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バトルロイヤル閉幕

 この5年間、何度も遭遇した鳥肌が立つほど不吉な黒い瘴気。それが今、お祭りイベント真っ最中の校庭に、突如として溢れた。


 校庭は一瞬で騒然とし、戦闘職は残らず武器を手に、直ちに戦闘態勢を整えた。何が起ころうと対処すべく、異変の出どころへと意識を集中させる。


 ――もちろん優勝を競って戦っている最中の、キアランとマックスも。


 そしてその視線の先にいたのは――ニコニコと手を振るユーカだった。


「戦闘の最中に、よそ見しちゃダメでしょ?」


 私の呟きに、左右のアーネストとガイが唖然と私を見下ろした。そしてすぐに戦場に目を戻す。


 キアランとマックスが、意識を逸らした一瞬の不意を突かれ、私の仲間達に撃破された直後の光景があった。


 よっしゃ!! うちの優勝だ!!


 負けたキアランとマックスも、取り巻く観戦者たちも、事態が呑み込めずに放心状態だ。


「て、てめえ、何をしやがった!!?」


 ガイが私に詰め寄る。


「ふふふ。ユーカの特技。面白いでしょ?」


 もう用が済んだ2人から離れて、見事にハマった策に会心の笑みを浮かべる。


 安全が保障された模擬戦の最中に、命に係わる脅威が真横に現れたら、当然そっちを優先する。さすがのキアランも、引っかかってくれた。


 私が半年前、ユーカに尋ねたのは、黒い瘴気のコントロールの可否。黒い靄が魔物に形作られる様子を、私は何度か見ている。

 だったら、その瘴気を肉体に取り入れてしまったユーカにも、似たことができるんじゃないだろうか?


 私の思い付きに過ぎなかった素朴な好奇心を、ユーカは一人で試行錯誤しながら実践していた。まだ瘴気を膨らませて巨大化することしかできないけど、極めていったら、本当にコントロールできる魔物とか、生成できるかもしれない。

 まるで式神を操る陰陽師!? それとも召喚術師か、テイマーか!?

 魔力皆無の私からすれば、実に夢が広がる話だ。


 おっと、まだ終わりじゃないね。校庭に集結した仲間5人に、大きく手を振りながら叫んだ。


「あとはノア一人!」


 こういうとこが、私の性格の悪さだよねえ。非戦闘職のノアは、最悪、生き残りが2人になるまで姿を隠しててもいいんだけど、うちの優勝が実質確定した今、無駄に粘っても、取り巻く観衆から顰蹙を買うだけだもん。

 出やすいように、プレッシャーをかけてやるのだ。


「ホント、いい性格してるよね」


 私の後ろからふらっと現れたノアが、苦笑いしながら降参を宣言して、校庭に現れた。はい、空気の読めるいい子ですね。


 ノアは脱落した仲間とともに、戦域外のこっちに引き上げてきた。残りは引き続き、私のパーティーメンバーたちの個人順位決定戦。リーダーの私だけがすでに脱落という……なんともこんちくしょうな事態だ。


「グラディス、さっきの、なんだよ!? あんなの反則だろ!?」


 マックスが開口一番、クレームをつけてくる。周りの何人かが同情の表情で深く頷く。


 何を言っとるのだ、馬鹿者め!!


「魔物の瘴気を出しちゃいけないなんて、イベント規約のどこにも書いてないでしょ!」

「そりゃ、そうだろうけど!!」

「戦いの最中に敵から気を逸らすなんてたるんでるんじゃないの? もっと集中力磨きなさいよ。あんた、他のことに気を取られ過ぎ!」

「だからって、あんな露骨に俺の足引っ張り続けることはないだろ!?」


 それは、あんたのライバル二人で、両手に花を演出したことかね?


「あの程度で注意力散漫になるようじゃ、更なるメンタル強化が必要ってことね! いろいろ考えとく!」

「勘弁してくれよ、も~~~」


 マックスが頭を抱える。効き目があるなら、これからもガンガンやるよ私は! 耐性つけて精神力をもっと養え!


「まったく、とんだ奥の手があったものだな。完全にしてやられた」


 隣のキアランは、素直に完敗を認めていた。自分の油断も何もかも、結果が全て。キアランらしい。


「マックスをうまく使ってくれてたね。キアランは、最後の最後以外、落ち度はなかったんじゃない?」

「いや。一度の判断ミスで部隊は全滅だ。いい経験になった」


 負けたのに、どこか晴れ晴れとしたような表情で反省を口にする。真面目だけど頑なでないところが、キアランの強味だね。まだ16歳になったばかりなのに、すでに完成されてるというか。――と思ったら、その表情に少し複雑な色が混ざる。


「お前は、体の張り方を間違ってるな。いくら仲間を勝たせたいからといっても、もっとやり方を考えた方がいい」


 困った子供に言い聞かせるように、苦言を呈してくる。


 ――また、お小言を食らってしまった。

 少しでもマックスを動揺させるためにとった、あの行動のことだね? やっぱりお堅いというか、こっち方面には柔軟性皆無というか。


 でも、嫌いじゃないんだよな、キアランのお小言。私に親身なお説教をする人なんて、他にいないもんな。

 同じ年なはずなのに。むしろ生きた年数、私の方が5~6倍は長いなずなのに……明らかに精神年齢負けてる気がするわ。


「確かにそうかもね。マックスより先に、キアランを動揺させる手を考えたほうがよかったかも」


 今回の反省点だな。主力のマックスを精神的に揺さぶっても、キアランがすぐフォローしちゃうから、あまり効果がなかった。

 アメジストの瞳を、探るようにのぞき込む。


「何をやったら、キアランを揺るがせられるんだろうね?」

「お前にばれたら、後が怖そうだな」


 キアランは弱ったように笑うだけで、答えなかった。


 確かにもし知ったら、徹底的に弱点突くからね、私。まだ学園生活丸々3年間あるし、きっと何度も対決することになる。この追究は今後の重要課題だな。


「おい、なに余計なことくっちゃべってんだよ! お前の仲間が、最終決着の真っ最中だろ!?」


 マックスが、私たちの間に割り込んで、話を中断させた。


 まあそうなんだけど、私の仲間しかいないバトルロイヤルだもんなあ。面白いけど、誰も応援するつもりはないし、大体結果は分かってる。ユーカは役割を終えてから真っ先に降参したし、あとは順当に実力順だろう。


 チームの優勝も決まったし、結果も大体分かってるから、さっきほど熱中できない。まあマックスは私とキアランの会話を邪魔したいだけか。


「グラディスはここ! まったく油断も隙もないな」


 私の肩に手を回して、キアランから離された。


「あいつら、おもしろいな」

「だよね~」


 アーネストとノアが、なんか変に意気投合してた。 

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