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建国600年祭

 今年の秋は、珍しく公爵家一同含めて主だった主力が、王都に集結している。


 建国600年祭のイベントが目白押しのせい。ラングレー家も、トリスタンとマックスが、社交時期でもないのに王都の別邸に滞在中。イーニッドは、双子ちゃんと一緒に領地でお留守番。こっちに来られるようになるまで、あと2~3年はかかるかもしれない。


 数日続いた祭典の最終日、本日が最大のメーンイベントだ。預言者筆頭エイダ率いる預言者一団の、来年を占う大仰な儀式が始まる。


 場所は国立闘技場。競技場じゃないとこがこの国らしい。大きな国家行事は大体ここで行われる。

 すり鉢状の観覧席の最前列に、五大公爵家の席がある。キアランは当然王家の貴賓席。ソニアとかノアは侯爵家ブースで、ちょっと離れていた。


 ラングレー家からは、トリスタンとジュリアス叔父様、マックスと私のお馴染み超目立つらしい四人衆での出席。私は相変わらずお姫様のようにちやほやされてる。


「やっとこれで終わるな」


 一連の義務から解放されることに、マックスがほっとしてる。本来は領地でバリバリ魔物狩ってる時期だもんね。いくら頼りになる身内に任せてても、一週間も空けるのは心配だ。


「この儀式終わって屋敷に戻ったら、すぐ領地に発つなんて大変だね」


 トリスタンのせっかちに付き合わされるマックスに同情する。例によって5日の行程を2日で帰る超強行軍。さすがにマックスでもきついらしい。


「もう慣れた」


 そう答えながらも苦笑い。まあ、素でスパルタ受けてるだけあって、すごく逞しくなってる。トリスタンに何とか付いて行っちゃうんだから、大したもんだよ。


 公爵席から周囲を見回すと、今世の知り合いが大分増えた気がする。


 イングラム家を見れば、クエンティンと、3人の子供。にっこり手を振ったら、クエンティンは苦笑い。アーネストは手を上げてくれたけど、ティルダは思いっきり『ふんっ』とそっぽを向いた。ふふ、あれはあれで可愛いな。スタイルも前より良くなってるし、やればできる子なんだね。


 アヴァロン家のルーファスには、視線だけで挨拶をする。こらこら、そんな露骨に表情変えたら、不審に思われちゃうでしょーが。ギディオンの葬儀以来だからほぼ二年ぶりくらいか。お年頃の美少女に微笑まれて、照れてるのかね? ふはははは、逃がした魚は大きかろう?


 前世では気が合う奴が多かったバカ揃いのハンター家とは、まだ接触なし。あのトリスタンと並んで問題児だったヒュー・ハンターが公爵とか笑えるわ。強さが正義のこの国ならではだな。


 あとはオルホフ家の――。


「ハイ、グラディス。今日のドレスも可愛くて素敵ね」

「あら、ありがとうございます。ロクサンナ様のドレスも、セクシーでとってもお似合い」


 後ろから、ロクサンナ・オルホフ公爵が声をかけてきた。今回の式典の数日間で、世間的には大分マブダチ感を演出してきている。以後、ロクサンナが王都にいる時は普通に接触できるはず。


「ロクサンナ様はお忙しくてまだマダム・サロメにいらしてないでしょう? 昨日、この秋の新作が並んでいましたわ」

「ええ、本当? それじゃ、これが終わったら、早速行ってみるわ。今年の秋冬は何が流行るのかしら?」

「一押しはパンツスタイルですわね。ロクサンナ様がお召しになったらとってもクール」


 二人でキャッキャウフフと趣味の話に花を咲かせる。宣言通り、ロクサンナにはマダム・サロメの広告塔を頼んでるから、斬新で挑戦的なデザインのドレスを意欲的に回している。私自身も実質ティーン部門の広告塔だから、私とロクサンナが並ぶと、ドレスだけでも相当目立つ。

 おかげさまで売り上げは年々上がる一方。すでに回り始めた高級志向の第二工場での生産を受注して、ますますガッポリというわけだ。


 盛り上がる私たちのファッション談議に、マックスが、うへえと言いたげに、少し距離を開けた。私は楽し気にロクサンナの耳元に手を当てて、内緒話をする。


「トリスタンにも言ったけど、この後、何かあるかもしれないよ。アリの時みたいに」


 ロクサンナは目を丸くしてから、口元に笑みを浮かべた。


「まあ、本当? それは楽しみね」


 本気とも演技ともつかない返答。私も笑顔で頷いた。


 予言は何もない。あくまでも推測。ギディオンの葬儀の時と、状況がよく似ている。あそこでやるなら、ここでもやるんじゃないか?

 そもそもあんな観衆の中でやらかすこと自体、派手好きの血が騒ぐ。最終的な被害を増やすことが目的なら、警備が手薄な場所での召喚の方が効果的。そう考えれば、やっぱり目的は騒動を大きくすることの方だろう。たとえすぐ撃退されるとしても、目撃者の数は桁違いになる。

 だったら、私なら絶対今やるね。だって、超劇的で目立つもん。あの時を遥かに上回る派手な大舞台。騒ぎを起こすならもってこいだ。ここでやらなくてどこでやる。


「あ、エイダが出てきたわ」


 預言者の一団が、エイダを先頭に姿を現した。私もかつて着た、儀式用の厳かな衣装を身にまとって、闘技場の中央に進み出る。


 ここでなんか昔から伝わる祝詞的な呪文を唱えるんだよね。『真言』と呼ばれてて、古くからずっと預言者によって続けられているらしい。

 あれ、何の意味があったんだろう。意味不明の外国語を丸暗記したままに発声してるような呪文。音の高低から長さ、発音まで、先代の筆頭から口伝で完全コピーさせられた。

 よく分からなかったけど、私はあれを重要と感じていた。権威ばかりの無意味な儀式は嫌いだ。手を抜けるとこはできるだけ抜いてた私が、あの真言は全力でやってた。


 全員が所定の位置に付いて、エイダが第一声を発しようとしたその瞬間……。


「あ、まずい。……来る」


 囁くほどの声。

 反応したのは、傍にいたロクサンナと、ラングレー家の三人だけだった。


 儀式に乱入するように、闘技場いっぱいに広がる魔法陣が、地面に浮かび上がった。


 ――ああ、やっぱりあの真言は、必要があって連綿と続けられてきたんだ。


 だから今、邪魔された。

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