新パーティー
自由な放課後の雰囲気の中、緊張から解放された生徒たちが、それぞれに慌ただしく動き出す。
「この後、どうしますか? もう帰ってもいいんですか?」
今後の流れがよく掴めていないユーカが、問いかけてきた。
「まあ、帰ってもいいんだけど、普通はパーティー作りかな」
「パーティー!!?」
「今後いろんな学校行事を乗り切るのに、単独はきついからね。まずは1週間後の新入生歓迎バトルロイヤルかな。みんなすぐに動くよ? 早いとこ約束取りつけないと、実力者はどんどん取られてくからね。今日は1年しかいないから、上級生のパーティーに混ぜてもらうなら、明日からの活動になるけど」
驚きに目を丸くしたユーカの表情が、キラキラとする。
「なんだか、楽しそうです! 私『RPG』大好きでした。ワクワクしますね。グラディス、私と組んでもらえますか?」
「もちろん。聖女と勇者はいないけど、魔法使いに、戦士に、賢者にって、まさにリアル『RPG』だね。いいメンバーが集まるといいね」
私もにっこりと承諾した。
その様子を見ていたマックスが口を開きかけた時、私は機先を制して言った。
「あ、私、マックスとは組まないから。もちろんキアランとノアともね」
私の宣言に、話し合う前からいきなり可能性を排除された3人は、ぽかんとした。
「おい、なんでだよ? 俺、当然お前と組むつもりだったぞ」
まったくの予想外だったらしく、マックスが食って掛かってくる。
「ああ、私のことは気にしないで、マックス流の最強チーム作って。あんたなら引く手あまたでしょ」
「最強っていうなら、余計お前が」
「マックス」
静かに言葉を遮られ、マックスははっと口を閉ざした。
確かに最強というなら、私とマックスでチートパーティーの出来上がりだ。
でもそれは、50年前の焼き直しになっちゃうんだよね。
私とギディオンの最強コンビ。
今、それを繰り返すつもりはない。圧倒的にデメリットが多い。
ザカライアの時なら、大預言者として自重せず能力を使い倒した。
今回それをやると、あっという間に正体がバレる。少なくとも、預言者であることは推察されるだろう。
私の言いたいことに気付いたから、マックスも黙るしかなかった。
預言者だと割れたら、私は国に取られちゃうからね。こればかりは、ラングレー家の権力をもってしても、阻止できない国法。徹底的に隠匿するしかない。
で、予言能力を極力封印すると、マックスが私と組むメリットがあまりない。まあ、他にできることはなくもないけど、少なくとも周りから見れば、私が一方的に義弟に守られるだけの雑魚パーティー扱いだ。いくらマックス一人が強くても、さすがに手が足りない。ナメられるのは面白くないしね。
かといって他にいろいろメンバーを加えると、数十年の観察の結果、男女混合チームというのは、やっぱりいらんトラブルが多いと実感で分かってる。
それ以上に、マックスには自由にのびのびやってもらいたかった。きっとその方が実力を伸ばせる。なんか今の状況、女ボスと子分的な感じで、どうにもよろしくない。
何より、前と同じ作戦やるなんてつまらないんだよね。せっかく最高の遊び場に舞い戻ってきたんだから、もっと目いっぱい遊ばないと。
いくら負けず嫌いだって、絶対勝てるゲームじゃ、全然楽しめない。
ギディオンとのコンビはいつもぶっちぎりで勝ってたから、今度はギリギリの勝負に、チームワークで競り勝つというのをやってみたい。チームスポーツには今まで縁がなかったもんな。
「僕たちとも組まないっていうなら、他にもう当てがあるの?」
キアランと組む予定のノアが、訊いてきた。
「まだ当てはないけど、女子だけのパーティー作りたいな」
「わあ、いいですね! 『チアリーディング部』を思い出します!」
ユーカが表情を輝かせて賛同してくれた。
私も今日の朝までは特に何の構想もなかったんだけど、登校してしばらく学校で過ごしてみて、もの凄く痛感した現実があった。
想定はしていたはずなのに、慣れてるはずなのに、想定を遥かに超えていたというか、なんか思ってたのと違うというか――。
とにかく、男の視線が鬱陶しかった……!!
マックスの『エロい』という評価を、正直ナメてた。いくら目立つのが好きだからって、なんかこれは違う。
周りが同世代だらけという環境は、グラディスになってからほぼ初めてだ。周囲がもれなくお年頃。
オスどもの目と、そこに読み取れる思惑が、マジでうるさい。会いに行けるアイドルかってくらいだ。鉄壁のガードで、握手どころか指一本だって触らせる気はないけど。
実際今日だけで、すれ違いざま、何度触れられかけたか。
さすがにバルフォア学園というべきか、図太い奴は少数ながら確実にいるんだ。立て続けにやってくるピンクな予言を回避するのは可能だけど、いちいちめんどくさいし、常時不愉快な気分になる。
そこでいっそ、女子チーム作っちゃえと、思いついた。
変に気を使わないし、すごく気楽で心強い。これはなかなかグッドアイディアじゃない!?
私の知る女子戦力はソニアとティルダしかいなけど、二人を何とかして引き入れたら、それなりに形になるぞ。なんだか楽しみになってきた。
「勝負にこだわらないなら、お前にはむしろ安心な策だな」
「俺が入れないなら、絶対そうしてくれ」
キアランが私の思考を読んだかのように納得した。マックスも渋々頷く。二人とも私の傍で、不届きな奴らに睨みを利かせてくれてたもんね。
でも、マックスという圧倒的戦力を捨ててレベルを落としたせいで、勝負を投げたような解釈してるみたいだな。――分かってないね。
やるからには、私はちゃんと勝ちを目指すからね!
「女子だけのパーティー、いいわね。私も入れてよ」
私たちの様子を見ていたクラスの女の子が、あっけらかんとした調子で話に混ざってきた。
ダークブロンドのショートヘアに、琥珀色の瞳をした、甘い顔立ちの美少女。その風貌と雰囲気で、誰かはすぐに分かる。実はさっきから、視線は感じていて、意図的に女子チームの話を持ち出してたのだ。当然この展開を狙って。
「私の叔母様があなたと仲良しだから、紹介してってずっと頼んでたのよ? 同じクラスなんて、ラッキーだわ」
気さくな口調で、嬉しそうに話しかけてくる。
好奇心旺盛で、オシャレと楽しいことが大好き、ノリがよくて、竹を割ったような性格――そんな叔母さんとよく似ている。でももっと理性的で賢そう。
「ヴァイオラ・オルホフね? あなたみたいな有力な騎士が、うちに加わってもいいの? 私もユーカも、戦闘力はほぼ皆無よ?」
答えを知っていて問いかける。
よっしゃ、大物が釣れた! ――と、内心でガッツポーズを取りながら。
ヴァイオラは自信満々で微笑んで断言した。
「何だか、すごく面白そうな『匂い』を感じる。戦闘は、私が受け持つわ」
その目には、知性の中に強い直観力がある。やっぱりロクサンナの姪だ。
戦えない私とユーカが、ただ無力なだけの女の子ではないと分かっている。
そうだね。台風の目になるように、目いっぱい、面白くしてやろう。
すっかり放り出されたマックスは、とりあえずキアランチームに入ることにしたらしい。頭脳と戦力のバランスが取れた、かなりの強敵だ。腕が鳴るね。