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決戦の裏で

「ユーカ。初めての学園イベントは、どう?」


 敵は全員離れた場所だから、もう身を潜める必要もない。ユーカと足早に校庭に向かいながら、感想を尋ねる。


「マックス君に助けられた時にも思いましたけど、騎士ってすごいですね」


 ユーカは、珍しく複雑な表情をしている。


「私はずっと守られてるばかりで、私も戦えたらと思いました」


 さすがに負けず嫌いの体育会系。作戦は厳守するけど、自分の力不足には思うところがあったらしい。


「ユーカの場合、体の作りが異世界人だから、騎士は難しいだろうけど、もしかしたら魔術師の方は可能性があるかもね」


 どちらも子供の頃から磨き上げていくものだけど、ユーカは相当特殊。後天的に肉体に染み付いた黒い瘴気が、何かの仕事をしてくれるかもしれない。

 私の言葉に、ユーカの目が輝く。


「『魔女っ娘』は、永遠の憧れです!」

「とりあえずカリキュラムに、魔術を取ってみるのもアリかもね」

「ハイ! 絶対やりたいです!」


 やる気満々で、取得科目を一教科即決した。相変わらず前向きだ。気さくな性格で、パーティーメンバー以外にも友達を作り出してるし、むしろ私の方が普通の友達少ない気がするわ。

 私は仲間集めの件でやり過ぎたせいか、普通の子からは敬遠されてる気がする。……ちくしょう。それほど大層な危険人物じゃありませんよ?


 校庭の周辺にたどり着くと、すでに脱落者たちで取り囲まれて大賑わいだった。これからここで行われる、残り10人の生き残り決戦を観戦するためだ。


「あー、てめっ、グラディス、このやろ~!!!」


 私たちの接近に気付き、野次馬から抜け出したガイが因縁を付けにくる。


「てめ~、よくもふざけた真似してくれたな!!」


 歩みを止めない私に付きまとってくるのを、適当にあしらう。


「はいはい、脱落者は引っ込んでなさい。アーネストをぶっ潰して、もうすぐ決勝になるわ」

「マジか!? まだ始まって2時間かそこらじゃねーかっ。いつもの半分以下だぞ!?」

「まあ、うまくいけばね」

「なんだよ。作戦ねえのか?」

「キアランチームと、挟み撃ちで共闘するくらいね」

「十分凶悪じゃねえか」

「後は時の運かしらね。じゃあ、もう一仕事してくるわ」


 足を止め、ユーカに向き直る。


「カード集めは私一人でいいから、後は頼むよ。あんたは、最後の切り札だから」

「はい。もしその時が来たら、予定通りに」

「出番がなかったら、残り2人になるまでは隠れてていいから。戦闘する必要はないけど、ちゃんと残り人数だけは把握しといて」


 現在の生存者の中で、非戦闘員は5人。私たちをのぞくと3人。ギリギリまで潜伏が許容されるから、意外とこっちの方がやっかいになるかもしれない。特にノアの隠密行動は侮れない。


 その辺を説明してから、ユーカを残して単身、私は校庭へと進み出た。

 もし戦場を離れて、事前にこっちに来る敵がいたら、ティルダの狙撃が排除してくれるはず。でもこの期に及んで戦力を分けるなんて愚策を、アーネストがするとは思えないけど。


 あ、ルーファスだ。警備担当区域が校庭だったらしい。全体が見渡せる隅の方で、油断なく警戒態勢を取っている。校庭の最終決戦は激戦がお約束だから、毎年実力者が配備されるんだ。彼なら何があっても安心だね。

 努めて無表情を意識して、でも微かに心配そうにこっちを見ている。こらこら、大丈夫だから、ひいきすんなよ。


 私はまるでスポットライトの真下に立つように、300人が取り囲む校庭のど真ん中で立ち止まった。

 おお~、私、大注目! 気分は舞台女優だね。一周目も二周目も、数万人の前に立つことは少なくなかったから、慣れたものだ。

 とりあえずおしゃれしてきてよかった。


 脱落した全校生徒の視線が一斉に注がれてて、逆に申し訳なくなる。別に戦うわけでもないのに。

 きっとこの脱落者たちのうちの半分は、サシの戦闘なら確実に私より強い。それでもここに残っているのは、戦えない私。これがこの新歓バトルロイヤルの面白いとこだね。

 

 残念ながら、残りの仕事はカード集めだけ。私もユーカの気持ち、凄い分かるわ。一緒に戦えたら、それはそれで楽しかっただろうなあ。

 まあ、自分で選んだ道だし、ない物ねだりしてもしょうがないね。


 今頃、戦闘は始まったかなあ。いったん始まれば、すぐに決着はつくと思うんだけど。

 できることもないまま、ただ待ってるだけの時間ってのは、ドキドキするけどあまり面白くない。力を使ってのぞきたくなる。

 有利な状況は作ったから、十分勝算はあるんだけど、こればかりは絶対はないからなあ。


 さて、誰が生き残って、誰が最初にここに駆け付けるか。


 微動だにせず、物思いにふけりながら時が過ぎるのを待った。


 不意に、決勝の開始を告げる、長い鐘の音が鳴った。勝負がついた。残り10人が確定したということ。これから決勝のために、生き残りが校庭に集結する。

 その前になんとかカードを回収するのが、私の最後の仕事。


 気配を感じて上を見上げると、風魔法に乗って、3枚のカードが校庭の三か所に、流れ星のように突き刺さった。


 私はすぐに走り出して、まず一番近くの1枚を確保する。一般人レベルとしてなら、体力も運動神経も抜群なんだ。見かけ通りのお嬢様じゃないぞ。靴だって今日は運動対応。校庭一回りくらい、軽いもんだ。


 迅速な動きで更に2枚目へと走り、それも確保。あと1枚!


 3枚目に走りながら、すごい勢いで近付いてくる気配を感じた。敵か味方かは分からない。

 構わず走り、なんとか3枚目を手に取りながら振り向いた瞬間、目の前にアーネストがいた。

 感情を極力排した鳶色の瞳が間近に迫り、一瞬目が合う。


 ――ああ、やられた。


 アーネストは討ち漏らしたか。


 せめてマックスだったら、強くても駆け引きのやりようがあるんだけど、さすがにこいつは付け入る隙がない。対応する間もなく、攻撃された。


 見えなかったけど、多分突きの一発。

 ティルダとのかつてのやり取りで、アーネストは私のカンの鋭さを知っている。下手に魔法で遠距離攻撃を仕掛けず、確実に肉弾戦でとどめを刺しに来た。


 こうなったら、私にはどうしようもない。心臓の辺りに防御魔法が発動し、瞬時に死亡判定になった。


 ここまでか、ちくしょう。決勝開始すぐでの瞬殺。個人としては10位止まりだ。


 ――でも、ただでは堕ちないからね? アーネスト。

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