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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

私がレズビアンだった訳

作者: 芝井流歌

決してハッピーエンドではありませんが、今だから書き記そうと思いました。

忘れたい過去だけど、幸せがあったことまで忘れてはいけない、と。


仲良しグループから誕生日にもらったメッセージボイスCDが出てきたので、いろいろ思い出して細かく書いてしまいました。


実話なので、生々しいのが苦手な方にはおすすめできません…。

 これは私が彼女と出会ってからの約7年間の、最初で最後のレズビアン経験の記憶と思い出。



 小学生の頃は控えめというより暗い子だった私は、いじめにあっていたせいもあり、同じくいじめにあっている子を放っておけない性格で、その子がいじめから解放されるまでずっと一緒にいて尽くすというのを繰り返していた。


 尽くしている間はやたらめったら世話を焼き、これでもかというほど気を引こうとしていたのかもしれない。


 でもその子がいじめから解放されると私はまた一人になり、引き止めるわけでもなくぽつんと佇んでいた。


 いじめ云々ではなく、放っておけないという性格は今でも私の根っこでもあり、それを自分で苦しめているのも把握している。


 でも人に尽くすことは悪いことではないとは思うものの、私の尽くし方で相手を甘やかしたあげくに狂わせてしまうことが今でも自分の課題である。


 放っておけなくて尽くしたあげく、ゆがんだ愛情に苦しめられたり、レイプされたり暴力を振られたりと一般的に『それはダメでしょ』という人間に変えてしまい、結局尽くし方に誤りがあったことに最終的には気付くのだが、その時にはもう手がつけられないほど相手は狂っていて、それに自分が苦しめられるということを繰り返してきた。


 彼女と出会い、付き合うまでに数人の男性と付き合っていたけど、だいたいそんな理由でDV彼氏やヒモ男に育ててしまっていたので長くても二年くらいしか続かなかった。


 ダメ男を作り上げてしまうのは私の甘やかしが原因なのだということにまだ気づいていなかったので、自分は男運も見る目もないんだとばかり思い、彼氏というものにうんざりしていた。


