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初ホームルーム

 1クラス20人ほどで、1学年5クラス。


 私のクラスは1年1組。担任が、ライナス・デリンジャー。学園出身ではないから、私の教え子ではないけど、名前は知ってた。

 しがない騎士家の出身で、王都騎士団の隊長にまで成り上った叩き上げの騎士。私も事前の下調べで、教師リストを見て驚いた。怪我で騎士を引退した後、第二の人生に教師の道を選んでたとは。まあ、人を育てるという点では共通してるのかな。


 クラスメイトになったみんなと教室に移動しながら、クラス分けについてのお喋りになった。


「事前に聞いてはいたんだけど、改めてクラス名簿見た瞬間、思わず笑っちゃったよ。僕たちどんだけ危険人物なの?」


 ノアは私と同じ感想を持ったらしい。本人の望むと望まざるとにかかわらず問題が起こりそうな立場の人間の手綱を、修羅場慣れした元騎士隊長にまとめて取らせる気だと。


「師匠の繋がりで指導してもらったことがあるが、厳しくとも筋の通った立派な人だぞ」


 キアランがちょっと嬉しそう。キアランが評価する人なら間違いないんだろう。ユーカが好奇心に溢れた顔をしている。


「また、怖そうな人ですか?」

「元騎士団の隊長出身の猛者だよ。教科は座学の生物」


 私の答えにきょとんとする。


「元騎士が、生物ですか?」

「ここでの生物って、主に魔物についてだから。長年、現場で身近に見てきた経験者の、貴重な話が聞けるんじゃない?」

「なるほど。興味あります」

「ユーカは魔物に認識されない特殊能力あるから、それを生かすなら生物は取っておいた方がいいよ」

「ふふふ。元の世界にはない授業が多くて、目移りしてしまいます」


 念願の教室にたどり着いて、ユーカは本当に嬉しそうだった。

 この世界に召喚されて、1年半。よく頑張ったもんね。

 会話も読み書きもほぼ不自由なくなったし、まだ自由な外出はできないけど、やっと普通の生活の一歩が踏み出せたとこだ。

 王城に軟禁状態だった身としては、同世代だらけの学校という、元の日常に近い環境だけで、はしゃいじゃうのも無理はない。


 名簿順に席に着き、担任のデリンジャー先生がやってきた。と同時に鳴る鐘の音。さすがに規律正しい元騎士は時間厳守が徹底している。

 一目見て本人と分かったのは、その2メートル近い、鍛え上げられた鋼の肉体のせいではなく、騎士独特の空気感をまとっていたから。普通に教師風のスーツ着てるけど、着る服間違ってるよと、内心で突っ込んでしまう。


「君たちを受け持つことになったライナス・デリンジャーだ。このバルフォア学園には、守るべき厳密なルールがあるので、まずはそれを頭に叩き込んでもらいたい」


 手短に自己紹介するなり、早速注意事項の説明に入る。この学園でトラブルなく過ごすためには必須の知識だ。


 デリンジャー先生は、ごつくて威圧的な見た目に反して、とても落ち着いた穏やかな雰囲気の先生だ。コールマン校長のように、第一印象での感じは悪くない。きっと無理にキャラを作ってない自然体だからだろうな。


 ただ、甘いわけでないのも一目で分かる。多分このクラスの半分を占める貴族は理解してるだろう。トップレベルの騎士を身内に持ってるから。

 騎士に馴染みのない一般階級の子たちは、その風貌だけで震えあがってるようだけど、この国の騎士は外見じゃ分からないんだよね。

 トリスタンだって見た目だけなら、なんかテキトーで全然強そうに見えないもん。


「まず第一の絶対ルール。授業やイベントで許された状況以外、一切魔法の使用は禁じる。破った場合は、地獄の合宿(キャンプ)強制参加だ」


 さらっとペナルティを告げる。思わず吹き出しそうになるのを、必死でこらえた。

 私がほとんど冗談で作った罰ゲーム、まだ続いてたのか。ポイントは、学問系の生徒は戦闘の、戦闘系の生徒は学問の猛特訓をさせられるとこ。ひたすら苦痛なだけであまり身にならない、まさに地獄の合宿だ。下手に説教とか停学とかにするより遥かに効果があったんだ。


 魔法の使用禁止というのは、王城とか役所とか、公的機関内での魔法使用が原則禁止されているため。制限なしで使われたら、便利以前にトラブルの方が断然多いから。魔術系の学生にとっては、自宅や外でホイホイ使ってるように振る舞わないための訓練でもある。


 それから学生同士の喧嘩に、学園は干渉しない。

 法に触れない程度でうまくやれってこと。

 ちなみに法に触れたら当然、普通に逮捕される。大怪我させるなんてもってのほか。学園内に治外法権はない。


 学園の基本スタンスが、学生同士での対立も自分でさばけない程度で、厳しい世間に出て行けるかって考えだ。でも社会人として当然法には従えと。


 だから、戦闘の強い奴が、必ずしも有利というわけでもない。

 人間関係をどう作るか、法をどううまく使い、抜け道をかいくぐるか、どんな根回しで有利な状況を作っておくか――つまりどうやって対処するかってことも、やがてトップに立つ人材として、頭と経験を磨くための良い修行になるわけだ。

 成人してからでないと入学できないのは、大人としての行動を求められるからだね。まだ、ちょうど高校生の年齢なのに。


 それから特徴的なのが、全員対等を徹底するため、公式な呼び名は名前のみ。姓はなしになる。

 競争性をより高めるため、熾烈な競争を勝ち抜いた優秀な一般庶民が、学生の半数を占める。彼らには名字がないし、そもそも貴族だと同族が多いから、同じ呼び名が増えちゃう。私もマックスもラングレーだし、ハンターなんて常時5人くらいはいる。

 学園内では、常に名前で呼ばれるようになるから、親しい友達が増えたみたいでちょっと楽しみではある。実際学園出身の同期って、社会に出ても横の繋がりが強い。


 あとは、授業のカリキュラムの説明。大体一周目で通ってた大学みたいになってる。ていうか、私が大分その形に寄せさせた。


 私が学生だった頃のバルフォア学園は、とにかく全部を身に付けろって、けっこうな無茶ぶりカリキュラムだった。

 あまりに非合理的だから、けっこう大ナタ振るってやったつもりだ。私も一周目で空手の選手だった時代、勉強まで頑張らされてたら絶対トップは取れてなかったからね。


 今では必修科目がいくつかあって、他はそれぞれの進路と特性に合わせて規定分の単位を取るシステムになってる。一点豪華主義というか、一芸に秀でたほうが優秀な人材が増えるだろうと、専門性を高めておいた。


 私の場合は自分の会社あるし、進路はほぼ決まってるようなもんだから、科目は興味とか好みで選ぶつもりだけど。


 一通りの説明がすんで、今日は解散となる。デリンジャー先生は本当に最低限の必要事項だけを説明し、さっさと出て行ってしまった。その間、おしゃべりすらする生徒は一人もいなかったから、さすがの空気作りといったところだった。

 教師歴は長くないだろうに、元隊長さんお見事です。

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