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12/29

その12

その言葉にリクもカチンときたのか、山之上のことを睨みつけた。


「マシってなんだ? あのなあ、教えるってのは大変なんだぜ。それが分かっているのかよ」

「分かっているわよ。というか、まさか教えるのがシチューだけだなんて言わないわよね」

「それは・・・サラダとか」

「ハッ! サラダ! バカにしないでよ。それこそお母さんの最初のお手伝いレベルじゃない。バランスもなっていないし」


山之上が莫迦にしたように胸元で腕を組んでそう言った。こんな時なのに、押し上げられたたわわな実りがもっと自己主張をしたから、リクと海水はそこに視線が釘つけになった。


「そ、そんなことを言うんなら・・・、あんたなら何を作るんだよ」

「あら。それなら、私も勝手に作っていいってことなの?」


顎を上げて半眼で見下ろすような視線で、山之上はリクのことを見つめた。リクも視線を山之上の目に向けて見つめ返した。


「ああ。やれるもんならやって見ろ」


その言葉に山之上はフフンと笑った。


「じゃあ、好きに作らせてもらうわ」


踵を返すと、山之上は食材が置かれているところに行って、お肉や他の野菜を選び出した。それを籠に入れて自分が使う台に戻ると、猛烈な勢いで調理をはじめた。

呆気にとられたように見ていたリクも、ハッとして他の食材を取りに行き、同じように猛烈な勢いで調理を始めたのだった。



バターン


「すみませ~ん。遅れました~」


長岡が息を切らしながら集会所の調理場の扉を開けた時には、出来上がった料理を並べた台を挟んで、リクと山之上が睨み合っていた。他の8人は少し離れたところから見つめている。


その10人の視線が長岡に向いたので、長岡はたじろいだ。長岡の姿を見た山之上がニッコリと笑った。


「ちょうどいい所に来てくれたわ、長岡さん。来て早々悪いのだけど、この料理のジャッジをしてくれないかしら」


事情が分からない長岡のそばに山之上は来て腕を引っ張った。それを見ていたリクが言った。


「どうせならわからないまま、食べてもらおうぜ」


そう言って、隣の部屋に長岡を連れていった。テーブルに長岡が座りその周りに星影、みわかず、ひとみんみん、秋月忍、peco、海水が座った。秋野木星と小鳩子鈴は給仕を頼まれたようだ。


2人がまずはサラダを持って入ってきた。その間に長岡は簡単に何があったのか説明をされた。


「何をしているのよ、あの2人は」


説明を聞いて呟いた長岡の言葉に6人は頷いたのだった。


公平を期するためにどちらがどちらを作ったのかわからないように、料理については説明をされなかった。


「う~ん。こちらはレモンが効いているわね。で、こちらは・・・ワインビネガーかしら。味が深いような気がする」


長岡が試食を始めると皆の分も2人は持ってきた。皆も無言で食べて頷いたりしていた。


その後、長岡以外の皆も料理を運びに行った。それぞれの料理を別々のお皿に盛るのでなく、同じ系統のものが一つのお皿に載せられていた。ただ、スープとシチューは別々のお皿によそられていたけど・・・。


結局リクと山之上も、皆と同じように自分たちの分を用意して、皆で試食をすることになった。


肉は鹿肉と鳥肉。野菜の和え物は菜っ葉の種類が違うみたいだった。ゴマが効いていたり、オリーブオイルが効いていたりと味の変化を皆は楽しんだ。


「もう少し食べたいな~」


味比べのために少なくよそっていたので、全部をぺろりと平らげたみわかずがそう言ったら、「私も足りない」と秋月忍も言った。そして長岡を見つめると聞いてきた。


「長岡さん。あなたはどちらが好みだったの」

「え~。困ったな~。決められないよう~。どちらも美味しいんだもの」


長岡は困ったように皆を見回しながら言った。


「それじゃあ、サラダはどちらが良かったの」

「え~と、サラダはワインビネガーの方が味が深くて好きかな」


長岡答えたら、星影が「私はレモンの方が良かった」と言った。


「お肉は?」

「鹿肉ってもっと癖が強いかと思ったけどそんなこともなくて、私は鳥肉より鹿肉の料理の方が好き」

「野菜の和え物はゴマが香ばしくて好きよ」

「人参のポタージュよりシチューの方が好き」


と言った。これで、リク、山之上両名の料理が、どちらの料理も2品づつ選ばれたことになる。


「それじゃあ、右側に置かれていたものと左側に置かれていたもの。総合的にどっちが美味しかったの」


長岡はしばらく目を瞑って考えた。そして言った。


「パン」

「「「パン?」」」


目を開けた長岡が言った。


「そうなの。このパンが美味しかったのよ。料理の味を邪魔しないし、これだけでも味があって美味しかったわ」


長岡はこれで、白黒つけなくて済んだとホッとした。だけど、なぜか微妙な空気が流れていたのだった。



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