 ちょうど大手の会社に正社員として入社できた頃、アルバイト経験が役に立ち仕事が軌道に乗っていて、仕事が生きがいになっていた。


 営業関係をしていたので土日祝日が一番忙しくて、公休は平日だったし、もともと友達が少ないので休日は専ら趣味と休息に当てていた。


 趣味というのはアニメやゲーム、主にミュージカルなどの舞台を観に行くこと。


 仕事の日は帰りが遅く、夕飯を食べ終わる頃には0時手前になるのでアニメやゲームはほとんど消化できず休日に回していた。


 平日なので舞台を観に行ってもチケットが取りやすいし、ついでに買い物をしても混んでいないから公休に不満はなかった。


 でも、アニメやゲーム、舞台について語る友達がいないことがつまらなかった。


 せっかく気持ちを共有したくても語る相手がいないのでは消化不良だったから。


 そこでネット上で共通の趣味の友達を作るということを学び、SNSというものにたどり着いた。


 パソコンに疎い私は使い方がよく分からなかったが、始めた頃に出会った人がとても親切に教えてくれてSNS上で少しずつ友達ができた。


 その中にいた男性が私の人生を大きく変えた一人、のちに私の彼女になる女性の兄だった。


 その男性とは共通のアニメの話で仲良くなり、家が近いことも分かったのでカラオケに行こうと遊びに行った。


 男性は大学生で、平日休みな私とも時間が取れた。


 おすすめのアニメや曲の話をしているうちに、自分の妹のほうが話が合うかもしれないから紹介するよと言い出したので、私は当然楽しみにしていた。


 妹の話を聞いていると、私との共通点がとてつもなくあることが発覚し、これは運命なのかと男性も私もびっくりしていた。


 それはアニメや曲だけではなく、私が抱えている先天性の難病と全く同じ病気を持っていたから。


 日本に二万人ほどはいるらしいが、同じ病気の人に出会える偶然にびっくりしていた。


 病気といっても見た目では判別できないが、治療法がなくただじわじわと悪化していくのを待つしかない難病。


 見た目では分かってもらえないもどかしさと、じわじわ悪化していく将来への不安を共感できる相手と仲良くなるのに時間は係らなかった。


 男性が連れてきた妹、それが彼女。


 彼女とは病気の話や趣味の話、お互いが興味を持っていることなどをシェアしていくようになった。


 彼女は飲食関係の仕事をしていたので同じく平日が休みで、公休が合う日は毎回のように遊んでいた。


 舞台を観たことがないという彼女を私が好きなミュージカルに連れて行き、楽しんでくれたようなのでDVDを貸したり、それに出ていた役者が出演する舞台を観に行ったりと、私たちはどんどん趣味が重なり話題もつきなかった。


 お茶やご飯に行っては閉店までしゃべり、駅に着いては終電ぎりぎりまでしゃべり、映画や舞台やカラオケや買い物、どんなことをしても楽しくて、口調も服の好みすら似ていった。


 その当時は仕事上はハードで理不尽なパワハラにも合い、休日の癒しだけが生きがいになっていった。


 仕事は拘束時間も長いし忙しい、でもやりがいのある仕事だったから好きだった。


 でも体は徐々に苦痛を訴えてきて、不眠やら偏頭痛やら胃潰瘍やら動悸やらで私を追い詰めていった。


 時間や内容ではなく、上司からの理不尽な圧力と、教育していた人が次から次へとやらかす失敗を背負うという精神的なストレスがいつの間にか体の不調を限界まで押し上げていた。


 それ以外の人間関係や給料にも何ら不満はなかったけれど、どうにも体がいうことを聞かなくなり、精神的ストレスと認められずに、退職届けには体調不良と書くように指示されるがまま提出して休職に入った。


 同時平行してSNS上での友達が増えていたので、いっそみんなで遊ぼうということになった。


 一つのアニメが共通点で、私を介してみんなもそれぞれ友達になっていった。


 そうやって数人で遊ぶようになって四か月くらい過ぎた辺りから、急に彼女は私が他の子と話すのを嫉妬するようになった。


 みんなで遊びたくないわけじゃないけど、独り占めしたいんだと口にするようになった。


 私を介して集まった仲間だったので、遊びの計画を立てることには文句は言わなかったものの、私が話す相手に睨みつけるとか無視するとかクレームが上がるようになっていった。


 唯一彼女がおとなしくしていたのはネットを使って音声通話する時だった。


 当時はグループ通話ではなく、個人で話していたので彼女が私を独り占めできる安らぎの時間だったと言う。


 いつの間にか私たちの仲間は7人グループになっていた。


 付き合って8年のレズカップル、男性恐怖症の子、男好きだけど彼氏ができない子、自分が好き過ぎて男を見れないこ、そして彼女、私を含め異色な7人グループだったけど、みんなで遊んでいる時はわきあいあいと楽しく過ごしていた。


 彼女の嫉妬がなければ。


 そのグループにいるレズカップルはとてもお似合いでみんなの公認だったから、彼女が私に片思いをしていることも異様な感じではなかったという。


 一人、自分好きな子が、彼女が私を独占したいという願望などから私が中心となって集まったグループだとはいえ、自分が中心じゃないことがおもしろくないと言って抜けてしまった。


