その14
山之上舞花は苦笑を滲ませた顔で、皆のことを見つめている。でも、言葉を発しようとはしなかった。代わりに別の人物が小鳩小鈴の疑問に答えた。
「皆の推理は残念ながらはずれよ。彼女は山之上舞花その人よ」
「ええ。私にもそう感じられます。山之上さんは山之上さんです」
秋月忍がキッパリと断定するようにいい、占い師のひとみんみんも別人ではないと肯定した。
他の人達は納得できないように山之上のことを見つめていた。その皆の様子に山之上は困ったように微笑んだ。
「えーと、疑問はもっともなのだけど、それについては説明がしにくいというか・・・」
「なんで? もしかして二重人格だったの?」
山之上の言葉に長岡更紗が訊いてきた。それにも山之上は曖昧に笑っている。
「そういう訳ではないのだけど・・・。それを説明する前に、私の話を聞いてくれませんか」
他の人達はお互いの顔を見つめ合っていた。説明をしてくれるのなら、話を聞いてみようという気になったようだ。
「わかったわ。話して頂戴」
秋月忍が山之上のことを見つめながらそう言った。山之上は立ち上がると皆に向けてお辞儀をした。顔を上げるとキリッと皆のことを見つめる。
「ありがとうございます。それでは・・・海水さん、秋野木星さん、星影さん、秋月忍さん、みわかずさん、小鳩子鈴さん、pecoさん、ひとみんみんさん、長岡更紗さん。あなた達をネット小説侵入罪で逮捕させて頂きます」
「「「・・・はあ~?」」」
山之上の言葉に皆は驚きの声を上げた。そして訝し気に山之上のことを見つめたが、その中で星影と小鳩小鈴の2人は視線を逸らして落ち着かなげにしている。
「な~に、それ? えーと、ネット小説侵入罪? 聞いたことないんだけど」
長岡更紗がそう言った。他の人も頷いたりしている。その様子を見ながら、山之上は微笑んだ。
「長岡さん。お認めになられるんですね。皆さんも」
「はあ~? だから、聞いたことないって言っているでしょう」
「ええ。でも、ネット小説という言葉は知っていらっしゃったのですよね」
「だから、そんなの知らない・・・」
長岡は勢いよくそう言ったけど、確信を得たような山之上の表情に言葉が小さくなっていく。山之上はニッコリと笑った。
「あのですね、皆さんがこの世界の方なら、ネットという言葉に反応するはずです。この世界では聞き慣れない言葉ですもの。ですが皆さんは『ネット小説侵入罪』という言葉に反応されました。ということは『ネット』もしくは『ネット小説』という言葉に、親しみがある環境にいるという証拠ですよね」
山之上の言葉に秋野木星と星影、みわかず、小鳩子鈴、ひとみんみんは皆の顔を見回していた。
「それに調べはついています。皆さん「小説家になってみよう」というところに登録をなさっていて、それぞれ小説を投稿なさっていますよね」
山之上はまたニッコリと笑った。それに秋月忍が聞いた。
「あなたは何者なの、舞花さん」
「私は内閣府総務部ネット犯罪対策課VR係小説家になってみよう班に所属しております、山之上舞花です。以後お見知りおきください」
そう言ってまたニッコリと笑う山之上。何人かは挙動不審になっている。そんな中pecoが訊いてきた。
「山之上さん、『内閣府総務部ネット犯罪対策課VR係小説家になってみよう班』というのはなんだい。聞いたことが無いのだけど」
「そうですよね」
と、pecoの言葉に頷く山之上。
「皆さんは数年前からゲームのバーチャルリアリティー化が進んでいることはご存知でしょうか」
「ああ、もうソフトも10数種類発売されていたよな」
海水が腕を組みながら答えた。
「はい。それと同じことがネット小説でも始まっています」
「始まっているのなら違反にはならないのでありませんの~?」
秋野木星が首を傾げながら山之上に言った。
「そうですね。ちゃんと条件を満たしているのでしたら、違反ではありません」
「それなら「海水さん」
海水が声を上げたら山之上は言葉を被せて来た。海水は山之上に見つめられて口を閉ざした。
「この世界は海水さんが書かれた「野菜将軍と赤いトマト」の世界で間違いないですよね」
「あ・・・ああ」
海水は渋々という感じに頷いて認めたのだった。