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副業開始

 伝説の優等生(問題児)が舞い戻ってきたことで、先生の何人かが顔を引きつらせてる気がする。

 当然気にしないけどね!

 あ、アダムス先生、恋が実ってよかったね! カミラ先生と共働きですか! 

 この度同僚になったザカライアです、どうぞよろしく!!!


 勝手知ったる我が母校。まだ卒業して数年で、先生の入れ替えもあまりない。優秀な教師陣の中では断トツの最年少だけど、私すでに国王や重臣たちと数年間渡り合ってるキャリアがあるからね。恩師相手でも初っ端から対等以上にやってくよ。

 私のことは新人教官ではなく、士官候補生とでも思ってくれたまえ! あっという間に追い抜いちゃうよ!


 まあ、相変わらずのテンションではあったけど、職場にも仕事にも馴染むのは早かった。っていうか、あんまり学生時代と変わってない。もともと先生からの相談とかも普通に受けてたしね。


 教師という仕事は、意外と私の性に合ってた。人付き合いは好きだし、基本おせっかいだし、私の持て余し気味のパワーとバイタリティーを余すことなく発揮できる。


 でも、ガサツな私だけど、教師をする上でこれだけはと、気を付けてることはあった。


 私には、生徒の一番成功する道が見通せる。でも、それは絶対に教えなかった。

 選択肢のいくつかは提示する。でも、決断は必ず本人にさせた。命にかかわらない限り、たとえ失敗すると分かっていても。

 ここでは大預言者じゃなくて、教師だからね。それはきっぱり分けたんだ。

 正答を教えるだけじゃ、教育にならないからね。


 あと、生徒にかける言葉や態度は、誰が相手でも意識的に規格を統一してたかな。

 きめ細かい先生なら、生徒の性格や状況に応じて対応を変えたりなんかしてたけど、私にそういう繊細な作業は無理だからね。

 逆にひいきとかにならないように、全部一律のガサツ対応。気弱な人見知りにもグイグイ押し込む。逃げられたら追いかけて捕まえる。っていうか、逃亡先のゴール地点で待ち構えてるからね。そもそも軟弱な根性を鋼に鍛え直すためのブートキャンプだし。

 デリカシー? それなに、おいしいの? ってやつですな!


 とはいいつつ、私がこの学園で一番力を注いだのは、ブートキャンプ方式の改善。

 数年かけて、文官系と戦闘系の二科にはっきり分けた。どちらも全力でやれというのは、効率が悪すぎるからね。やりたい奴だけどんどんやればいいと、選択科目を大幅に増やした。


 ただし恒例行事はそのままに。だってあれはお祭りだもん。こんな楽しいイベント、生徒たちから奪うほどヤボじゃないよ。そもそも仕掛ける側になってからが、余計面白いんだから!

 さあ、諸君も遠慮せず、私が限界まで知恵を絞って仕掛けた罠の数々を堪能してくれたまえ!! 君たちの逃げる地点を完璧に予測して、二重三重の罠が待ち受けているから気を付けろ!! 素直な奴は全滅だ!!


 結果、得意分野に専念できるようになったことで、学生たちの能力は飛躍的に伸びた。専門馬鹿で上等だ! 前世では、私もそれでトップに立った!!


 けれど、予想はしていたものの恐るべき弊害も……。脳筋バカはますます馬鹿に!! ああ、やっぱり思い出される我が前世!!


 さてどうしたものかと考えて浮かんだのが、前世の脳筋父の唯一のインドア趣味、将棋。お父さんに勝ったら、ご褒美に夕飯の肉のグレードが上がるから、私けっこう頑張ったんだ。


 ここの文化ならチェスとかの方が合うんだろうけど、私ルール知らないし。


 最初は駒の翻訳にいくらか戸惑ったけどね。王、兵、角、飛の戦闘系と、金、銀、香、桂の宝物系をそれぞれこの世界の物に置き換えたりしてみた。ちなみに角はユニコーン。せっかくファンタジー世界なんだから、牛よりいいでしょ!? 戦闘力は分からんけども。馬がかぶってるという苦情は受け付けません!

 龍王なんかそのまま訳したらキングドラゴン? 肝心の王より偉そうじゃね? そもそもこの世界、ドラゴン実在するからね。まあ、四苦八苦しながらなんとか程よい感じの魔物に当てはめて、導入してみた。


 生徒より先に、戦闘学科の教師たちに、戦術シミュレーションとして受け入れられました。


 バルフォア学園発の『ショーギ』は、あっという間に王都中に流行しだし、やがては貴族の嗜みにまでなっていく。


 おおうっ、ファンタジー世界に『ショーギ』広めちゃったぜ。別に前世の記憶でどうこうする気はなかったんだけど、馬鹿どもに戦術とか、思考すること自体を遊び感覚で仕込むには、かなり有効だった。

 ……脳筋父さん。苦労したんだね。今頃あなたの想いと工夫が分かりました。ありがとう、パパ。


 でも、私にもどうにもできない問題児はやっぱりいた。頭の中が100パーセント魔物退治で出来てる少年。

 この国でも魔物激戦区とされるラングレー公爵家の跡取り、トリスタン。

 基本素直で気性も快活ないい子なんだけど、とにかく魔物狩りが大好き。人生最大の娯楽で、それさえあれば他に何もいらない。なにより英才教育の賜物で、入学時からすでにもの凄く強い。

 もう、人生をはっきり決めちゃってるんだよね。それはそれで幸せなんだろうけど、すごくもったいない気もする。

 テストの度に、落第点で私に絞られても全然気にしない様子を見るに、この子はこれでいいのか、と白旗を上げた。多分、私が変えるべきものではないんだろうね。ちなみにこのラングレー家、二人の弟はとてもまともで、拍子抜けした。まだ就学前の三男に至っては完全に文系だったし、イッちゃってるのは長男だけだったらしい。いいのか悪いのか……。


 こうして色々と頭を悩ませつつも、自分でも予想外に、私は教師という仕事にハマっていった。良くも悪くも徹底的にのめり込むクセが出たというか。


 まあ、豪快で型破りないい先生、くらいの評価は、生徒から受けられたと思う。一部からはおっかない、という声もあったけどね。


 当初、また大預言者様の気まぐれか、と周囲から思われていたこの副業。私はここで30年間、教育に半生を捧げることになる。


 そして後に、型にハマらず厄介だが、非常に優秀――と称される人材を、次々と送り出していく。

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