 その子は別に自己中心的なわけじゃなかったけれど、自分を見てほしいという欲求が強かったため、片思いされている私に嫉妬のようなものを感じていたらしい。


 それだけみんなの前での彼女のアピールが激しかった。


 バレンタインが近かった二月の中旬、私たち6人はアニメのバレンタインイベントに参加した帰りにファミレスに寄ってイベントの楽しかった話や近況の話で盛り上がっていた。


 会場が近かったせいもあり、周りはイベント参加者で混雑していたので、3人ずつのテーブルに別れて座っていた。


 もちろん彼女は私の隣に座っていた。


 それぞれのタイミングでドリンクバーに取に行き、二人きりになったところで、今日みんなにチョコレートをあげようと思って持ってきたんだとかばんの中を見せた。


 個々の好みやイメージに合ったものを選んでいたので大きさが違うことに指摘してきた彼女だったが、彼女のチョコレートが一番大きかったことに喜び、浮かれていた。


 ドリンクバーから戻ってきた子にそれぞれチョコレートの説明をしながら渡していくと、彼女はあからさまにおもしろくないといった表情でトイレに向かった。


 空気は当然悪くなったが、彼女が私関係ですねることは珍しくなかったのでほそぼそと会話を再開していた。


 しばらく経ってもトイレから戻ってこないので、仕方なく私は迎えに行った。


 いつもいつもすねたら慰めにいくまで強情に意地を張っているから迎えにいかないことには帰ってこないのは分かっていた。


 トイレの壁にへばりついていた彼女は案の定すねていて、声をかけても一言も応えてくれないが、彼女にあげたチョコレートは私が一番食べたかったから選んだんだと言ったことに対して反応を示した。


 つまりそれは、自分のことを一番に思ってくれているということなのか、と尋ねてきた。


 八方美人というわけではないが、昔からいじめられっこで友達と呼べる存在ができたのは高校生からだったから、私は友達というものをとても大切に思っていた。


 高校の時は親友と呼べる子が一人いただけで、誰かを特別というわけではなくみんな大切だから仲良くしたいと思っていると伝えたが、彼女の思いを知っている以上、邪険にも扱えなかった。


 トイレという場所なのにも関わらず、今でいう壁ドンのような状態になり、自分のことをどう思っているのかと何度も聞かれた。


 平等にチョコレートを渡していた中でも自分のは特別なんでしょと半ば強引にもっていかれたが、ここで折れてしまっては調和も乱れるし、なにより彼女のこれからを乱したくなかったからその問いかけには率直に違うと答えた。


 何人もの女の子が異様な目でトイレを去って行き、もういい加減戻ろうと説得したが、キスをしてくれたら戻ってもいいというわがままを言い出したので、みんなに心配と不快な思いをさせているんだと叱り、彼女を置いて先に戻った。


 いつもならぐだぐだと説得に応じずにすねていた彼女だったが、この時はめったに怒らない私がそんな顔をしたのが効いたのか自力で戻ってきた。


 案の定みんなの空気は微妙なまま解散したので、さすがにこれが続いていたらどんどん友達が減っていくんだよと言い聞かせ、曇った表情のまま彼女を電車に乗せた。


 その夜は音声通話の連絡がなかったのでちょっと心配になったけど、甘やかしすぎて調和を乱されてはいけないと思い、あえてこちらからは連絡をせず、頭を冷やす時間を与えた。


 それから数日後、反省したのかしょんぼりした声で連絡がきたので音声通話で長々と深夜まで話続けていた。


 今までの彼女の態度について指摘したり、それにかぶせて私のことがどれだけ好きなのかを説明してきたりと堂々巡りの内容だった。


 冒頭でも書いたが、私は尽くす性格のため、場合によっては思わせぶりな態度ともとられることがあった。

 でも決して媚びを売ってるわけではないし、がんじがらめにしているつもりもなかった。


 ただ、寂しそうな人や危なっかしい人に手を差し伸べて尽くして甘やかしてしまうところは悪かったのは分かっている。


 彼女の場合、高校を卒業して就職のために上京して、家族や友達と離れていたこと、仕事に夢中になっているうちに友達を作っていないことに気付き、その時に共通点のかたまりの私と出会った。


 仕事仲間以外では上京してから初めてできた友達とも言っていたから、たくさん遊んでたくさん楽しんでたくさん笑ってほしくて私の友達も紹介した。


 彼女の言うこと、お願い、わがまま、全部聞いてあげていたことがいけなかったんだと気付いたのは彼女がみんなの前ですねて空気を乱したり、私が話している子に睨みつけたり無視するようになってから。


 私のことを思ってくれているなら、みんなとも仲良くしてほしかったけど、私は自分の経験と比べてみて、自分の片思いの男性に個人的に向き合ってもらえなくてみんなと仲良くしようだなんて言われたらふられているようなものだと考えた。


