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探索のエスコート

「ああ、やっぱり出てきてよかった。おかげで運命に出会えた」


 トロイは私の正面に立ち止まり、早速口説きモードだ。今それどころじゃないんだけど。


「ランドールさんだったかしら? 悪いけど、あなたに付き合っている暇はないのよ。今は忙しいから、また後にしてちょうだい」

「ああ、是非トロイと呼んでほしいなあ。グラディス」

「じゃあ、トロイ。もう試合が始まるわ。ほとんどの女性は会場にいるわよ。好きに選べばいいわ。私は医務室に行くところなのよ」


 邪険にする私に、にこやかな表情を少しも崩さず、聞き捨てならない言葉が返る。


「医務室? それはもしかして、黒い瘴気の件で気分でも悪くなったのかな?」

「っ!?」


 目を見開いた私に、トロイは飄々と続ける。


「闘技場から見えるよね~。僕これでも、ユーカの能力開発チームのメインスタッフなんだよ。どうせ普段から自由な外出もできないし、王城にこもって黒い瘴気の研究とかに専念してるの。生身で異世界から召喚されたユーカとは比べ物にならないけど、魂で異世界を渡った影響のせいか、僕って黒い瘴気にはかなり敏感なんだ。君もなんでしょ?」

「……」

「まったく、『インパクト』のオーナーが君だと知った時は、ホント驚いたよ~。やっぱり僕たちは運命で繋がってるんだね」


 やっぱり気付かれてたか。思わず舌打ちする。私が元日本人であることは、こいつの中で確定している。せめてザカライアであることは、隠しておこう。


「まだそれ言ってるの? 運命とかちょっとウザイんですけど」


 今更取り繕っても仕方ないから、同郷人対応の態度に切り替える。


「つれないなあ。来年で約束の5年目だよ。5年後にまた出会えたら、付き合おうって約束したでしょ。君なら何年でも待つ価値があるけどね」


 おおう、この不屈の男。初対面の時のテキトーな逃げ口上をまだ覚えてやがった。軽薄なナンパ野郎のくせに、なんて執念だ。しかも記憶の内容が改竄されてやがる。


 当然スルーだ。もちろんそんなことでめげるトロイではないけど。


「異世界からの転生者に公認されてから、束縛キツくって。どうせなら美人の騎士に束縛されたいのに、僕には絶対男の護衛しか張り付けられないんだよ。ひどくない?」

「上層部の賢明な判断でしょ」

「まあ、僕も誘拐されたり生贄にされたりはゴメンだから、我慢してるけどね~。でも今回は、警備がしっかりしてる闘技場の施設内に限って、単独自由行動が許されたんだ。それで久し振りに、綺麗な蝶を追いかけにきたら、こうして運命の人に出会えたってわけ。ね~、グラディス」


 つまりはナンパに出てきたわけかい? ホントに今付き合ってる暇ないから、他を当たってくれ。


「だったら、ご承知の通り今は気分が悪いから、元気な人を捜してちょうだい。もう行くわ」

「――君、転生者であることは、内緒なんだよね?」


 その一言に、進めかけた足を止める。


「まさか、脅し?」


 睨み付けた私に、トロイは屈託のない笑顔で答えた。


「僕が手伝ってあげるよ」

「――はあ?」


 予想外の提案に、思わず訊き返す。


「手伝う?」

「美人とのデートに理由なんていらない。僕としてはショップ巡りでも、ピクニックでも、時限爆弾捜しでも、なんだって構わないんだ」

「――時限爆弾?」


 まさに言い当てられ、ヒヤリと聞き返す。医務室が嘘だとはバレてても、なんで結界破りの仕掛け捜しだなんて分かる? カマをかけられてるだけ――って感じじゃない。


 トロイはさも当然と言った笑顔だ。


「僕、なんだかんだで優秀な宮廷魔導師なんだ。結界の破り方は、いくつも知ってるよ。あのちょろちょろ漏れる瘴気の感じだと、なんかそれ系の仕掛けが近くにあるはずだよね。水道の蛇口みたいに、少しずつ調節可能な感じのさ。そもそも医務室は反対方向だし。逆に、魔導師でもない君が気付いたのがすごいんだけど、なんで?」

