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仲間集め

 まず、大袈裟なくらいの笑顔を浮かべて、叫んだ。


「ああ、ティルダ! 私を助けに来てくれたのね! やっぱりティルダは頼りになるわ。とても、心細かったのよ!?」


 ヤカラに囲まれて怖かった~と、さも言いたげに、ティルダに飛びつく。ハンター含む周囲の人間がどんなにぽかんとしてようが、知ったこっちゃない。


「え、ええっ!? グラディス!?」


 突然私に熱烈歓迎で抱き付かれたティルダは、驚きつつも舞い上がっている。おだてに弱い性格は把握済みだ。絶対に負けたくない相手である私が、弱気で頼ってくれば、これは自尊心がくすぐられるだろう。


「ああ、この先の学園生活が心配になってきたわ。ティルダが私のパーティーにいてくれたら、どれほど心強いかしら」

「ま、まあっ、やっと私の凄さが理解できたのね!?」

「ええ、一番頼りになる従姉妹のティルダに、力になってもらいたいわ」

「おい、ちょっと待て、グラディス! いくらなんでも強欲が過ぎるだろう!? ティルダまでかっさらってく気か!?」


 私の意図に気付いたアーネストが、慌てて制止に入る。

 性格はお調子者でも、魔術師としての腕はすでに一目置かれている妹のヘッドハントは、都合が悪いもんな。

 でも、強い魔術師、欲しいんだよ。


「ああ、そうね。ティルダの都合があるものね。いいのよ、無理はしてほしくないもの」


 寂しそうな顔でティルダから離れ、ダニエルの腕を掴む。


「ダニエルが、ハンターチームを抜けてまで協力してくれることになったから、それで何とか頑張ってみるわ。ティルダがいれば、何の不安もなかったのだけど、仕方ないわね」


 ちらっ、と未練がましく見つめながら、溜め息をつく。ダニエルが露骨にうへえ、と渋い顔をし、対照的にティルダがかっとなって目をむいた。


「何ですって!? 性悪ハンターなんかに、何を頼ることがあるの!? ここに私がいるのに!!」

「――おい、ティルダ」

「分かったわ! この私に任せなさい! こんな女とは比較にならない実力を見せてあげるわ!!」

「ティルダ~、頼むから、手の平で転がされてることにいい加減気付いてくれ……」


 アーネストの願いも空しく耳に届かず、ティルダが力強く胸を叩いた。妹の陥落で、兄撃沈。長い溜息をつく。


「ああ、さすがティルダだわ! やっぱり血縁は裏切らないわね! 強くて信頼できる従姉妹がいて、私は幸せだわ! これで怖いものなしよ」

「当然よ! 私がいれば、他のパーティーなんて目じゃないわ! ほほほほほ!!」


 この場にいる、ティルダとユーカ以外の人間が、なんかどんよりした目でこの小芝居を見ている。ティルダが気付かなければ、それでいいのだ!


 これで魔術師ゲット!!


 さっきから展開されているザ・グラディスショーに、野次馬が大分増えてる。ちょうど通路の合流部分だから、人通りが多いんだ。


 ずっと周囲に気を配りながら、いつ来るかと待ち望んでいた最後の一人が、何事かとこちらに目と足を止めた。


「ソニア!!」


 すかさず笑顔で手を振る。私に気付いたソニアは、ぱあっと素敵な笑みを浮かべ、人混みを掻き分けて歩み寄ってきてくれた。


「グラディス! 入学おめでとう。やっと一緒に学園に通えるわね。嬉しいわ」

「ええ、私も」


 ひとしきり学園での再会を喜び合い、ソニアが不思議そうに周りを見回す。


「ところでこれは何の騒ぎ? 珍しい取り合わせね」


 私を取り囲むようにいる、ハンター家とイングラム家に目を向ける。私は左右の手で、ダニエルとティルダの腕をグイっと引っ張って組んだ。


「この二人を私のパーティーに勧誘したの。できればソニアも一緒だと嬉しいんだけど」


 ソニアに小芝居は必要ないから、素直にお願いする。野次馬の中にいたソニアの従兄弟たちが焦った顔をしたけど、知らん。


「ええもちろん! グラディスと一緒に戦えるなんて、嬉しいわ!」


 ソニア、笑顔で即答。後ろの従兄弟(兄様)たちはがっくりと肩を落とした。もう子供の頃の気弱なソニアはどこにもいない。しっかりと自分の意見が言えるほど成長して、兄様たちもさぞ喜んでいることだろう。


 昨日唐突に閃いた女子パーティー案。ハンターとイングラムから一人ずつ戦力を引っぺがしていただき、更にエインズワース家からもソニアを頂戴して、想定以上に満足の陣容になった。


 すぐ横で、ハンターたちがひそひそやってる声が聞こえる。


「おい、なんか、学園のパワーバランスが一気に激変してね?」

「ああ、女子の戦力トップ3、10分足らずでかき集めやがった」

「えげつねえにもほどがあるぜ。これがラングレーか……」

「戦えなくても侮っちゃいけない相手って、いるんだな」


 反対側では、アーネストが恨みがましい目で私を見ている。


「グラディス。お前、俺に恨みでもあるのか?」

「ふふふ。あなたたちばかりに戦力が集中し過ぎよ? 戦力不足な条件下での戦いは、きっといい経験になるわ」

「何が戦力不足だ。アヴァロン以外の全公爵家が揃ったパーティーなんて、前代未聞だ」


 アーネストの言葉に、周囲がざわめいた。とんでもない事態が起こっていることに、やっと野次馬たちも認識が追い付いたらしい。


 そう。私の新パーティーには、ラングレー、オルホフ、ハンター、イングラムと、4カード揃っちゃってるのだ。ハンターほど露骨じゃなくても、大体身内で組むことは多いから、こんなパーティーはまず前例がない。アヴァロン女子もいたら、絶対勧誘してたのに、残念。


「不慣れな新しいパーティーだから、お手柔らかにね?」


 あんぐりとするガイと苦々し気なアーネストにぬけぬけと言い放って、その場は解散となった。もちろん新メンバーには、あとで打ち合せの約束を取り付けて。


「すごいです~! 『七人のサムライ』みたいです~!!」


 ユーカが興奮気味に感嘆した。――若いのに、随分古い映画知ってるね。私、見たことないけど、どこが『みたい』なんだ? ってゆーか逆に7人から1人ひっぱがしちゃったからね。どっちかというと美少女戦士がよくない?


 口先一つで、ハンターとイングラムとエインズワースの戦力をもぎ取ったこの昼休みの一幕は、その日のうちに学園中に広まった。


 そして翌日には、グラディス・ラングレーは、ハンターに並ぶアンタッチャブルな存在としての共通認識を持たれるようになる。 

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