 だからといって、私ならみんなの前で調和を乱すような態度はしないとは思うけど、それが彼女なりの愛情表現だったのだろう。


 男女関係ならよっぽどの理由がない限り、ここまで押されて断ることはないかもしれない。


 少なくとも私は数人の男性と付き合ってきてそういうことがなかったわけじゃなかったから。


 でも、彼女を引き離さなきゃいけない理由はたくさんあった。


 初恋は中学生の時の同級生の男子と聞いていたが、それ以降好きになったのは女の私だけということ。


 別に同性を好きになってはいけないとは思わない。


 実際レズカップルを公認しているし、偏見もない、むしろ元彼たちのようなダメンズと付き合うよりもよっぽど幸せだと思う。


 ただ、彼女は彼氏を作ったこともなければ男性経験もない。


 二十歳を過ぎてそこそこの女の子が男性を知らないまま女の私と付き合うのは彼女の人生に汚点を付けることになると思ったから受け入れてあげれなかった。


 そして彼女はハーフのような端整な顔立ちで色白で、このままレズにしてしまうのはもったいなかった。


 きっかけと出会いさえあればモテモテになること間違いなしの容姿だったのもある。


 その容姿を甘やかさないまま男性との出会いがあれば、こんなことにはならずにすんでいたのにと思った時にはもう遅かった。


 パソコンで音声通話している向こう側では彼女の落とし作戦が繰り広げられていた。


 以前から私の声が好きだと言ってくれていたのはとても嬉しかった。


 私は元々役者志望だったが顔にコンプレックスを持っていたのと、アニメが好きだったので声優の勉強をしていたこともあった。


 決して女の子らしい声とは言えないが、ボーイッシュで中性的な声だと言われていたこともあり、芝居では男役も多かったし、声優の道も少年ぽい役を希望して養成所に通っていた。


 声だけは唯一褒めてもらえて嬉しかったけど、下世話な話、その声聞いてると濡れると言いながら水音を立てられて、その時だけは嬉しいのとはちょっと違う微妙な気持ちだった。


 その態度に私もとうとう突き放さなければならないという決心をして、距離を取ると言って通話を切ろうとした。


 だが彼女は急に豹変し、ここまでさせておいて付き合ってくれないなら死ぬ!と泣き叫んだ。


 今でいうヤンデレというやつだ。


 おどしだとは分かっていたけど、もうどうにも収集がつかないことに観念して、私たちは付き合うことになった。


 付き合ったと言っても前となんら変わりのない生活だと思っていたが、独占欲の強い彼女はメールや電話、時間が合えば彼女の一人暮らしの部屋に泊まりにきてと、それを濁したり断ったりすると前以上にすねた。


 すねるどころか死ぬという脅し文句をよく使うようになっていった。


 それでも私は彼女の笑顔のためならと思い、できる限り尽くし、それに応えて喜んでくれることに自己満足していた。


 付き合ってから四か月くらい経って彼女の仕事の契約更新があったが、前々から永久就職にするつもりはないと言っていたので更新せず、彼女も私も休職者になった。


 一緒に転職先を探そうと職安にも通ったが、彼女の家と私の家では職安の管轄が違うため、ただ見て帰るだけという日もあった。


 そんなことの積み重ねで彼女は私の家の近くに引っ越すことを決め、一緒に物件を探した。


 いろいろと物件を見ているうちに私もその気になっていき、真剣に引っ越しを手伝った。


 荷造りもせっせと手伝い、近所のスーパー、ドラッグストア、飲食店、病院、どこが安くてどこがおすすめだとかいろいろ教えて頼られて調子に乗っていった。


 彼女は私がいないと生きていけないと言うように、私も彼女は私がいないと生きていかれない、そう思うようにすらなってしまった。


 お節介、いい言い方をすればお世話焼きな私だったので、実家暮らしの私が昼ご飯を食べようとした時に寂しいと電話がくれば、一緒にどこか食べに行こうと外食をした。


 外食は当たり前になり、お互いに退職金や失業手当で暮らしていることにも関わらず、貯金がぎりぎりになるまでほぼ毎日昼夕を二人で外食した。


 お金に余裕がなくなってくると、私は家で食事をするようになったが、やはり彼女が寂しいと電話してくるので駆けつけ、不器用ながらも粗末なものを作って食べた。


 部屋のカーテンもじゅうたんもテーブルもシーツもラックも小さなソファーも、全部私の意見を求めてきて、私もそれが頼られてる証拠なのだと信頼し、アドバイスをすると彼女はまったくその通りに買い揃えた。


