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バカの集団

 戦闘員でもないのに、なんでかガイ・ハンターにタゲられたぞ!?


 魔法も戦闘力もない一般人が、ガチで騎士の相手なんかできるわけないっての。まったく何考えてんだよ、もう!!


 本気の騎士の動きなんて、目では追えない。しかも騎士がその超人過ぎる力を、全力でスカートめくりに注ぐとか、何の笑い話なのかと。別にパンツ見られるくらいどうということもないけど、無力に負けるのは癪に障る。


 でもまあこの突拍子のないとこが、こいつらの面白さだからなあ。それにちょっといいこと思いついた。少し相手にしてやろう。


 予知全開にして、ガイの出現地点に、予備動作まったくなしの最小の動きで、フェイント入りの横蹴りを放った。

 威力は必要ない。だって、連中の独自ルールでは、対象に触れたらアウトだから。


 私の予測通り、次に目に映ったガイの姿は、私の靴の裏に触れた手を、ピタリと止めたものだった。スカートをめくるために伸ばした手を、私の足で防がれた形だ。


「マ、マジかよっ……!!?」


 ペリドットの瞳を、思いっきり見開いている。


「な、何が起こったんですか!?」


 私の隣のユーカが、瞬間移動のごとく突如横に現れた男と、それを蹴りで迎え打った私に唖然とした。

 周囲の野次馬も、美少女と野獣の戦いの結末に大注目だ。


「うえ~い、何やってんだよ、ガイ! か弱いご令嬢相手に初黒星かよ!?」

「恥を知れ、腰抜けが!!」

「美少女に気を取られたのか!? 大将にチクるからな!!」


 取り巻きと言えどもみんな近い親戚。周りから、負けたボスに容赦ないヤジが飛ぶ。大将とは、ガイの父親、つまり公爵のヒューのことだろう。


 でも、当人はそれどころじゃない。

 私ににじり寄る勢いで、問いかけた。


「直前で軌道ずらしたのに、追ってきたな!? なんでだ!? 見えてはなかったろ!?」


 そう。ガイは私の蹴りをちゃんと見切って、手の軌道を変えていた。ただ、私はその動きを最初から予知していた。フェイントを交えつつ、最終的な予測軌道上に足を置いただけ。ガイの言う通り、目では全く見えなかった。


「計算よ!」

「マジか!? 天才、スゲエな!!?」


 私の適当なごまかしを、ガイが真に受けて驚いた。

 ――そんなわけないだろ!?


 でも、天才と認識してる辺り、私のことは知っていたらしい。


「どうして私を狙ったの? 私が戦えないことは、見れば分かるでしょ?」

「ああ? 見た瞬間、お前は今叩いとかなきゃならねえと思ったんだよ。実際、俺の勘は間違ってなかっただろ」


 当然のように答えた。確かにガイ・ハンターに初めて黒星を付けたわけだもんな。

 それにしてもハンターの野生の勘、油断できないぞ。

 そしてつい3ヶ月前、お前の叔父さんにもケンカ売られたばかりだぞ。


 ガイは面白そうな色を目に乗せて、私を見下ろす。


「お前はなかなか使えそうだな。うちのパーティーにこいよ。いろいろと便利だぜ」


 おお、なんと、ハンターチームへの勧誘を受けた! 数合わせ以外でのこれは、バルフォア生にとっては最高のステイタスなんだ。ハンターのボスに、実力を認められたってことだから。


「悪いけど、新しくパーティーを作る予定なの。遠慮しておくわ」

「何だよ、欲のねえ奴だな。うちに来れば無敵だぞ?」

「それはどうかしら? とりあえず私の弟はあなたと同格だし、私のパーティーにはヴァイオラ・オルホフもいるわ。今までのようにアーネストとの二大勢力の図式は崩れるわよ?」


 私の挑発を、ガイは楽しげに笑って受け止める。


「ははは、いいなあ、その強気は! じゃあ、パーティーは別でいいから、俺の女になれ!」

「絶対にお断りよ」


 すかさず口説き出したガイの言葉を、間髪入れずに撥ね付ける。


 突然の新展開、そして一瞬の決着に、数瞬遅れて周囲がどよめいた。ユーカが隣できゃあきゃあ言ってる。いいから落ち着け。


 公衆の面前で、俺様イケメンから公開告白!! おいしい! 超おいしいけれども!!

 ……ああ、傍で見てる分にはサイコーなトキメキシチュエーションなんだけどね~……。


 ハンター家は絶対ないわ~。そもそも前世も今世もハンターでときめいたことがない。ピクリとも心が動かないっての。昔から、友達には良くても、恋人は絶対に無理。


 こいつらのメンタルは、老若男女問わず、永遠の男子小学生。

 教師時代には、矯正にどれだけ腐心したことか。

 口より先に手を出しちゃいけません。学校の設備は大切に使いましょう。セクハラは犯罪です。――この辺を理解させるのに、本気で3年間要したからね。学級目標かっての。


 ガイは電光石火の拒絶に、納得できない顔をする。


「なんだよ。俺はお前の弟やアーネストよりぜってー強えぞ」


 言うだけならタダだけど、本人的には絶対の自信あっての断言だ。ただしこの場合思い込みとも言う。私の見たとこ、少なくともタイマンならマックスの方がいくらか強そうだ。

 ハンター領は、特に格闘が強い男がモテる傾向が顕著な土地柄。スポーツマンがモテるとか、やっぱり小学生メンタルだ。


「悪いけど、私の好みはジュリアス叔父様みたいな超絶インテリ! ハンター家にはただの一人もいない人種よ!」


 きっぱりと明言した。バカは面白いけど、恋人としてはお呼びじゃないからね。


「瞬殺かよ! だっせー、そっこーでフラれてやがる!」


 取り巻きの一人の女子が、遠慮なしでボスにつっこみを入れる。青い髪にペリドットの瞳。典型的なハンター血統の女の子。

 私はその子を見て、目が合ったところでにっこりと笑った。相手はきょとんとするけど、すぐに反論してきたガイに視線を戻した。


「うるせー! 俺ら全員ディスられてんじゃねーか! お前らもまとめてバカにされてるんだからな!?」


 その女の子含む取り巻き全員に、ガイが当たり散らす。うん、全員血族だもんね。つまり全員バカだね。よく気が付いたね。


 怒鳴られた取り巻きたちは、歯牙にもかけずボスに応じる。


「いや、それ事実だし。うちの血統に天才なんていねーよ」

「脳筋オンリーだからな」

「頭いいのなんて、せいぜいロンのオジキくらいだろ」

「それだって、金勘定だけだろ? あのおっさんも大概なバカだぜ」

「ああ、オヤジは相当のバカだぞ」


 お仲間たちの方が、しっかり現実が見えているらしい。そしてあいつはロンの息子か。この前お前のバカ親父にも口説かれたぞ。お前らどうなってんだ、まったく。


「結論も出たところだし、余計なおしゃべりは後にしてもらえるかしら?」


 収拾がつかないから、無理やりまとめに入る。


「大事な本題はこれからよ?」

「本題?」


 怪訝そうに訊き返すガイに、私は悪い笑みを浮かべる。


「確か私の得た情報では、襲撃に失敗した場合、ペナルティーがあるそうね?」


 ふふふふふ。これだよこれ。私が、最初から狙ってたのは。遠慮はしませんよ。


 ――私にケンカを売った代償は、きっちりいただくからね?

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