学園入学
15歳。
バルフォア学園の入園式の日、生徒の大半が最初にやることは、パーティー作り。
各種鬼イベントを単独で乗り切るのは厳しいから、それはよくある手段。
校内のいたるところで、新入生たちは朝からメンバー選びに奔走してる。
そんな中、私は人混みの中、足取りも軽やかに突っ切っていく。
すご~く気分がいい。
だって、久し振りに王城の外に出れたの! これから、学校のある日は毎日だよ!
ちょ~~~嬉しい!!
この国は大らかというかいい加減というかで、王子のコーネリアスすら、割と一人で出歩くのも見逃されるのに、それ、私には適用されない。
王城に慣れた頃、いたずら心を起こして初めてのお使いをやってみたんだよね。一人でふらっと町まで抜け出して。
そしたらとんでもない数の組織と人員が、私の捜索と保護に動員された。
私、ホントに国家の財産なんだね。改めて実感した出来事。
たまに外に出かける用事が出来たら、色々な関係機関で護衛計画が調整され、大掛かりな警備体制が実施されるの。私はどこの大統領だよ!?
これ、さすがにきつい。もう出る前からウンザリ。
前世であれだけアウトドアだった私が、すっかりインドア派になっちゃったよ。
王城内が一つの町みたいなものだったから、まだマシだったけど。遊び相手もいたしね。
でも今日からは学生! 普通の、とはいえないけど、校内では肩書に関係なく全員新兵扱いが建前だから、私の特別扱いは変わるはず。
それだけで気分が晴れやか。
そしてもう一つ私の気分をアゲるのが、みんなと同じ制服。
いつもの年寄り臭いローブじゃなくて、ちゃんと年相応のファッションができる!
前世の時は制服ってキライだったけど、初めてありがたく堪能してるわー。まあ、この世界の女子ファッションは露出が少ないから、スカートとかほぼくるぶしだけど、このみんな同じって感じがいいんだ。
身分差の激しい世界だけに、ほっとする。
何より、制服姿の私は、なかなかに魅力的なのだ! それが一番でかい!
王城でいい生活を送ってきたから、スレンダーながらも健康的なボディ。緑系の制服に、漆黒の髪とエメラルドグリーンの瞳がよく映える。迫力系美人へのゴールへ向かって、一直線な感じ。
まだきっと誰も、私が大預言者だなんて気が付いてないよ! 基本私の顔を見れるのは、王城内に限られるからね。
バルフォア学園の最大の目的は貴族の跡取りを鍛え上げること。そのためには強力なライバルが必要なわけで、超難関テストを潜り抜けてきた市井の優秀な人材が、生徒数の半分以上を占める。
1学年100人以上。身分もバラバラだけど、学内では全員対等からのスタート。
横並びの状態の同級生たちと、これからどう差をつけていくか――すでに競争は始まっているのだ!
これから3年間お世話になる学び舎を、一人で悠々と散策していた私は、中庭で足を止めた。
一人の少年がベンチで早弁ならぬ早パンをしている。周囲の遠巻きの視線など気にもせず、一心不乱に食べていた。
ライオンの鬣を思わせる濃い金髪、同い年のはずなのにすでに現役騎士かのような体格。一見怖そうな雰囲気と奇行のせいか、あえて近付こうとする者はいない。
けれど私は彼の真正面まで直行した。
少年は食事の手を止め、目の前で立ち止まった何者かへと視線を上げた。鳶色の瞳と目が合う。
「こんにちは。私、ザカライア。私とパーティー組まない?」
名前も知らない少年に、いきなり直球の勧誘をした。
「俺は、大会と名のつくものは、全部優勝をさらうつもりだぞ?」
見知らぬ美少女(自称)からの突然のお誘いに動じもせず、少年は答えた。私はにっこりと笑う。
「奇遇だね。私もそう。私と組めば、その目標は達成できるよ」
断言する。何故ならこれは、大預言者の予言だから。
この人の名前も知らない。
でも、一目見て分かった。コーネリアスやアイザックと出会った時と、同じ感覚があったから。
「ふーんじゃあ、組もうぜ。俺はギディオンだ。よろしく」
「ふふ、よろしく」
握手。――あっ、ちょっと手、拭いてないでしょ!? なんか付いた~!
こうしてパーティーはあっさりと結成された。
この光景を遠くから目撃していた同級生たちは、後に言う。
あの伝説の二人の、初対面から組むまでを、30秒で見れた――と。
これが大預言者ザカライアと、後の公爵ギディオン・イングラムとの出会い。
ちなみにこいつが、撃墜マークのタトゥーを背中に刻む一族の跡取り。一度見せてもらった時には何の絵かわからなかったから、完成したらまた見せてもらう約束をした。――もっとも、完全に完成させた当主はまだいないらしいから、一体いつになることやら……。
まあ、私は脳筋とは相性がいいから、いつまででも付き合ってあげるけどね。
そしてこの二人だけのパーティー。
私は遠くまで見通す目と頭脳、ギディオンは作戦を確実に遂行する強力な手足となって、学園のイベントというイベントで、三年間、予言通り君臨することになる。