 マグカップもお茶碗も二人でお揃いを買い、昼食もおやつも夕食も彼女の部屋で過ごすようになった。


 時には帰ろうとする私のことを冷たいとののしり、泊まるというまでだだをこねたこともあったが、それも当たり前のようになるとだだをこねるのも愛されてる証拠なのだとかわいく思えていた。


 そのかわいいと思う気持ちがいつの間にか愛おしいという気持ちになり、私にとって彼女がいる生活が幸せになった。


 私はレズということに偏見はないし、私自身がそうなっても別に大した問題だとは思わなかった。


 ただ、これから知り合う人はともかく、家族はもちろん友達には打ち明けられるはずがない。


 唯一の理解者であり応援してくれていた友達はレズの子たちだけ。


 それでも今が幸せだし、これからもずっと二人は幸せでいる自信があった。


 今までの男性経験からして、暴力を振ったりお金を巻き上げたりされる心配もないし、アニメや歌、ミュージカルやカラオケ、買い物、スイーツ巡り、病気の話、遊びに行くことも話題が尽きることも全くない。


 男性と付き合うよりも同性である彼女と付き合っているほうが何倍も充実していた。


 旅行に行っても一緒に温泉に入れたし、ずっと一緒にいられるという同性愛ならではの楽しさがあった。


 ただ、彼女のだだをこねたりすねたりする癖はどうしても治らない、というよりもエスカレートしていった。


 ファミレスの店員の態度がちょっとそっけないだけでイライラしているのをなだめようとすると、店員の味方するのかと機嫌をそこねてしまい、食事がきても手を付けず、私がなだめる言葉を失って黙ってしまうとしまいには泣き出すという不安定な状態になっていった。


 毎日そうだったわけではないけど、パワハラが原因で不眠症や体の異変を起してしまうくらいの精神力な私には支えるのにも限度があり、とうとう体調を崩して彼女の部屋にも行けなくなって会わなくなった。


 彼女は自分のせいだと自覚をして泣き叫びながら電話をしてきたけれど、その時の私には違うよとなだめることはできなかった。


 会わなくなって数日が経つと、私の家に毎日来るようになった。

 実家暮らしの私の家には行きづらいとずっと言っていたけど、会えない寂しさに耐えられなくなったようだった。


 それから彼女は私のことを甘やかそうといろいろ尽くしてくれた。

 幼少期に甘えることができなかった私は甘やかすことはできても、誰にも甘えることができない甘え下手だったが、彼女にはすぐに心を開けた。


 ベッドの横に座り、頭をなでてくれるだけで気持ちは安らいでいったし、今まで彼女のためにご飯を作ったり紅茶を入れたりしていたのを全部してくれることが嬉しくて私も素直に要求できるようになっていった。


 そのうち私の体調も回復して、また彼女の部屋に入り浸るようになっていった。


 お互いにお互いを思いやって支えあって、時には二人でだだのこねあいをして、ケンカもするようになった。


 でもそれがまた居心地よくて二人でずっと部屋にこもるようになり、私は連泊をしていた。


 私の家から徒歩8分くらいのところに住んでいたので、私の親は当然いい気はしてなかったし、ご飯を作ってくれてるのに外食をするのかと言われ続けていたけれど、彼女を寂しそうな顔にしたくないし、私自身も一緒にいたいから歯止めを付けられなかった。


