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取り引き

 とりあえず解散となり、ユーカと二人で、取り囲む人混みを掻き分ける。というか、勝手に人波が割れていく。おお、ついに私もモーゼの仲間入りか。


 その先には、マックス、キアラン、ノア、ヴァイオラの待ち合わせのメンバーがいた。ヴァイオラだけ目を輝かせてて、あとは呆れてる。


「食堂で待ってていいのに」

「こんな騒ぎが、気にならないわけないだろ」


 みんなで食堂に向かいながら、マックスが憮然と答える。一度食堂に集合した後、騎士の嗅覚で騒動を察知し、慌てて駆け付けたらしい。

 実はけっこう早い段階から、距離を置いて野次馬に混ざってるのには気が付いてた。私と口をきいてもらえなくなる心配があるから、余計な介入は我慢して見守ることに専念したんだろう。


「よく飛び出してこなかったね。偉い偉い」

「お前が後れを取るとは思わねーけど、スゲー心配だったんだからな」


 不機嫌な顔をするマックスの後ろで、ヴァイオラが噴き出した。


「ぷっ、グラディスが口説かれてたとこなんか、すごい顔してたものね」

「余計なこと言うな」

「おおっ、グラディス、モテモテです!!」


 更に冷気が吹き上がった空気を読まずに、ユーカがまたきゃあきゃあと言ってまとめた。


 食堂に到着し、それぞれ好きなメニューを選んで、空いている席を捜す。

 ちなみにこのセルフ食堂システムも、(ザカライア)の改革の成果だ。大分作り替えた結果、現在のバルフォア学園は、日本の高校・大学にけっこう近いとこがある。慣れない新入生たちは最初戸惑うけど、ユーカには過ごしやすいだろう。


「それにしても、とんでもないことになったよね。ハンターが引き抜くことはあっても、その逆なんて聞いたことないよ。あそこの結束凄いもんね」


 トレイを持って席についてから、ノアが感心した。私のイメージでは、ハンターは古い人情ドラマで見るような、古き良き時代の昔気質な任侠ヤクザ。よその組にアネゴをプレゼントとか有り得ない。


「一応人は選んだよ。もう一人の女の子の方だったら、もう少しモメたかもね」

「ああ、ジェイド・ハンターはガイの妹だもんね。従姉妹のダニエル・ハンターの方がハードルは低いか」


 おお、そうなのか。知らなかった。そういう意味で選んだわけじゃないからね。そしてやっぱりノアは、さすがの情報通だな。


「俺の見る目もまだまだだな」


 キアランが苦笑いで呟いた。


「そのメンバーを見る限り、お前は学園での勝負を、欠片も諦めてなかったんだな」

「当然でしょ? キアランたちのパーティーにも、負ける気はないよ。ねえ、ユーカ、ヴァイオラ」

「はい!!」

「もちろんよ」


 よく分かってないユーカがノリで元気よく返事し、全部分かってるヴァイオラは不敵な笑みで頷いた。


 総合力なら、キアラン、マックス、ノアのパーティーは、確実に学園トップレベル。でも、今日集まったメンツは、それに引けを取らないと確信している。


 まずは入学式から一週間後の、新入生歓迎バトルロイヤルに向けて、しっかり勝つ準備をしないとだね。


 昼食をすませ、次の授業の見学先について、話し合いながら食堂を出たところで、おやと、足を止めた。


「グラディス・ラングレー~~~~!!! やっぱり納得いかねえ!!」


 ダニエル・ハンターが、仁王立ちで私の前に立ち塞がっていた。


 まあ、予想はしていたから、そんなに驚きもない。基本男子小学生だと思って相手をする必要があるんだ。あの場では勢いに流されたけど、あとで考えて、怒りが爆発しちゃったパターンかな。思い立つなり単身でカチコミにきたみたい。


「じゃあ、どうすれば納得する? 建設的に話し合いましょう」


 とりあえず交渉。別にその必要はないけど、不満を貯め込んだままチームになっても、お互いいいパフォーマンスは発揮できない。

 でも、あんまりややこしい駆け引きは、ハンター相手には通じないんだよな。小学生でも分かるくらい単純な話し合いでないと。


「あたしはハンターの一員として、お前の言うことをきいてやる! だからお前もあたしの言うことをひとつきけ! そうしたら全部チャラにして仲間になってやる!」


 ダニエルはビシッと私に人差し指を突き付けた。


 私は自信ありげな笑顔の下で、瞬時に考える。

 まあ、歴代ハンターとの付き合いを考えれば、どうせものすごくろくでもない子供だましな要求だろう。とりあえず話だけ聞いて、できそうだったら受けるか。荒唐無稽な条件だったら、なんとかして言いくるめよう。


「それで、何をきけばいいの?」


 問われて、ダニエルは意気揚々と言い切った。


「おっぱい触らせて!!!」

「「「「「――はああ?」」」」」


 聞き返したのは、私一人ではない。

 ダニエルは勢い込んで続ける。


「いや、だって、そんなん目の前で見せられたら、フツー触りたいだろっ!? 叶うもんなら揉み倒すだろ!? なあっ!?」


 同意を求められた男性陣が、無言で目を逸らす。ユーカだけ「激しく同意です!」と力強く賛同した。


「後でガイたちに自慢して、悔しがらせてやるんだ! ざまあみろだぜ!!」


 がはははは、と笑うダニエル。やっぱりハンター。女子といえどももれなくバカだ。想像以上のくだらなさにビックリだ。


「まあ、そんなことでいいなら構わないけど」

「グラディス!?」


 あっさり許可した私に、マックスがあたふたする。


「女子だし、別に減るもんでもないし」


 体育会系とか女子高なら、普通にあるあるだよなあ。こんなもんで強力な仲間が手に入るなら、安いものでしょ。


「さあ、どうぞ?」

「よっしゃ~、行くぜ!!」


 もったいぶって後回しにするほどものもんでもない。むしろさっさとすませよう。

 気軽に催促すると、ダニエルが気合を入れる。と思ったら、私の着ていたはずのブレザーが、一瞬でユーカの手に託されていた。


「わあ!?」


 数瞬遅れて、ユーカが驚きの声を上げる。


 私はいつの間にかブラウス姿にされていた。

 

 何たる早業。全然見えなかった。

 さすが腐ってもハンターの騎士。っていうか、騎士の力をこんなくだらない早着替え(こと)に全力で行使するのか。馬鹿馬鹿しいにも程がある。


 そしてダニエルは、某国民的アニメの怪盗のごとく、私の胸に飛び込んできた。


 ――なんだか、女子でも危機を感じる勢いだぞ?

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