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学園準備

 12歳になった。王城に住み始めてから、何事もないままもう5年。


 今日は王子の専用訓練場にお邪魔している。コーネリアスとアイザックの剣の訓練の見学。

 もちろん冷やかしのためです。


「ヘイヘーイ、ビビってんのかい、ボクちゃ~ん! へっぴり腰だぞ! アレはちゃんとついてんのか!?」

「さっきからうるさい! 下品なヤジを飛ばすな! 無駄に見てないで、おまえもやってみろ!」


 休憩に入ったところで、アイザックがすぐさま言い返してくる。相変わらずクソ真面目だけど、今ではすっかり打ち解けて仲良しだ。……多分。


「え~、私、女の子だから~。暴力とか嫌いだし~」

「どの口で言ってるっ。毎日殴る蹴るの練習してるじゃないか!」


 それは多分空手の(かた)のことだね。


「あれは戦うためにやってるんじゃないからね。ただの趣味。まあ、ダンスとでも思ってよ」

「ああ、うん。分かるよ。あれはとてもきれいだよね」


 コーネリアスが同意してくれる。ああ、相変わらず可愛い。


「ふふ、二人の稽古も、大分カッコが付いてきたよね。初めて見た時は子供のチャンバラだったのに」

「毎日練習してるからね」

「当然だ」


 二人が剣の稽古を真面目にしているのには、訳がある。

 本来次期国王と、文官の名門の御曹司が実戦に出ることはまずないもんね。


 これはいわゆる『学園対策』ってやつ。


 この国、15歳から17歳までの3年間、王侯貴族の子弟は、王都のバルフォア学園に入る義務があるの。そこで魔法や戦闘技術、学問なんかを磨くことになる。

 これは、私も入学することが決まってる。貴族じゃないけど、立場はそれ以上だからね。


 初めて聞いた時は、そりゃ、おおっ! って、思ったよ。

 それ、なんて乙ゲー!?

 私、攻略には参加できないから、悪役やってあげるよ!! なんなら盛り上げるために、預言者の力も駆使しちゃうよ!! って。

 思春期の男女をまとめてぶっこんで、それはもうきらめくような青春ストーリまっしぐらかと、当然思うじゃない?


 でもこの国は、そんなに甘くなかった!


 春の全学年合同バトルロイヤル歓迎会と、魔物狩り大会。

 夏の森林地帯サバイバルと、レスキュー競技会。

 秋の領地経営論文選考会と、魔道・武道勝ち抜き戦。

 冬の雪中行軍と寒中水泳大会。

 その他、諸々。エトセトラ。


 そう、学園とは名ばかりの、これはブートキャンプだ!!

 しかも座学より、完全に肉体言語寄り!!


 クソの役にも立たないクソうじ虫どもを、3年間で国家の役に立つ最精鋭に仕立て上げてやるぜ!! が目的の、超スパルタ学園なのだ!!

 まさにノブレスオブリージュ!! ……なんか、技名みたいだね。


 そういうわけで、貴族の子弟は子供の内からお受験対策かのごとく、入学準備をしておく必要がある。モヤシのまま入ると、初っ端から地獄を見ることになるからね。


「おまえはあと3年で入学だろう? 学園は、王子も大預言者も、特別扱いはないんだぞ。少しくらい練習したらどうだ」


 のんき過ぎる私を見かねて、アイザックが真面目に忠告してくれる。う~ん、ツンデレ君だね!


「まあ、なるようになるよ。基礎体力くらいはつけてるしね」


 助言には感謝しつつも、のほほんと答える。実は特に対策のようなことはしてないし、するつもりもない。

 そもそも、刃物を持つつもりがないからね。日本人の記憶があるからなのか、自分が剣を振るって血の雨を降らすビジョンが全く浮かばないんだ。

 戦闘は騎士や兵士、魔導士の仕事だし、その役割の人に任せとけばいいって割り切りがあるんだよね、私の中で。


 その代わり、私にしかできないことをするんだ。


 預言者としての教育はもう完全に修めたし、学校で学ぶ程度の座学なら問題ない。


 これは、選択と集中ってやつ。当たるとデカい代わり、失敗すれば後がない方針だけど、私の場合、選択という意味では完璧に進路が決まってるわけで。そこに集中していくだけ。

 変に無理して、趣味以上に戦闘技術を齧る意味を感じない。


 見てて気が付いたけど、この世界の人間は、強さに限界がない気がする。

 ゲームみたいにレベルだのスキルだの固定された職業だのってのはないけど、積んだだけの経験値は、きっちり積み上がってるんだ。

 だから、王都で普通の人間相手に稽古するのと、国境近くで魔物と殺し合ってるのとじゃ、強さが段違いになる。


 魔物相手に魔法と戦闘技術を磨いてる騎士の強さって、多分化け物級。だから、才能の差はあるとはいえ、一番多く戦っている公爵が、一番強い方式が成り立ちやすい。やった分だけの努力が実るという点では、いい世界だよね。


 本来負けず嫌いの私がそこを目指したら、大預言者の役割なんて絶対どこかに投げ出しちゃうからね。

 自重が必要なんだよ。


「大丈夫だよ。私は私のやり方で、学園生活を乗り切ってやるから」


 ニヤリと笑った私に、アイザックは露骨に苦い顔をした。イヤな予感がする、とか思ってそうだな。

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