 もちろん後ろめたさはあったし、街中を手を繋いで歩いていることも連泊していることも、ふつうの友達以上な関係だと思われているだろうと形見の狭い思いはあった。


 それでも私の家族には彼女のことを悪く思ってほしくなくて、愛想よくしてほしいとかたまにはうちに来て差し入れをしてほしいとか工作することもあった。


 彼女は女の子らしさもあるがさばさばしてたりねちねちしてたりと地雷のありかが分からなかったけど、私を甘やかす時は母親以上に母性あふれた口調で接してくれた。


 私が幼い時に欲しかった包み込むような優しさに心を溶かされ、どんどん甘えるようになった。

 子供に戻ったようにママー!と呼ぶと、どうちたの?と優しく返してくれてなでてくれた。


 外出している時は私が彼氏のようにリードしているけれど、彼女のベッドの上では一方的に女の子にされていた。


 不思議なもので、そういう受け攻めという話は、レズカップル仲間の間ではぴたりと当てられていた。

 一見リードしているようだけど、実は攻められないでしょとはっきり分かるそうで。


 お返しをしようとしても彼女はあまり求めてこないし、私のそういう姿を見たいだけだからと断ることが多かった。


 私の性格も声も体もすべて好きだと言ってくれて、私も自然とそれを信じていられた。


 ふつうの男性にそんなこと言われたら逆にうさんくさいと引くと思うけど、彼女の目も口調も態度もすべて私を愛してくれていたのが全身で感じていたからこそ信じていられた。


 私もそれに応えるように甘えまくった。


 今までは尽くすことで愛情表現をしてきたけれど、甘えることで信頼しているということを表現できた。


 だから私は同性に肉体をいじられても素直に反応した。


 心から愛していたから。


 最後まで愛していたから。


 別れを切り出したのは彼女のほうからだった。


 原因は私が忙しくなって彼女と一緒にいる時間があまりなくなってしまったからだ。


 彼女は私にべったりだったから友達がいなかった。


 そのべったりしていた私が忙しくてなかなか会えなくて寂しくて時間をもてあまし、ネットゲームで知り合った男性と仲良くなったのが始まりで、彼女は狂ったように男性をとっかえひっかえしては肉体関係を求めていたらしい。


 二十歳過ぎで私と知り合い、知り合って一年も経たないうちに付き合い始めてやや四年。


 気付けば二十代後半になって処女だということに焦ったのと、一度経験してみたかった男性との行為がやみつきになっていろんな男性とするようになったと、彼女自身も一度は反省して戻ってきてくれた。


 でもすぐ同じことは繰り返され、最後は別れの言葉もなく終わった。


 恋人じゃなくなってからも友達の期間はあったけれど、それは男が途切れた時の暇つぶしに連絡をしてくる程度だった。


 それでも友達として誕生日に、私が転職した先の系列ホテルのバイキングで食事してお祝いしたり、私が出演する舞台やライブには観に来てくれたりとふつうに仲のいい友達として接していた。


 彼女が彼氏のことで悩んでいたり愚痴があれば聞いていたし、別れて泣いていた時はなぐさめて側にいた。


 ネットで新しい彼氏を作ってはまた連絡が途絶え、うまくいかなかったり別れては戻ってきたりの繰り返し、それでも私は友達としてできる限りのことを尽くしたつもりだった。


 女性から肉体関係を誘われて飛びつかない男性はいないと思っていたが、中には会った初日にそれはちょっとと断る人もいたらしく、そんな時は線路に飛び込んでやる!と脅して更に引かれたと愚痴を吐きに来たこともあった。


 その度に呆れるが、やっぱり私がしっかり注意してあげないとダメだなと思い、自分の存在を自ら消すことはできなかった。


 その変な友達関係は二年間続き、いい加減私も目が覚めて、このままずるずるとお互いの存在を消さないでいたらそれこそ彼女は男がいなくなったら私のところへ戻ればいいという当たり前のようになっている考えから脱出できずに、一人の男性に落ち着くことができないんじゃないかと思い始めた。


