本業開始
私が大預言者の地位に就くにあたって、現在の預言者はサポート的な立場になった。主力は私になるけど、修行と経験を積んだ優秀な預言者チームがお払い箱になるわけではない。
元々預言者の仕事は、けっこうな規模の儀式をした上で、やっと予言が降ってくるらしい。
だから懸案事項をリストにしておいて、原則週に1回、儀式を行い、重要度の高い順から予言を導いていくというスタイルになる。ただし緊急事態の際には、国王の承認の元、即時の儀式開始も可能。
例年よくあるお題は以下の通り。
今年は豊作か、否か。
水害は起こるか否か。
A地点とB地点、どちらに(ダム、貯水池、堤防、トンネルなど)を設置すべきか。
今年はあの流行病が流行するか否か。
国家行事の当日は晴天か否か。等々。
二択とはいえ、必ず当たる予言なら、国政において値千金の価値がある。
だからこそ、預言者はこの国で非常に大事にされるのだ。そちらはそちらとして、二重体勢で続けていくらしい。うん、堅実だね。私が急病とかなった時、何もできなかったり、知識と技術の継承が途絶えたりしたら、後々困るもんね。
大預言者の私ともなれば、扱いは当然預言者以上。下手したら国王よりも大事にされる。
何しろ国王は20~30年に一人は出るけど、私は300年ぶりだからね。代わりがいない。表舞台に立つことはないけど、国家として重大な決断には、大体私が噛んでると言っていい。
例えるなら高卒の10代をいきなり政治の世界にガッツリぶっこむんだから、ファンタジー世界スゲエよね。
しかも私の場合、面倒な儀式とか全く必要としないし。
訊かれた傍から、お得意のパターン別予言で最善の結果を教えてあげられる。
週に一度とかの制限もないし、緊急時には特に大活躍する。予言が降ってきたらすぐ「明日ここで土砂崩れが起こるよ。避難所はここがいいよ」とか告げれば、避難や対策、再建の準備なんかが災害が起こる前から始まるんだから。
こりゃ、重宝されるわけだよ。
王様には可愛がられ、重臣たちにも頼りにされ、大した時間もかからず国家の中枢に欠かせない一人になった。
更に国家行事ともなれば、預言者チームの筆頭として先頭に立つ役も負う。
ローブからこぼれる黒髪に意志の強い緑の瞳、自信のある堂々とした物腰――なかなかいい女風味に仕上がってきて、儀式の際なんか、国民の前に出れば惜しみない大歓声だ。
かつて収容人数数万人の体育館で、注目を浴びて戦っていた時代を思い出す。それよりもはるかに上回る熱気に、内心テンションを上げながら、優雅に微笑んで手を振りこたえる。これぞ大人の女の余裕!!
若く美しい大預言者様は、国民にも大人気ですよ!
国民はお前の中身までは知らないからな、なんてアイザックの憎まれ口も気にしない!
仕事に関しては、完璧……というより、私にかかればどんなトラブルも解決するか回避できる。生まれ持った棚ボタみたいな力とはいえ、人の役に立って感謝までされる仕事は、嫌いじゃない。
毎日充実してるとは思う。
でも、数年のうちに、何か虚しくなってきた。
いくら仕事は充実してても、プライベートは……。
――周りの同世代が、どんどん結婚してるんだよぉぉぉおおお。
――子供も次々生まれてるんだよぉぉぉぉぉおおおおお。
うあああああああああああああ!!!!
私はこのまま恋もせず一生一人なのかと思うと、正直辛い……。せめて子供でもいれば……。
どん底にヘコみかけた時、はっと気が付いた。
そうだ、子供に関わる仕事をすればいいじゃないか!
この世界に幼稚園の先生的な仕事ってあったっけ? いや、私に幼児の面倒は無理だ! 精神レベルほぼ一緒だからね! おもちゃの取り合いとか普通に混ざるからね!
よし、母校の教師だ! 子供というにはちょっとデカいけど、細かいことはどうでもいいっ。もっかいあの学園で遊び倒したらあああ!!
子供の頃からラノベ気分で歴史書読み込んでたから、歴史なら下手な教授より詳しい。国政に関わる以上、政治経済地理国際情勢の社会系、農業や畜産、気候・地形とか自然科学系もイケる。その上一周目では、保体だけど教員免許(高校)持ち!
なんだ、私、適任じゃないか!! 泥船だろうが、巨大さだけは超ド級だぜ!!
この大預言者様が、迷える子羊たちを導いてやろう!!
思い立ったが吉日と、とりあえず手近なとこで、新婚のコーネリアスと婚約者の決まったアイザックにゴネてみた。
お前たちばっか幸せになってんじゃねえ。裏で動いてなんとかしろ。ここで通らなかったら、国王の謁見の場でゴネるぞ。
こうして私は、大預言者の本業の傍ら、バルフォア学園の教師の副業を持つことになった。