表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

135/378

ヴァイオラ・オルホフ(クラスメイト・パーティーメンバー)

 バルフォア学園の入学式。私がどんなにこの日を待ちわびていたことか!


 田舎に引きこもって、ひたすら魔物退治の日々。ライバルらしい対抗馬もないままアッサリ決まった次期公爵の地位。


 別に不満はない。全部望んで頑張って、予定通りにつかみ取った。


 でも、それだけじゃつまらない。叔母様みたいに、お仕事と遊びはきっちりメリハリつけて、遊ぶときは全力で遊びたいのよ。せっかく親元離れて、自由にできるんだから。


 学園は私にとって、修行期間というよりは、遊びがメイン。人生でこの3年だけは目いっぱい楽しんで、その上で勝てればなお良し!


 でも去年成人して跡継ぎに正式決定するまで、王都に来たことがなかったから、こっちでの知り合いとか全然いないのよね。

 まずはお友達が欲しいところね。


 叔母様のアドバイスでは、これから怒涛のように押し寄せる各種イベントで勝ち抜くためには、最初のパーティーづくりが肝心だと言っていた。

 でも、この中で私より強い騎士がどれだけいるかしら? きっと私を利用しようと近付いてくる子の方が多いわね。


 入学式の席は、仲間やライバルを見極めるための最初の場。目を光らせて吟味していると、きゃあきゃあ浮ついている子が目に付いた。

 その子が誰かは、一目で分かった。


 黒い髪と瞳、少し系統の違う顔立ち、風変わりな言動――噂の異世界人ね。まさかこの学園に来るなんて、ラッキーだわ。前から興味があったのよ。色々とお話が聞きたいわ。


 そしてその相手をしている子。そちらは、説明会の時に一度だけ見たことがある。

 何回見ても、目を奪われちゃうくらい綺麗な子。

 グラディス・ラングレー。ニュースでいろいろと話題になる前から、すごく気にはなってた。

 だって、叔母様のお友達だから。それも、誰からも憧れられる叔母様の方が、あの子に夢中と言っていい状況。そんな子が、つまらない女の子なわけがない。


 異世界人と一緒に誘拐されたから、それで親しいのね。二人一緒なんて、手っ取り早いわ。あとでまとめて声をかけてみよう。


 そしてもう一人、目を引くのは、いつもグラディスの傍にいる義弟のマクシミリアン・ラングレー。彼が同級生では、私の最大のライバルだと思ってたけど、参ったわね。あれ、私より確実に強いわ。

 どうやって戦っていけばいいのかしら? 他にハンターやイングラムもいるし、対抗するためにはパーティーに混ぜてもらう?


 でも、私の主義じゃないわね。強い者同士で組んでも、私の成長にはならないし。


 むしろ、グラディスとユーカに興味がある。


 戦力の偏りを最小限にするため、パーティーづくりには明確なルールがある。

 戦闘職二人に付き、必ず非戦闘員を一人入れること。腕自慢の騎士や魔導士はそれを嫌って、パーティーを作らず単独行動を選ぶこともあるらしいけど、私は断然チームでいろいろやりたいわ。

 そしてどうせ非戦闘員を入れるなら、ああいう面白そうな子たちがいい。


 でも、きっとマクシミリアンと組むわね。他に目ぼしい人はいないかしら? ハンターは、チームの邪魔をしないことだけを前提に数合わせで非戦闘メンバーを選ぶらしいけど、それもつまらないわね。戦えないなりに、ちゃんと自分の役割を果たせるような仲間がいい。


 一通りの同級生は観察したけど、やっぱり一番気になるのはグラディスだわ。同じクラスになって、移動から教室での様子までつい見入ってしまったけれど、なんだか、不思議な子。

 騎士でも魔術師でもない。戦闘ができないのは明らか。きっと私の軽い突き一撃で吹っ飛ばせるわ。


 なのに、何故かしら? 全然隙が無い。


 自分に意識を向けている相手と、そうでない相手を完璧に把握してる。先に面倒が起こる前に、近寄りがたい雰囲気や行動で相手を無意識下にコントロールして、ちゃんと対応してるんだわ。だからあんなに目立つのに、周りで不要なトラブルが起こらない。傍にマクシミリアンが張り付いてるからだけじゃなく。ううん、むしろ、彼女の方がマクシミリアンを導いている様にすら見える。


 戦闘で私が勝てないはずがないのに、なんだか敵にしたくない。こんな風に感じるのは、初めてだわ。

 面白くて、ますます目が離せないじゃない。叔母様が夢中になるのも納得よ。


 放課後になると、クラスメートたちがいち早く教室を出て行く。もちろん少しでも使える仲間を捕まえるために。特に戦えない子は、あぶれる可能性が高いものね。


 でも私はつい離れがたくて、席に着いたまま、グラディスたちの様子をうかがっていた。本当なら、私も早く次の行動に移さないといけないのだけど、あの子が面白すぎるのよ。


 そして、なんと突然マクシミリアンとは組まない宣言をした! さも当然のようにあっさりと。

 間違いなく学園でも最強レベルの騎士なのに!


 内心ワクワクとして聞き入ってしまう。


 さすがにマクシミリアンも、ただ一方的に守るだけの対象だからと、渋ってるわけじゃないのね。彼女が総合的には強力な戦力だと理解している。あの視野の広さと天才性を考えれば、戦闘ではなく、きっと指揮官として絶対の力を発揮する。

 あの姉弟が組んだら、きっとかなりの有力パーティーになるでしょうに。


 やっぱり彼女は、何段か高い場所から物事を見ている気がする。マクシミリアンが守っているようで、むしろ彼女に依存しているような状況を、突き放すことで覆そうとしているのかしら。

 きっと彼女から離れたほうが、彼はもっと強くなる。戦闘だけでなく、メンタルの面で。


 グラディスが自分勝手なワガママ娘だなんて噂をしてた者は、とんだ節穴ね。冷静に観察すれば、誰よりも大人の視点を持っているわ。彼女は、多分全部分かってやってる。出鱈目に見える行動ですら。


 そして女子だけのパーティーを作ると、私が聞いていることを承知で口にしている。私があなたに意識を向けていることに、ずっと気が付いていたから!


 私もあなたにコントロールされていたわけね? いいわ! 乗ってあげましょう!


 私は席を立ち、笑顔で彼女たちに話しかけた。


「女子だけのパーティー、いいわね。私も入れてよ」


 ああ、これからきっと、面白くなるわ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