 そうやって男遊びを繰り返していたが、とうとう貯金もつきてきて、やっと本気で転職活動をすると言ってきた。


 私は喜んで転職活動に協力した。


 履歴書の書き方、面接のコツ、自分が経験してきたことのできる限りのアドバイスもした。


 職安にも同行し、近さと仕事内容と労働時間と給料、こっちはどうだからあっちはどうだとか、彼女はふむふむと聞いていたが、思い切ってたくさん受けてみようと私がチョイスした数社と彼女が選んだ一社に履歴書を送った。


 面接にたどり着いたのは一社だったけど、面接の手ごたえがどうだったのかと連絡を待っていた。


 でも、連絡は来なかった。


 手ごたえが悪くて落ち込んでしまっているのかと心配になった私は彼女に電話をした。


 彼女はすぐに電話に出たが、面接の感想についてなぜ連絡をくれなかったのかと聞くと、なぜいちいち報告しなきゃいけないの?と電話を切られた。


 ほうれんそう、報告・連絡・相談、というのは友達の間ではいちいちしないものなのかとショックだった。


 頼りにされてるんだとたくさん相談にのってもなんの報告もない、情けないし悔しかった。


 出会ってから7年が過ぎていたが、ようやく自分の惨めさに気が付き、今度こそ消えようと別れの言葉を考えて彼女に電話をした。


『お繋ぎすることができません』


 彼女も同じことを考えていたのか、電話は二度と繋がることはなかった。


 その最後の電話から一か月後、美容院に行った私は、彼女の担当だった美容師から意外な報告を聞いた。


 つい先日髪を切りにきて、転職が決まった先の会社の人と結婚することになったから引っ越すと。


 転職が決まったのは喜ばしいけど、面接に行ったのは少なくとも一か月前、そんな短期間に結婚を約束して同棲のために引っ越す、彼女には最後まで驚かされた。


 私が面接で使ったら受かったからと縁起を担いで貸したバッグも、置きっぱなしの服も貸したDVDもいろんなものが彼女と一緒に消えて戻ってくることはなかった。


 それから間もなく、彼女に紹介して友達になった6人グループの仲間も誰一人連絡が取れなくなった。


 彼女の存在だけではなく、私物も友達も思い出も、すべて残さず去っていった。


 グループと唯一交流があった共通の友達が、なぜグループの子たちまで消えたのかと教えてくれた内容は、これ以上巻き込まれたり振り回されたくなかったんだって、と聞かされた。


 とても幸せな時間をくれたけど、私からたくさんの大切なものを一緒に消して去って行った彼女。


 大切なものを奪われてたくさん憎んだけど、いくら彼女を憎んでも、友達も楽しかった思い出も幸せな時間も元には戻らない。


 苦しみから解放された今だから愛してたことも愛されてたことも過ぎた過去に思える。


 女の子が好きだったわけじゃない。


 彼女だったから好きだったのに…。


 もう未練はない。


 でも、後にも先にも、私の中の彼女は彼女だけ…。


後味悪くてすみません!

後味悪くない恋愛がしてみたかったです(もう恋愛はこりごりだけど…)

彼女と別れてからもDV男と付き合ってしまったりストーカーされてみたり、私は本当に恋愛に向いていないようですよー。


作中でも出てきましたが、ひとつだけこれだけは同性愛でよかった!と思った点、温泉で別々にならないことですね。


結論、異性であれ同性であれ、

恋人は

別れてしまえば

過去の人

(うまいこと575になってしまいましたが)


別に恋人がいる間だけが幸せというわけでもないですしね。

こうして執筆できる時間がある今、フリーでいる幸せを感じています。


ここまでお読み頂きましてありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 気になっていたタイトルであったので拝読させて頂きました。最後まで一気に読めたのですが凄く複雑な思いを感じました。結局お相手が悪いのか、ご自身が悪いのか、そういうレベルじゃ語れないなと正直な感…
2016/11/18 17:41 退会済み
管理
[一言] 同性愛の小説を書いている者です。想像で書いていますけど、どこかリアリティのない作品になってしまいます しかしこの文章を読んで女性のことが好きだということと、好きになった人が女性だっただけの…
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