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VIPルーム

 武闘大会当日。


 私はマックスの希望通り、叔父様からプレゼントされたシルバーグレーのドレス一式を身に付けて、国立闘技場に赴いた。叔父様は仕事があったから、私一人での観戦になる。


 貴族や来賓専用の入り口から、馬車で乗り付けた。車寄せから降りて見回すと、ドレスアップした人たちがすでにたくさんいる。まさにロイヤルアスコットのセレブ気分。派手な帽子はないけど。


 降りた途端に、いつもとは違った、純粋に称賛の視線での注目を浴びる。この装いは、身内のみならず、世間的にももの凄く好評だ。


 確かにすごく収まりはいいし気に入ってもいるけど、やっぱり私らしさはないんだよなあ。引っかかりがなさ過ぎるというか。こういうのは、たまにだから新鮮なんだよね。

 もう完全に変な趣味嗜好が身に付いちゃったのか、なんか視線に批判と驚きが混ざってないと物足りなさを感じるわ。すっかり手遅れか。


 闘技場はザカライア時代に、儀式とか賓客としてしょっちゅう来てるから、表も裏も知り尽くしてる。勝手知ったる地下通路を一人でずんずんと歩いていく。


 目的は選手の控え室。選手は早朝に集まっちゃうから、今朝はまだマックスに会ってない。初戦を前に、顔だけ見ておきたい。


 この大会の選手控え室は体育館みたいに広くて、オープンな雰囲気。激励のための身内も、開け放たれた扉から自由に出入りしてて、朝から活気に溢れている。


 選手たちはすでに完全に装備を整え、すぐにでも戦に望む準備は万全。一対一のなんでもありのガチバトルに向けて、気合が入っている。


 選手、スタッフ、関係者で数百人は入り乱れている中でも、目的の人物はすぐ見つけられる。

 扉をくぐって、真っ直ぐマックスの元に進んだ。


 なんでだか、ここでも学園のように人の波が割れていく。いや、もう気にはしないけどね。一斉に集まる視線も含めて、きっと世の中がそういうシステムになってるんだ。なんらかのオートメーション化が進んでるんですよ。


 領地で見るのと違って、今日のマックスは対人戦闘用の装備。私が入った瞬間から気付いていて、自分の元に来るのを集中力を高めながら待っていた。


「やっぱり、腹が立つほど似合ってるな。やる気のダメ押しになる」


 私を見るなり、ニヤリと軽口を叩いて、片手で軽いハグをした。その顔つきを見て、私も笑う。


「どうやら、安心して観戦できそうだね。一番いい席から、優勝するとこを見てるから」

「おう、楽しみにしとけ」


 それだけのやり取りをして、踵を返した。荒ぶっていた昨日と違って、すごく静かな闘志だ。邪魔するわけにはいかない。


 控え室にはヴァイオラやソニア、アーネストにハンター御一行もいたけど、友人知人の参加者には軽く目だけで挨拶して、出て行った。今日は全員敵だからね。


 さて、やることもないし、観戦仲間と合流しよう。


 待ち合わせ場所は貴賓室。王子のご学友として、特等席のロイヤルボックスから、一緒に観戦できるのだ。


 さすがにここは勝手に行くわけにもいかないから、厳重な照会の後、兵士付きでスタッフに案内される。


 案内の話だと、まだノアとユーカは来てないらしい。通された部屋では、キアラン一人が待っていた。


「キアラン、今日はご招待ありがとう」


 挨拶をする私に、正装のキアランが驚いたように目を見開く。


「どうしたんだ? 今日は凄くきれいだな」

「へ!?」


 あまりの驚きに、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。うっかり息が止まりそうだった。


「キアランに初めて褒められた!!」

「――普段、素直に褒めたくなる装いをしないからだろう……」


 女性を褒めただけで驚かれるという、紳士失格の烙印を押されたも同然のキアラン。少々憮然となる。

 だってどっちかというと、いつも私のドレスに文句ばっかり言ってる気がするし。


 外見讃えられても今更どうとも感じないと思ってたけど、普段褒めてくれない人に正面から言われると、なんだかすごく舞い上がりたい気分になってくる。


「それにしたって、王子様なら社交辞令くらい言えるでしょ~」

「なんだ。心にもない誉め言葉が欲しいのか?」

「――いらない~」


 ちくしょう。結局キアランが正しいわけか。さっきのは嬉しかったけど、嘘で褒められても嬉しくない。私、嘘か本心か、大体見抜けちゃうもん。――まあ好みは人それぞれだしな。


「やっぱりキアランも保守好み? これ、叔父様のプレゼントで、マックスのリクエストなんだけど」

「少なくとも、安心して見ていられるというのはあるが……慣れというのは恐ろしいな。お前らしくないというか……なんだか物足りない気もする」

「やっぱりそう思う!? 思わぬ所に理解者が!!」

「いや、理解はしたくないんだが……」


 複雑な顔をするキアラン。やっぱり慣らすというのは重要だな。キアランですら効果があるとは。

 これからもどんどんセクシー路線の啓蒙活動に励んでいかねば。


 決意を新たにしていたところで、ノアとユーカが一緒に案内されてきた。


「わあ、グラディス、今日は清楚綺麗系のお姉さんがテーマですか?」


 ドレスを着てセレブ気分のユーカが、大変に浮かれ気味に問いかける。

 この国では変わっていると認識される私の普段のドレスも、ユーカにとっては数ある見知ったデザインの一形態に過ぎない。今日のは、ちょっと大人しめに見えていることだろう。


 ユーカは落ち着きなく、室内をきょろきょろと見回す。


「ここ、王子様のVIPルームなんですよね? グラディスのお友達の。私まで招待してもらって、お礼を言わないとですよね! 会うの初めてだから緊張します。いつ来るんですか?」


 キアランを目の前に、真面目に訊いている。


「「「……」」」


 ――まだ、気付いてなかったのか。ある意味スゲエな。みんな面白がって、誰も教えなかったのかな。バルフォア学園は、私みたいなやつだらけとは。まともな生徒はおらんのか。将来が心配だ。


「いや、そこにいるでしょ?」


 さすがに学園の外では無礼講にも限度がある。ノアが、反応を楽しみにしながら、さもおかしそうに指差した。


「え? キアラン君ですか?」


 しばらく考えてから、ようやくはっとして目を丸くする。


「ええ~~~~!? キアラン君が、キアラン王子だったんですか!!?」


 衝撃の事実に、ユーカビックリ仰天、ドッキリ大成功~~~~~~ってとこだね。王子様の名前くらいは知ってても、まさかクラスメイトがそうだとは思わなかったようだ。


 キアランも苦笑いしてる。そりゃ、俺が王子だ! とか、なかなか言えないしね。学園内じゃ全員対等、身分も名字も、基本的に非公開だし。意外と庶民とかの中にも、知らない人がいたりして。ベルタなんか怪しい気がする。


「じゃあ、キアラン君、お招きありがとうございます!」


 めげないユーカ。気を取り直して、元気に頭を下げる。波乱万丈な人生を送る元女子高生、なかなか逞しく育ってくれて何よりだ。


 それからすぐにエリアスとアレクシスの国王夫妻が来て、さすがの私もきっちり形式通りのご挨拶。


 そのまま取り巻きのごとく、みんなと一緒に後に付き従って、ロイヤルボックスの席に着き、観戦に備えた。 

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