表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5



ある日、屋上から教室に戻る時にそれは起きた。


学校という建造物は大抵、俯瞰(ふかん)で見ると、『U』かないしは『L』の文字をしている。

当然、廊下には曲がり角がある。


何故か?


自明の論理であろう。フラグを立てるためだ。

曲がり角があればそれは即ちボーイミーツガール。

色恋沙汰の衝突が起きるしかない宿命(さだめ)のヒートスポットなのだ。


俺がちょうど、当の曲がり角に差し掛かった時に、やはり女子が突然姿を現した。


「おっ!」

「うわっ」


ぶつかると思ったが、俺の身体に掛けられた恋愛回避の呪縛が恐るべき効力を発揮し、俺は忍者並みの敏捷性を見せて完全に女子のタックルを避けた。


女子はよろけながらも、体制を立てなおしそのまま廊下を走っていく。


「ごめんねー」


振り向いた笑顔には八重歯が特徴的だ。

揺れる短いスカートの下から、黒のレギンスが見えている。


黄色い髪をショートに切り揃えた、ボーイッシュな感じの女子生徒だ。確か、陸上部の2年で、何かの大会に出たか何かで有名な子だったと思う。


だからと言って廊下は走っては行けない。


危うくフラグが立つところだったじゃないか。

いや、いいんだけどね。立っても。


少し残念な気分がした俺だったが、これで終わりではなかった。

なんと二段構えだったのだ。


後ろから曲がり角を曲がって現れた次の女子を俺は完全に避け損ねた。


「待ってよお────わっ!」


もの凄い勢いで、何者かが俺を押し倒した。


俺の呪縛を越える者がいるだと⁉


「うわっ!」

「へう?」


俺と女子生徒はもつれ合いながら、廊下に倒れ込んだ。

呪縛による回避が中途半端に作用したのか、後ろから来られたのに、仰向けに俺は倒れた。

女子生徒はその上に、覆い被さってくる。


「んっ?」


結果、お互いの口唇同士が合わさってしまっている。

これは有名な事象なので説明不要な気がするが、いわゆるキスというやつだ。


事故からのキスか。

立ったな、フラグが。


「や、やだ、ごめんなさい!」


彼女は顔を離す。

大きな瞳に、優しげな柔らかい印象の顔立ち。ピンク色の繊細な絹糸を束ねたような美しい髪を、左右で縛って後ろに落としている。


「大丈夫か?」

「う、うん」

「だったらそろそろどいてくれないか。重いんだ」


口をついて出てくる冷たい台詞は、呪縛のせいだ。

ほんとのところ大して重たくないし、むしろ柔らかくて気持ちいいから、しばらくこのままでもいいくらいだ。


「ひ、ひどい」


そう言いながら彼女は立ち上がろうとする。


「い、痛っ、あ、あう」


だが再度、俺に倒れ込んでくる。

仕方なく俺は自分の身体と合わせて、彼女のことも抱き起こした。


「何か痛い」

「足を挫いてるんだ。どうやったら、人をクッションにした上に負傷までできるんだ」

「私、生まれつきドジなの」

「はじめて見るよ。そんなやつ」


俺はそう言うと、彼女の身体を抱き上げた。

お姫様抱っこというアレだ。


「や、やだ」

「黙れ、保健室に連れていくだけだ」


おお、なんかいつもと違うぞ。

呪縛が珍しく恋愛イベントに積極的だ。


しかし、このまま自動的に身体が動くのかと思ったら、そうでもなく保健室までは自前の意志と体力を使って彼女を運ばないといけないみたいだった。


ここまでやった後で、降ろすわけにもいかないし、仕方ないな。


ただ、周りの目があるので、これは中々恥ずかしい試練だった。

男子に冷やかされたり、女子に悲鳴を上げられたりしながら、俺は廊下を進んだ。


「は、恥ずかしいんですけど」

「贅沢を言うな」


そう言えば、名前を聞いてなかった。


「俺は、水ノ宮ユキト」

「し、知ってます、じゃなくて、えと、私、華藤(かとう)アオイ」


それが、俺たちの出会いイベントだった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