義弟が都会の絵の具に染まってきた
義理の弟が突然消えてから10年。
あの頃は本当に大変だった。
突如消えた弟。
私ははじめてっきり弟が落ちたのだと思って周辺をくまなく探した。しかし弟はいない。靴一つ落ちてやしなかった。
お父様やお母様に説明もした。
両親もひどく驚いて悲しんだ。
同時に彼が魔法を使えることを伝えたが、どうやらそれは知っていたらしい。
彼の本当の両親も魔法が使える人たちだったからだ。
死んではいない、と両親はそう言った。
勉強してもいないのに魔法をやみくもに使ったためにどこかにテレポートしてしまったという話だった。
どこかで生きているなら帰ってくる。
そう思っていた。
でもローレンスは帰ってこなかった。
1年が経ち、2年が経った。
そして今年で10年目。
とっくの昔に諦めていた。
しかしその日は突然やってきた。
「手紙…?」
【もうすぐ帰ります。ローレンス】
短い手紙には何故か季節外れな春の花が数枚入っていた。
え、なにこれ…。
しかし今はそれどころではない。
ローレンスが帰ってくる?
一瞬誰だっけ?とか思ってしまうほど記憶の彼方で消えたあの弟が帰ってくる?
こうしちゃいられない、とバタバタと家に駆け込み弟がいなくなった日のように私は両親の元へと駆けて行った。
「お父さん、お母さん!ローレンス、が…」
「やぁ、ねえさん。久しぶり」
台所とリビングの繋がった部屋には案の定両親と、なんと先ほど来たばかりの手紙の送り主の姿がそこにはあった。
そこに居たのはびしっとスーツを着こなすキラキラしたイケメンだった。
「人違いです…」
私は開けっ放しだったリビングの扉を閉め外に出た。
ローレンスなのか、いや、違う違う、どう見ても年上だった。
あまり変わらないだろうが私よりも大人っぽい雰囲気は年下のそれではない。
それよりなにより服装のセンスのかけらも持ってないローレンスがあんなにびしっとスーツを着こなせるわけもそんなスーツを選べるわけもない。
自分の空への憧れが弟になんらかの火をつけてテレポートしてしまったことに今更ながら責任を感じていた。
「ねえさん」
「なんでここにいるの…」
扉を閉めて外に出たらそこには件の大人な弟が立っていた。
解せぬ。
何故ここに、あ、そうか、この人魔法使えるんだった。
あの頃でさえ練習していたのだから今はもっと使いこなしているに違いない。
事実彼はテレポートをしてきたのだった。
感動の再会にむせび泣くと思われた義理の姉の塩対応ぶりに苦笑しながらも弟はテレポートで外に出てきた。
にこりと余裕ぶった姿勢も大人になったことを示したいがためのことで、その実そわそわとハグのひとつでもしたい程にローレンスは感極まっていた。
「あの時、時代ごとテレポートしちゃったんだけど、戻れるくらいに魔法を使いこなすまでに時間がかかっちゃって…」
「そ、そう」
ぶっ飛んだ話である。
まるで、おとぎ話のようなことを言うこの弟。面影はあるものの涼しげな目、ガタイの良さが服の上からもわかり、伸びに伸びた身長は姉よりも頭ひとつ分以上あった。
イケメンすぎる。
「(天使が、小悪魔に…)はっ!いやいやそれよりもどうかしたの…?というか貴方は本当にローレンスなの?年齢は…?」
「ねえさんを迎えに来るためにいろいろ用意してたら誤ってねえさんより年上になっちゃったけどローレンスだよ。」
「人って年上になれるもんなのね…え、ていうか迎えに…?なんの?」
きょとんと顔を傾ける。
物わかりの悪そうな姉にローレンスは優しく微笑む。
「やだなぁ、僕らは許嫁じゃないか」
きっとなにかの間違いである。