その16
自分たちが疑われていたと聞いた皆は、水源のことを睨むように見つめた。それに水源はすぐさま否定の声を上げた。
「皆さんのことは疑っていません。疑いのある人物を試験官に選ぶわけないじゃないですか。ただ、情報がその方にいかないようにセーブはさせていただきましたけど」
そう言って唇を噛みしめる水源。それに秋月忍が聞いた。
「で、今はどうなっているの」
「ああ、はい。現実世界の舞花さんの身体が行方不明です。私も先ほどまで邪魔をされていて、こちらに来ることが出来ませんでした」
淡々という水源にひとみんみんが険しい顔で叫ぶように言った。
「先にそれを言ってよー。大変なことになっているじゃない」
「ああー、ですが大丈夫です。舞花さんの行方は全力で追っていますから」
「でも、人手はあった方がいいのでしょう。戻りましょう」
みわかずの言葉に星影と小鳩子鈴が頷いた。
「いや、まだだ。水源さん、どうやって山之上さんが居なくなったのか教えてくれ」
海水の言葉に水源は顎に手を当てて考えるようにした。
「5日前に舞花さんのパソコンにトラップが仕掛けられていることが分かったから、舞花さんには予備のパソコンでこちらにアクセスさせていました。と言っても自分のアバターは使えないので、入るのではなく外から見ているだけでしたけどね。それでも、皆さんをピンポイントで見つけ出してトレースしてましたよ。ただ、あの場所を出た後の行動がわからなかったのです」
「水源さん、ちゃんと情報を渡してくれなくては困ります。私達のことを疑っていないのなら、なぜ妨害が入って入ることを教えてくれなかったのですか」
秋野木星の言葉に皆が頷いていた。続けて海水も言った。
「それにわからないって、なんだよ。監視がついていたはずだろ」
「監視ではなくて護衛です。それでですね、この4日間舞花さんが家に戻るまでに1時間、彼女の行動が掴めない時間が出来たのです。舞花さんに聞いてもその時間に何をしていたのか教えてくれませんでした。というよりも1時間の空白を分かっていないみたいでした」
「ちょっと、それで護衛っていえないでしょう」
「まあ、そこに関しては相手の方が一枚上手だったということです」
水源は苦笑いを浮かべながら言ったが目が笑っていない。その護衛についた人物がどうなったのかはわかるというものだろう。
「それで今日は舞花さんのパソコンに仕掛けられたトラップを解除して、お昼には舞花さんがこちらに入れるように準備をしていたのです。ですが、隙をつかれて舞花さんが使っている部屋に入れなくなりました」
「入れなくなったって、鍵は水源さんと山之上さんの2人しか使えないはずだろ」
水源はその言葉に顔をしかめた。
「やられました。キーになるものとパスワードまでも、変更されて私は締め出されました」
「締め出されたー? 何してたんだよ」
「だから、待ちなさいよ。まだ話は終わってないでしょ」
Pecoが水源の胸倉を掴んだら、秋月が割って入った。Pecoはすぐに手を離したけど、水源のことを睨みつけるのはやめようとしなかった。
「それで、水源さん。部屋に入れなかったからって手をこまねいていたわけじゃないのでしょう」
「勿論です。あの部屋は角部屋で出入り口は一つです。窓もありません。だから一度入ったら簡単には抜け出せません。部屋の中には1人の人間がいるのは分かっていましたし、あの部屋からここにアクセスしているのも把握していました」
「・・・相変わらずというか、なんだよそれと、言うべきか・・・」
「まあまあ、海水さん。それなら山之上さんの居場所は把握していたということなのね」
秋野木星の言葉に水源の口元には自嘲の笑みが浮かんだ。
「いえ、部屋に入った時には舞花さんはいませんでした」
「居なかった? サーモグラフィー使ったんだろ。それでも騙されたのか」
「ええ。パソコンの前に人形が置いてありまして、それにどうやったのか人と同じ体温になるように設定がなされていたようです。舞花さん用のパソコンもありませんでしたから、どこかに移動してここにアクセスしていたようです」
皆はその事実に黙りこんでしまった。そこに小鳩子鈴が「あの~」と言った。皆の視線が集中したことで、たじろいだのだった。