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47 冬休み瓶詰め(3)

 すさまじいながらに大晦日と元旦をそれなりに過ごした。祖父母の居ない中あいさつ回りだけはそれなりにあるので回ったり迎えたりと忙しく、

「でも、私たちも明日は帰りますので」

 とさりげなく釘を打つことも忘れない。元旦の数少ない楽しみ、お年玉も上総が高校生ということもあって実入りは少なくなりつつある。両親の方針でお年玉は中学生までと決められているようだった。そんなの知らないことだった。

「とりあえず、部屋もちゃんと片付けておいたし」

 二日の朝、父の車でそれぞれの行き先に送ってもらうことになった。両親には前もって、二日に友だち同士での初詣を予定している旨伝えてある。誰と、と聞かれたのでためらうことなく羽飛の名前を伝えておいたがすぐに、

「ということは美里ちゃんもいるのね」

 と目を輝かせる母。否定はしない。事実ではあるが、

「女子ならもうひとり、キーボード貸してくれた家の人が来るけど」

 伝えておくことも忘れない。羽飛と美里、それにこずえ。強力メンバーだろう。

「上総、それだけか。ほら、あの」

「本当にそれだけだよ」

「よくうちに来る、あの、男の子はどうなんだ」

 霧島のことだろう。上総はきっぱり否定しておいた。

「あいつのうちは家の仕事が忙しいし、そもそも学年が違うから」

 母は無言で聞いていない振りをしていた。絶対、聞いている。


 車で駅まで送ってもらった。帰りはもちろん汽車になる。

「じゃあ上総、あんたも早めに切り上げなさいよ。冬は暮れるのが早いから」

「わかってる」

 どうせ父は品山の家に、母はまっすぐ仕事場に向かうのだろう。いろいろ言い合いはしたけれども、祖父母の家では空いている時間ずっとピアノに向かって弾いていられたのでそれはそれで楽しかった。

 ──今度何か、かんたんな曲の本探してみようか。

 ずっとクラシックばかり練習しているのも少し疲れる。バッハが嫌いなわけではないけれどもたまには軽い、誰でも知っていそうな曲を……たとえば「恋はみずいろ」とか……を演奏してみたくなる時もある。


 待ち合わせ場所は駅の中だった。なんだかんだいってここが一番分かりやすい。待合室のベンチがすべて埋まっていたこともあり壁に寄りかかり外を眺めていると、

「あけましておめでとう!」

 二人組、羽飛と美里が手を振りながら現れた。

「立村くん、早いのね。待った?」

「いや、さっきついたばかりなんだ」

「年賀状、ちゃんと元旦に届いたかなあ?」

 心配そうな顔を見せる美里にあっさり答えておく。

「ごめん、今年に入ってからまだ一度も家に戻ってないんだ。昨日まで親戚家にいたんでまだ確認してない」

 聞いてふたりがほっとしたように笑う。

「ああよかったあ。もしかしたら届いてないかもってあせっちゃった。ね、貴史。とりあえずあんたも命拾いしたよね」

「はあ? 年賀状遅れることのどこが命拾いだっての、ばっかみてえ」

 相変わらずのやり取りに上総も言葉がするりと流れ出す。

「あとは、古川さんだけどまだかな」

「こずえ? まだかもね。ちょっとここまで来るのって大変かもね。バスで来なくちゃいけないし。いつもなら自転車なんだけどやはりお正月は混むしね」

 この四人で行動する時は全く気を遣わないですむ。年賀状が一日二日遅れようが、到着確認が取れなかろうが関係ない。年賀状をペーパーナイフにしてで四等分に分割されるようなことはない。こういう感覚、いつからだろう。つい最近だろうか。

「元旦と違って少しは神社も空いてるよな」

「わっからねえぞ。昨日は俺んちと美里んちで行ったけど一時間くらい並んだもんなあ」

 青潟で一番大きな神社だとそれは覚悟の上だろう。とっくに初詣したのであれば、別の神社に向かうのもありではないだろうか。少なくとも上総はこだわりなどない。提案してみたところ、

「そっか、そうだよね。私たち二回も同じ神社行く必要ないかあ」

「けど立村、お前は?」

「だから、もっと人の少ないところでもいいんじゃないかな」

 駅構内の青潟観光マップを手に取り開いてみた。美里が一緒に覗き込み、

「そっかそうね。青潟駅の近くってこうやってみると神社たくさんあるのね。行ったことないなあ」

 社のマークを指差しながらつぶやいた。羽飛も一緒に、

「立村、ずいぶん手馴れた手つきだったんだが、こういう地図集めるの好きなのかよ」

 からかい調子で上総に尋ねてきた。

「別にそういうわけじゃないけど、知り合いの人に青潟の観光資料を送って欲しいってよく頼まれるから、そのついでに見るだけだよ」

 矢坂さんには夏休み以降も何度か頼まれて送っていた。喜んでくれているような文面の手紙をもらうので、きっと役立っているのだろう。上総もいつのまにかある程度の観光案内できる程度の情報は頭に入りつつあるので無駄ではないと思う。

「じゃあ、提案! ちょっと歩いちゃうけど商店街方面の奥に小さいおいなりさんの神社あるじゃあない? ここにしよっか!」

 決めたのは美里だった。

「古川にも言っとかないとな」

 稲荷神社というのが少しひっかかるが、まあいいか、とも思う。

 

 こずえも息を切らせて飛び込んできた。待ち合わせ時刻にはほぼぴったりの集合。いかに元三年D組メンバーが優秀かがよくわかるというものだ。

「あけましておめでとうってとこで、あんたたち、もう姫はじめした?」

「姫、はじめ?」

 恐る恐る問いかけて見る。たぶん、そういうことなのだろうとは下ネタ女王様のお言葉ゆえ想像できなくもないのだが。羽飛が軽くこずえをはたく真似をした。

「あったりまえじゃあん。リアルじゃなくてもよしだけど、立村、あんたは?」

「悪いけど今日の朝まで親戚のうちにいたんで関係ない」

「あっそう。それと羽飛、あんたは? 浮気してないよねえ? 私を置いて」

「古川、お前が変わることは、ないんだろうなあ」

 それでも朝の空気がどんよりすることもない。美里ともにこやかに新年の挨拶を交わした後、初詣神社の場所変更を伝えられこずえは大きく頷いた。

「いいねここ、私賛成! あっそっか、この辺ならさ、駅前とはずれてるから喫茶店とかどっか食事できそうなところ見つかるんじゃないかなあ。ほら、もうおなか空いてきちゃってるしさ」

「古川、お前今朝何時に飯食った」

 羽飛があきれるように問う。

「そりゃもちろん五時起きよ。早めにお雑煮作っちゃって、大学駅伝少しでも見ておきたいじゃん! 悪いけど私ちゃんとポケットラジオ用意してるし。聴きながらいくよ」

 相変わらずエネルギッシュなこずえにみなあきれつつも、四人で目的地の稲荷神社へ向かうことにした。地図を羽飛と美里に渡しておけば問題ない。道を迷うことはない。完璧だ。



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