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バトルロイヤル開幕

 いよいよやってきました、新入生歓迎バトルロイヤル!!


 なんか、やっと学園生活が始まったって実感だね。


 朝、いつも通り教室に集まって、荷物を置いてから更衣室。みんなそれぞれ自前の装備を整えていく。今日だけは武器や防具も持ち込みが許可される。校舎内に騎士服と魔導師のローブ姿が溢れてて、何だかちょっとした砦みたいな趣だ。

 この雰囲気がたまらないんだよね。祭りの朝みたいでワクワクする。


「お前、その姿で参加するのか?」


 着替えて教室に戻った私に、騎士服をまとったキアランの、呆れ気味な第一声が届いた。


「もちろん。これが私の戦闘服よ」


 私は会心の笑みで断言した。


 そう、今日こそ出番! ここで着ずにいつ着るかの、ミリタリー!! まさに今こそが着どころでしょう!?


 飾りポケットがいっぱい付いた、プリーツスカートのアーミーワンピース。グレーがかった都市型迷彩の超ミニ。可愛らしいパフスリーブからのぞくむき出しの二の腕に反し、足はレギンスで覆い、脚線美は出しても肌は出さない。靴は実用的な編み上げ―ブーツで、髪も編み込んでまとめて、やる気十分!

 戦闘はしないけど、バッチリ動けるスタイルだ。


「グラディス、『かわかっこいい』です!!」


 ユーカが絶賛してくれた。ユーカの目にはそれほど奇抜なデザインには見えないだろうしね。コスプレチックではあっても。


 そう言うユーカは、普通に体操着を着ていた。ザカライア時代に私が導入させた、実用的なジャージ。ユーカは懐かしいと、かなりお気に入りだ。


 戦わない学生は大体制服かジャージが多いから、私の私服はかなり目立つ。今日の晴れ舞台のために『インパクト』ブランドで特別に仕立てた。

 基本的に今日の花形は戦闘職だから、裏方は地味なんだよね。せめて衣装くらい派手にして気分をアゲたい。


「キアラン。マックスから、伝言聞いた?」


 すぐ傍にいるマックスに、密かに伝言を頼んでいた。作戦に関わることだから、安易に教室で口にはできない。


「ああ、『了解』だ」


 キアランが頷いた。思わず笑みが浮かぶ。これで勝率が上がった。


「グラディス。怪我には気を付けろよ?」


 マックスが心配そうに、肩に手を置いてのぞき込んでくる。


「ふふふ。一番の注目株が何言ってるの? あんたこそ、集中砲火受けないように気を付けなよ?」


 次期ラングレー公爵を、学園の猛者どもが虎視眈々と狙っている。教師だったらぜひ観戦してるとこだけど、人のことかまってる暇はないからね。残念。


 各教室で、全校生徒300人に、完璧な防御魔法が施される。わざわざこのために、王城から宮廷魔導師が派遣されるのだから、バルフォア学園とは本当に国策の一環だと実感する。


 学内の各ポイントにも、教師や騎士、魔導師、雇われ冒険者が配置されている。何かトラブルがあれば、場慣れしたプロが臨機応変にすぐ対応してくれる。スパルタ学園とはいえ、安全対策に手抜かりはない。


 バトルフィールドは、敷地内全て。基本的に施錠されていない施設なら、どこでも潜入可だ。


 戦いの準備が整い、教室内にピリピリとした気配が漂いだした。

 この試合直前の空気、昔から嫌いじゃなかった。気合が入る。


「さあ、みんな。派手に暴れよう」


 開始30分前の合図を聞きながら、力強く頷く仲間達と手を合わせた。

 と同時に、唐突に教室から人が消えた。移動したわけではなく、認識阻害の魔術がかけられたせい。もうさっきまで触れていた手の感触も分からない。


 これから開始の合図まで、仲間とも敵とも、一切の接触は出来なくなる。誰も見えないし聞こえない。

 この30分間で、各チーム作戦に沿って、所定の位置への移動となる。移動先が特定できたら、一対象を最初から集団で付け狙ったり、いきなり本命同士が潰し合う展開も起こりえる。そういったトラブルを回避するための措置だ。


 それぞれ綿密な打ち合わせの元、学園の敷地内のどこかに散っていく。スタートと同時に、不運にも別チームが隣にいれば、いきなりの遭遇戦開始となる。


 私は豊富な経験で、スタート時に人気のない場所を完璧に把握している。仲間達にはそれぞれ、絶対に遭遇戦の起こらない場所に位置取りさせている。まずは様子見から。


 過去50年の例を見ても、多くのパーティーは、野外スタートを選ぶ。校舎内は、接敵すれば逃げ切るのが難しく、スタート時には強者の狩場になりやすい。

 うちのパーティーも、私とソニア以外は、校舎の外に出たはずだ。


 早い段階だと、別行動を取るより、固まって行動するパーティーの方が多い。うちは、最初から3チームに別れている。

 ユーカとヴァイオラ、ダニエルとティルダ、私とソニア。

 これは結構珍しいパターン。各個撃破されかねないから、普通は他のチームが数を減らすまでは、ばらけないのがセオリー。


 しかも私とソニアにいたっては、同じ校舎内というだけで、バラバラの単独行動。

 でもソニアは強者だから狩る側だし、作戦がハマれば単独行動でも問題ない。


 私も予定通りの場所にトラブルなく移動した。


 うん。ここは変わらないね。過去30回ほど、毎度見た光景。私の記憶の限り、ここからスタートした生徒は一人もいない、絶対に安全な場所だ。


 懐中時計を確認し、丁度いい場所にある空いた椅子に腰を下ろして、目の前に並ぶ魔道具を見据えた。


 この日のために完璧に準備された、敷地内を完全にカバーする、数十を超える監視用モニター。昔、映画やテレビで見た、軍事基地とかNASAの管制室みたいな状況の、広い部屋。穴のない安全対策を講じるために、イベント期間だけは警備室以上の監視態勢がここで整えられる。

 

 開始の合図の長い鐘が鳴り響き、認識阻害が解かれて、各ポイントに潜んだ生徒たちが姿を現す。


 私の周囲にいた、ファーガス校長を始めとする十人近い教師たちが、突然姿を現した私に唖然とした。


 ――そう、私が最初に選んだ場所は、かつての職場。懐かしい職員室だ。

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