「企業秘密」

「ふ~ん? ま、いいや」


 トロイは本当に興味なさそうに、話を元に戻す。 


「僕これでも結構偉いんだよ? 黒い瘴気研究の、実質第一人者だしね。この施設内なら大体どこでも行けるよ。それに僕の場合、美女連れで人気のない場所にいたりしても、怪しがられるどころか、逆に納得されるんだ」

「……」


 さもありなん。ここはお言葉に甘えて、頼らせてもらうしかないか。なんか条件とか付けられそうで怖いんだけど、確かに目的を果たすためには必要な助けだ。

 そもそもトロイから護衛が外れることはないから、時々ストレス解消で独り歩きが許されている時ですら、実はどこかに騎士が潜んでいることになっている。

 もしもの時はその護衛が何とかしてくれるだろう。


「分かった。協力してちょうだい」

「じゃあ、ハイ」


 トロイが腕を差し出す。


「何、それ」

「手伝うんだから、それくらいの役得はあっていいんじゃない?」


 なんか抵抗あるけど、これ以上グダグダ時間を食ってる場合じゃない。仕方なくトロイと腕を組んだ。


「ほら、もたもたしている暇はないから! 早く行くよ」

「ああ、やっと君をエスコートできる。感激だなあ」

「もう、そういうのいいから!」

「場所とか分かってるの?」

「とりあえず、人の出入りの少ない北側から、しらみつぶしに当たってく!」


 まったくなんでこんなことに――と、内心あまり面白くはないけど、トロイのエスコートは効果絶大だった。

 大概の警備兵が、トロイを確認するなり、私をよく調べもしないで死んだ目でスルーする。

 お前、どこまで女好き認定されてるんだよ。私もそれに引っかかったバカ女みたいで、やっぱすげームカつくんだけど。


 トロイは私の早足に合わせながら、不思議そうに尋ねる。


「ところで、なんで君が一人で動いてるの? 匿名で警備とかにタレこんじゃえばいいのに」

「騒ぎにして、大会中止なんてことにしたくないの。私の弟が頑張ってるから」


 基本的に笑顔のポーカーフェイスなトロイは、少し意外そうな目をした。


「君は、この世界の家族を、完全に受け入れてるんだね。そういえば、ラングレー家の君への溺愛は有名だもんね」

「――あんたは、今の家族を受け入れられないの?」

「そんなことはないよ。こっちはこっちでいい家族だよ。でも、ココデナイ感っての? それはいくつになっても、消し去れないよね。自分にもどうにもできない。僕のいるべき場所は、あっちなんだって……その思いは、多分死ぬまで続くんだろうなあ」


 それから、わざとらしいくらい渋い顔を作る。


「ユーカって、有り得ないよね。信じられないほどタフで図太い。なんか、超体育会系のこの国と、相性抜群っていうか。転生組の僕らと違って、ハードモードの単身召喚なのに。なんであんな生き生きとこの世界に馴染んじゃってるの? 学園まで通い出しちゃうし。僕、あの子がいつ病むか、ちょっと楽しみにしてたんだけどなあ」

「……あんたの方が病んでるよ」

「うん、知ってる。だから、あの子は苦手なんだよね」

「――」


 かける言葉が、出てこなかった。

 この子は、出会った時と根っこのとこは変わってないんだ。故郷へ戻ることだけをひたすら願っていた、6歳のあの頃と。


 だから自分にはない強さが、眩しくて妬ましい。執着を捨てて、今を受け入れれば楽になれると分かっているのに、それがどうしてもできない。比較してみじめになる。

 全てを諦めていながら、割り切ることができない。


 ツラいな。これに関しては、私も大分こじらせたクチだ。何も言えない。私が完全にこの世界に溶け込んだと感じたのは、ロレインとクリスが産まれた時だ。

 結局、自分でどうにかするしかない、難しい心の問題なんだろう。


 結局それ以上はお互いに触れず、各部屋を片っ端から確認する作業に専念した。

感想有難うございます。参考、かつ、毎日更新の燃料になります(o´∀`)b

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