表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

107/378

ダンス

 大分最近まで勘違いしていた、残念な事実がある。


 ソニアと一緒にバルフォア学園に入学するものだと思ってたら、ソニアは一周目で言うところの早生まれだった。私より1か月年上なだけなのに、私より1年先に入学してしまうとは……。ちょっとがっかり。


 おかげで入園目前の準備で忙しいらしく、今年の社交シーズンで予定が全く合わなかった。


 同じく今年入学のティルダは、あちこちの茶会やらパーティーやらにちょこちょこ出てるらしい。あんた、準備はいいの?


 私を負かしてやると意気込んでるようだけど、その前に、ソニアというデカい壁が間違いなく立ちはだかってるからね。

 文武両道容姿端麗、おまけに魔法もかなりのものだから、私よりよっぽどバランスいいのに。世間的には私、公爵家の直系なのに魔法も剣も使えない、ただの浪費家我儘お嬢様だし。

 魔力が強い分ティルダの方がよっぽど有利なのに、やたらライバル認定してくる不思議。まあ、去年のお遊び以来、一年経っても火が消えないんだから、ある意味もの凄い執念と根性の努力家だわ。


 約半年ぶりに会ったティルダはナイスバディに磨きをかけて、15歳にしてすでに、ほぼ理想的なセクシー体型になってた。


 今日のパーティーで私とバッティングして、さっきから絡んでくる。


「あんな離れた場所から姿を見つけるなり、わざわざ私の元まで来てくれるなんて、よっぽど私のことが好きなのねえ」


 思わず感心した。私は嫌いな人間にはそんな情熱をかけられない。興味がなければここまで絡めないんだけど。


「相変わらず、自分に都合のいい考えしか持てない残念な頭をしてるわね! 目障りだと言ってるのよ!」


 ティルダは顔を真っ赤にして怒る。隣にはお目付け役の兄、アーネストが困った顔をしている。でもアーネストもマックスも、女の戦いに介入する蛮勇の持ち合わせはないらしく、お互いのパートナーの隣で黙って観戦中。


「あら、あなたも大分目立ってるわよ? やっとご自分に似合うドレスをご理解なさったのね? 今日のはとっても素敵」


 細かい点はいろいろあるけど、及第点をあげると、ティルダの頬がピクリと動く。


「ふ、ふん! 今更ご機嫌を取ったって手遅れよ!」


 あら、嬉しそう。私にちゃんと褒められたの、初めてだもんね。分かり易くて可愛いなあ。この子の指導は鞭9・飴1くらいがちょうどいいか。すぐ調子に乗るけど、やればできる子だから、もっと磨いてみたくなる。


「あとはダンスよねえ。せっかくの素敵なドレスが泣いてるわ」


 さっき見たけど、アーネスト相手に辛うじてドタバタやってる残念な感じだった。私はマックスと踊りながら、もの凄くもったいなく感じていた。せっかく妖艶な雰囲気なのに、あれがいわゆる残念美人というやつなのか。


「ちょっといい加減にしてちょうだい! 今度はダンスなの!?」


 ティルダは思わず、といった様子で金切り声を上げる。

 体型を貶されてダイエットをし、正面対決で負けて魔力を磨き、似合わないと馬鹿にされた衣装問題も今回クリア。と思ったら新たに出されたダンスの課題。悲鳴を上げてしまうのもわからなくはない。

 あれ、それにしても、ホントに頑張る子だな。これは従姉妹としても、是非自分磨きの応援してあげねば。


「ふふふ。私、ダンスは得意なのよ? なんならリードしてあげましょうか? 今よりずっと素敵に踊れるわよ」

「あんたがリードですって!? やれるものならやってみなさいよ!」


 私の他愛ない挑発に、ぱくりと食いつく。なんだかはしゃぎすぎる愛犬に、右に左にとフリスビーを投げつけてる気分だ。ダメな子ほど可愛いというやつか。


「ティルダ、いくら何でも、それは……」

「一度言い出したら、もう無理だから」

「……ああ、うちもだ」


 制止しかけたアーネストは、マックスの諦観した助言にため息をついた。どちらも大変な姉妹を持ってご愁傷様です。


「お嬢さん、お手をどうぞ」

「下手なリードだったら許さないわよ」


 私がリーダーになって、ティルダとホールドを作る。数年前とは段違いに細くなった腰に手を添えた。

 おおう、このダイナマイトに、ちょっと興味があったのだ。私は長身のモデル体型だから、ティルダより10センチは目線が上にある。私も結構なものだったつもりなんだけど、それ以上に谷間がなんかすごいことになってる。ああ、ちょっと顔を埋めてみたいかも。そして是非『インパクト』の下着のモニターをお願いしたい。


 音楽とともに、ステップを踏み出した。


 突如始まった美少女同士のダンスに、ホールの視線が一斉に集まるのを感じる。しかもどちらも公爵令嬢、注目度マックスだ!


 ああ、楽しー!!


 ティルダが隙あらば私の足を踏もうとしてるけど、そんなのに捕まるわけないでしょ。諦めてダンスに専念しなさい!

 今日のドレスは膝丈で、足さばきも快調。優雅ながら男性的な身のこなしを、意識的に演出してみる。強調した重心移動で、フォローしやすくしてやったら、ティルダの動きが目に見えてスムーズになった。

 元来戦闘一辺倒の武骨なイングラム家には、ダンスの名手なんていないだろうからなあ。ほら、新しい世界を開いてやろうじゃないか。


 ティルダが驚いたように、私の目を見上げる。


「ふふふ、リーダーが上手だと、ダンスが楽しいでしょ?」

「ふん! ぜ、全然よっ。相手があんただってだけで、マイナスなのよ」


 不満そうな言葉とは裏腹に、なんかすごい笑顔なんだけど。本人気付いてないね。

 これが世に聞くツンデレか。前にノアに言われた、クールな猫が甘えてきたってやつ。これは確かにたまらんわ。思わず抱きしめたくなる微笑ましさだ。


 曲の終わりとともにフィニッシュを決めたところで、周囲から歓声が上がった。

 ティルダが思わぬ拍手に、目を丸くした。照れて緩みかける表情を、無理やりつんとさせる。ああ、これはハマったな。


「楽しかったでしょう?」

「別にっ! ……でも、たまにだったら、また踊ってあげてもいいわよ」

「ふふふ、じゃあ、それまでにもっとうまくなっていてね。基本が大事なのは魔法と一緒よ」


 君は努力を惜しまない子だからね。本当に次が楽しみ。


 体を離して周りを見ると、トリスタンとクエンティンが遠くから拍手してた。父親同士も一緒にいたのか。ジュリアス叔父様は姿が見えないから、何かの商談で別室にいるんだろう。


 マックスの元に戻ろうと動かした視線が、ある一点で止まった。


 笑顔で私の元に歩み寄ってくるトロイ。その横には、一度だけ見たことのある、黒髪の少女がいた。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