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二周目の最期

 見た感じ、ずいぶん立派な馬車だった。こんな下町の裏道にはそぐわない。多分近道なんだろうけど、それにしても飛ばし過ぎだよ。


 そして急がされた馬は、雪に足を滑らせて、よけていた私を撥ねた。


 えええええええええええっ!!?


 思う間もなく私の体は宙を舞い、地面に激しく叩き付けられる。めちゃくちゃ痛くて苦しい。

 これダメなやつだ。ああ、アイザックとの会話はフラグだったのか、なんてどうでもいい考えが過ぎる。


 御者は馬車を止め、慌てて私の元に駆け寄った。


「だ、大丈夫ですか!?」


 いや、このザマで大丈夫だよと笑顔で立ち上がったら、あんた逆に引くでしょう。完全にゾンビだよ。


 息が苦しくて、まともに声も出せない。肺をやられてる。


 ああ、まだやることはたくさんあるはずなのに。

 私はここで終わるのか……。

 でも、なんとかエリアスの地盤だけは固め終えてて、よかった。


 独り身の一生ではあったけど、仲間にも教え子にも恵まれて、にぎやかでなかなかいい人生だったんじゃないかな。

 少なくとも1周目とは違って、やり遂げた感はちゃんとある。たくさんの人間を育てられた。生涯をささげられる仕事に巡り合えた。


 国王に次いで大預言者を失うとなると、しばらくはまた混乱が続くかな。でも、ちゃんと次の預言者も育ててるから。私の自慢の教え子たちだから、きっとなんとかなるだろう。


 私は自分で思ってたほどの憎まれっ子でもなかったらしい。

 あとは任せた。頑張れ、アイザック。お前が一番の憎まれっ子だ。


 苦しみの中で、しみじみと感傷に浸る。


「ちょっと、何をやっているの!?」


 後ろからヒステリックな怒声が聞こえた。馬車から着飾った少女が下りてくる。見惚れるほど美しい顔を歪めて、すごく怒ってる。


 ああ、そもそも君が急がせたんじゃないの? 全部使用人のせいにしちゃダメだよ?

 なんて考えたのは、私の勘違いだった。


「早く出しなさい! 劇が始まっちゃうわ!!」


 おおおおおおいぃぃぃっ!!!


 それで近道とばしてたんかい!? しかも轢き逃げ推奨かいっ!!?


 その瞬間、私の人生、最期の予言が降ってきた。


 美しく輝くプラチナブロンドの髪に、空のように澄んだ青い瞳。ああ、目の前の少女の未来か。


 1パターン目。

 少女が、赤い髪の青年にこっぴどくフラれている……って、おい!! 私の人生最期に、なんでお前の色恋沙汰なんか見せてくれてんだよ!!


 2パターン目。

 少女が、水色の髪の青年に冷淡にフラれている……またかい!? お前またフラれてるぞ!! いい加減にしろ!!


 3パターン目。

 少女が、金髪の青年に軽蔑の目でフラれている……ハイハイ、どんだけフラれる気ですか!? 


 4パターン目。

 少女が、銀髪の青年に……って、もういいよ!! そんだけ性格悪けりゃ、いくら美少女でも、ぶっちぎりでフラれるだろうよ!! ハイ、次っ!!


 5パターン目。

 少女が、黒いフードの男に殺される……はああああっ!? ちょっ、まっ、なっ……!!


 いやいやいや、最後のおかしいでしょ!? いきなり飛びすぎでしょ!? いくら性格が最悪でも、何も殺さんでもっ……。


 見たところ、まだ15~16の女の子だし、入学前の子? まだ、更生の余地はあるかな!? その運命は、自分の行い次第でいくらでも変えられるんだよ!?


 よし、ザカライア先生の最後の指導だ。派手に道化を演じてやろうじゃないか。


 私は、激痛の体に鞭打って立ち上がり、血だらけの顔を歪めながら笑った。


「……お待ち……。おまえ、に……非業の、死の呪いを、与え、よう……。これから、お前が罪を、重ねるごとに、呪い、は、積み重なって、いく……。やがて、もだえ苦しんで、死ぬ、だろ、う……」


 荒療治だね。もう時間がないから。いかにも優れた魔導士みたいな立派なローブ姿の女から、血まみれで呪われたら、さぞや恐ろしいことだろう。そもそも私に呪う力なんてないけどね。


 少女は悲鳴混じりに顔を引きつらせている。

 これで、悔い改められればいいんだけど。

 と思ったけど、少女は御者を怒鳴りつけて連れて行き、逃げるように馬車に乗り込んだ。

 そして誰にも知られないまま、馬車は慌ただしく走り出す。


 ――ダメだったか……?


 馬車の中ででも、反省しててくれてればまだ見込みはあるんだけど……。

 そのまま観劇に行くような人生を続けるなら、それまでだな……。


 ふと、トロイを思い出す。


 ――ああ、約束が果たせなくなった。熱中していた魔術の話を聞いてあげたかった。あの子の心を強く染め上げる故郷への執着を、思い出に変えてあげたかった。

 ゴメン。この世界で、強く生きてね……。


 そこで、意識が途切れた。



 ――そして、私の三周目が始まる。

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