。


 キアラン、マックス、ノア、ユーカ、ヴァイオラ。みんなそれぞれ忙しいはずなのに、まさか私を待ってたのかな?


「どうしたの?」

「情報のすり合わせですよ」


 代表して、ユーカが答えた。


 情報のすり合わせ? 何の?


「言い出しっぺは私なので、はっきり言います。この前の武闘大会の時、思いました。グラディスは、一人で抱え過ぎです。あの黒い瘴気のせいで裏で大騒ぎになってたことを後で知って、ビックリしました。話せることだけでいいんです。私たちを頼ってください。できることなら何でもするし、秘密も必ず守ります」

「――!!」


 ユーカが真剣な眼差しで、言い切った。

 思ってもいなかった申し入れに、言葉が出ない。無言で、一同を見回す。

 

「みんな心配している。2週間もお前を放置したら、また一人で何か無茶をするんじゃないかと」


 キアランが続けて言った。


「言っとくけど、誰も君の秘密は勝手に漏らしてないよ。多分それぞれに、掴んでる情報があるんだろうけど、君の許可がない限りはね」


 そう言うノアは、きっと謎の情報網でいろいろと掴んでるんだろう。


「私は特に何も掴んでないけど、武闘大会で私のデビュー戦がつつがなく終われたことには感謝してるわ」


 悪戯っぽく笑うヴァイオラ。魔物召喚の阻止に私が絡んでる情報は、掴んでるってことだね。


「このメンツだったら、誰を頼っても、俺は納得するぞ?」


 マックスが少し諦め気味の表情で、それでもお勧めしてくれた。この前、頼る人間を選べって叱られたもんね。


「理由が言えないならそれでも構いません。ただ、私たちにできることがあったら、ちゃんと言ってください。この前みたいに、一人でいなくならないでください」


 最後にまたユーカが、全員の総意を伝える。


「――――」


 いつもなら適当に誤魔化すところなのに、なんか、言葉が出て来ない。

 みんな私のために集まって、身を案じて相談してくれてたんだ。


 全部はまだ言えない。アイザックやエイダと、情報開示のレベルは相談しないといけない。


 ――でも……。


「うん、そうだね。この前のは、ホントはちょっとヤバかったんだ。次からは、ちゃんと頼るから」


 せめて私の安全に関わることは、できる限り相談しよう。


 込み上がる熱さを胸に感じながら、ありがたく厚意と友情を受け入れる。

 ああ、ヤバイ。ちょっと泣きそう。


 私が頷いたのを受けて、マックスの表情がいくらか険しくなる。


「で、今の懸案事項だけど、お前、またあのナンパ野郎とさっきまで話し込んでたらしいな」


 唐突に飛んだ話に、出かけた涙も思わず引っ込んだ。


 何その情報の速さ。ついさっきのことなのに、なんで私が戻るより先に、教室のあんたに届いてんの?

 見回すと、すでにみんな知ってるらしい顔。


 ――私どんだけ噂のネタになってんだ!?


「ああいう輩はもれなくあしらうお前が、なんであいつは特別扱いなんだ? 何か弱味でも握られてるんじゃないか?」


 その追及は、当たらずとも遠からずと言ったとこで、はっきりと否定し損ねた。


「――おい、マジか!?」


 否定しなければ肯定と同じ。数秒の微妙な間で、マックスが目を剥いた。他のみんなもざわついている。


 ああ~、つい嬉しさで油断して、言い逃れに失敗した。


「あっ!?」


 ユーカだけが、一人思い当たったように叫んだ。――気が付いたか。


 日本人転生者であることは明かしてるし、ユーカの持っている情報で推測もできちゃうよな。あれだけ故郷のファッションを流行らせてれば、トロイにも私のルーツが見抜かれてしまっていることは。


 何より私としては、子供の頃の彼を知っているという特殊な事情もある。他のご同類の輩のように、ハナから完全シャットアウトとまではし難い心情も、確かにあった。これも弱味と言えば弱味なんだろう。


 仲間に注目され、ユーカが困ったように、私の反応をうかがう。「ナイショ」と約束した通り、ユーカは誰にも私の秘密を漏らしてはいないようだ。


 そのテンパった様子に、思わず苦笑してしまった。

 

「いいよ、ユーカ。自分で話す。ここのみんなは、秘密を守るんでしょ?」

「はい!」


 あからさまにほっとした顔で、ユーカが頷いた。


「私もね、ユーカやトロイと同じ世界からの、転生者なんだ」


 注目を浴びながら、大したことでもないように公表する。そういえばアイザックの時も、飲み明かしながら、サラリと告げたんだっけ。確かあっさりスルーされたなあ。


 実際、その情報までなら、仮に世間にバレたとしても、人生が狂うほどの大事にはならない。せいぜいトロイのように、日常生活が少しだけ煩わしくなる程度だろう。なんならうちの家族の鉄壁ガードで、何の影響もないかもしれない。


 とにかく中間のザカライア時代のことさえすっ飛ばしておけば、なんとかなるはずだ。


「はあああ~~~っっ!!?」


 それでも、さすがにみんな予想外の告白ではあったらしい。それぞれ大なり小なり、驚きのリアクション。


「私が普段作って着てる服って、向こうのファッションなんだよね。ねえ、ユーカ」

「はい。『インパクト』の服は、向こうの服と同じなので、私も慣れてて着やすいです」


 ユーカが素直に頷く。


「それじゃ、出会った時とお前が変わったのは……」

「ああっ!?」


 キアランの呟きに、マックスもはっと気が付く。


「5年くらい前、お前いきなり雰囲気が変わったよな! まさか、あれって……」

「前世を思い出したせいだね」


 答え合わせをしてあげる。嘘は言ってない。二周目を黙ってるだけで。


「言ってくれればよかったのに!」

「まあ、混乱してたんだよ。いきなり異世界で子供になっちゃってたわけだし」

「前世は何歳で死んだの?」


 ノアが興味深そうに口を挟む。


「22歳。一応大人だよ」

「じゃあ、恋人はいた?」


 ヴァイオラも興味津々だ。


「残念ながら」


 トータル90年ほど独り身です。あ、マックスがほっとしてるような、落胆してるような。


「道理で、子ども扱いが過ぎるわけだよな。いやいや、これからが勝負だ」


 何やら気合を入れ直している。


「リアル見た目はコドモ、頭脳はオトナ、ですか。グラディスもなかなか大変でしたね」


 初めて聞く話に、ユーカも変な同情をする。


「まあ、そういうわけで、トロイには私が同郷の出身だってバレてるわけなんだよね。同じ立場の気安さでつい相手にしちゃうだけだから、そんなに心配しないでほしいんだけど」


 軽薄な女たらしに引っかかったなんて誤解は、人目を気にしない私でもさすがに癪に障る。


 せめて仲間内だけでも、理解してくれたら嬉しいかな。

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