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呪縛様のせいで、華藤アオイとデートをすることになってしまった。


デートの場所は自然公園と決まった。

というか、華藤が決めた。

あいつめ、俺の攻略には金を掛けないつもりか。


俺はそんなお安いキャラではないぞ。たぶん。


それにしても、待ち合わせよりもやけに早い時間に着てしまった。

まだ、20分はある。

よく考えたら、生身では初めてのデートになるんだよな。


大丈夫。

俺には二次元での余りある恋愛経験値があるんだ。

豊富なシチュエーションに対応できるはず!


服は、水ノ宮クローゼットに、いかにも攻略対象キャラっぽい爽やかな私服があったので困らなかった。

水ノ宮になってから、まともに外出すること自体、これが初めてだ。俺って、インドア派だから。


今日も天気が良い。


こんな時はラノベがある。

俺は公園のベンチでページをめくり時間を潰すことにした。



***



「なんか、学校とあんまり変わらないね」

「華藤か」

「ごめんね、待った?」

「いや、まだ少し読んだだけだし、そんなに待ってない」


俺は、皮のカバーという自意識を掛けられた文庫本を閉じた。


本当は50ページくらい読んだけどね。

小説内時間では、2年くらい進んだけどね。


「そう、よかった」


華藤はそう言ってホッとした顔をする。

時間は待ち合わせピッタリだ。どうやら、学校と違ってデートには遅刻しないらしい。


華藤アオイの私服を見るのは初めてだ。

思ったより乙女な印象だ。


女の子の服とか、よく解らないけど、取り敢えず柔らかそうな生地で、デザインも凝っているというのは認識できた。

フワフワした感じの上着に、花柄のロングスカート。


ロングスカートというのは、いいよな。

なまじ生足を露出されるよりも、想像力を掻き立てる部分の残されている領域が遥かに広いのだから、その分だけ、エロいと言えるよな。


だって、あの中で何が起こっているかなんて解らないわけだし。


「あれ、私の服、へ、変かな?」


俺が、あんまりジロジロ見るもんだから、華藤は赤くなってしまった。

呪縛様が、勝手に何か言い出すんじゃないかと思ったが、それもないみたいだ。


デート中のコミュニケーションは、俺本人に任せてくれるんだろうか。


変な間が空いた気がするが、やむを得ないな。


「ん。ああ、可愛いと思うよ」

「え? そ、そうかな、照れるじゃない、えへへ」

「うん。なかなか可愛い服だ」


服だけに限る評価だと良い改められたことで、華藤は口を尖らせる。

照れ隠しなだけで、実際、華藤は可愛い。

乙女ゲームの主人公ということは、女子にとっては、こうなりたい自分が投影されているってことだもんな。

そりゃ、可愛くて当然なんだ。


だが、面と向かって言えるには、まだまだ俺の実戦経験が不足している。


「少し歩かない?」

「そうだな」


そんな流れで、俺たちは自然公園を並んで歩き始めた。


俺は、黙って歩いた。


しばらく俺は、黙って歩いた。


会話のネタなんて一つも思い浮かばないからな。

華藤も、いつもは騒がしいだけの女かと思っていたが不思議に黙っている。


でも風が心地良い。

強いて何か話さないと、というプレッシャーも何故か感じない。

なんだか穏やかな時間だ。


「ここは、マイナスイオンが気持ちいいよね」


華藤が、そんなことを口に出した。

何故か棒読み。


ああ、さては攻略のあれだ。

選択肢で選んでる会話なんだ。


たぶん3つくらい選択肢があった内の1つなんじゃないだろうか。一番、無難なやつを選んだと思う。

ここは呪縛様の出番だ。


「そうだな」


俺の口からは短く同意する言葉が発された。

それだけかよ、呪縛様。

何か他にもっと気が利いた選択肢が有って、選ぶのを間違ったんじゃないだろうか。まあ、俺自身が呪縛様がどんなことを言われて喜ぶのか検討もつかないんだけど。


華藤も間違ったと思ったらしく、肩を落として溜め息をつく。

その背中がなんだか小さく見えた。


俺の知る華藤アオイは、もっと快活で、下手するとギャグマンガの人かと思うくらいのキャラなのだが。


「華藤、お前なんか疲れてないか?」

「え! 嫌だな、そ、そんなことないよ」

「俺の目は誤魔化せない」

「えー、え、えと、そう、そうだね、ちょっと疲れてるかもしれない」


華藤は認めた。


俺たちは、池のそばのベンチを選んで座ることにした。

俺が促すと、少しずつだが、最近の充実してはいるが過酷な、乙女ゲーム攻略の日々を語り始めた。


なんでも、攻略対象を落とすためには、かなりの出費が掛かるらしく、小遣いや貯金だけでは全く足らないので、華藤はバイトを幾つも掛け持ちしているのだという。

なんか、まるで課金ゲームにハマってる人みたいだ。

それだけでも、十分大変なのに、部活は3つ席を置いているし、生徒会にも特殊な役目とやらがあって、顔を出しているそうだ。


主人公パラメータを上げないと、そもそもモテない乙女ゲームの世界だ。

学業、運動、美容、情報収集と、やらないといけないことは多い。


そして更に、攻略対象を攻略する時間をとらないといけないわけだ。


聞いているだけで疲れる話だよな。


今、何人を攻略しているのか問い詰めたら、華藤は渋々、俺を含めて6人だと認めた。


「6人も付き合ってどうするんだ」

「ま、まだ、誰とも正式に付き合ったわけじゃないって」

「欲張らずに、誰か一人にしろよ」

「それは勿論、最後にはそのつもりよ。でも、まだ今はね、誰か一人を選ぶなんてできないよ」


華藤は、本気で好きになれる相手を見つけるための努力を、今しているのだと言う。

後悔したくないし、可能性を広げたいから、気になる男子とはなるべく仲良くなってみようとしている。

かなり貪欲だけど、別に間違ってるわけでもないのかな。


華藤自身は、この世界が乙女ゲームであることには無自覚みたいだ。

ただ、男を攻略しようとしていることについては認めている。


それにしても自分の肉体を酷使し過ぎている。

疲れてるはずだよ。


俺だって、ゲームならカッチリ突き詰めた同時攻略をやるわけだから、気持ちはわからなくもないけど、実体のある自分の体でそれをやろうなんて想像したこともなかった。


どう考えても、肉体的にも、精神的にも不可能だと思うけど。


「もう少し人数を絞らないと、今のペースじゃ持たないぞ」

「そ、そうなんだよね」


乙女ゲーム世界で攻略を頑張りすぎて過労死とか、洒落にならないよな。


「俺でよければ相談に乗ってやるから、何でも話せよ」

「う、うん。何か変な気がするけど、こんなこと相談できたのって、水ノ宮くんが初めてだし、お願いしても、いいかな?」

「おう、スケジュールの組み方から全部、変えていこう。なんか、楽しくなってきた、俺」


乙女ゲームこそ、やったことがない俺だが、ようは恋愛シミュレーションの男女逆転版なんだ。

勝手が違うところは合わせていくとして、俺が力になれないはずはないのだ。


こうして、俺の、攻略対象でありながら、攻略を応援するという、意味不明な学校生活が始まったのだった。




この辺で長編の臭いが漂うのですが、次で終ります。

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