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27 師走の答え(4)

 何度か別の科目の教科書を開いてみたが頭に言葉が入ってこない。あきらめてすべて閉じた。時計はすでに十二時を回っている。そろそろ寝ないと朝が辛い。

 ──どうして父さんのところに話が流れたんだろう。

 中学時代から「おちうど」に杉本を連れていったけれども今まではそんな告げ口なんてされたことはなかった。むしろ母に筒抜けだったほうが自然なのに全くそんなこともない。なのになぜ、今回に限って。しかも帰り道ルートまでばれている。

 ──まさか、学校から連絡が来たのか。

 杉本とはあれから一切連絡を取っていない。何度か話しかけようとはしたのだが露骨に、

「立村先輩とはもうお話するつもりありません」

 ときっぱり突っぱねられる。さらに余計なことに霧島がひっついてくる。これにはプラスの部分もあり、霧島は頼みもしないのに事細かに杉本のレポートをしてくれる。おかげである程度杉本が平静を保っていて、信じがたいことだが菱本先生にも可愛がられていて、最終的には非常にE組が平和だということだけは確認ができている。

 ──でも、中学と高校とだろ?

 わからない。まさかとは思うが杉本が親に告げ口して本気で上総を拒絶しようとしたのだろうか。それだけは考えたくないが、否定はできない。

 上総はノートを広げ直した。日記をドイツ語で綴っているノートだった。まだアラビア語をマスターしていないので親にばれないような書き方はできないでいる。


 ──明日しかない。


 綴ってみた。親経由で通達がきたということは、これ以上杉本に近づいたらど顰蹙どころか学校を追い出される可能性もあるということだろう。杉本も上総がなぜこういう行動をとったかは理解してくれる……と信じたいが、やはり百パーセントとは言いかねるところもあるだろう。ここでどうすべきか、だが。

 ──今まで集めてきた情報をすべてぶつけるべきだ。

 もう一文連ねてみた。

 自分なりに二学期以降杉本に関わる噂についての裏づけを取っていた。もちろん優秀な手下の霧島の力も大きい。上総にはやたらと威張りくさった態度をとるくせに、想像以上の情報を仕入れてくる。無事に生徒会長へと就任したのはいいが、上総が心配なのはいつこの二重スパイ的な行動が他の連中にばれるのか、ということだった。本当にあんなに高校へしげしげ足を運んで大丈夫なのだろうか。

 上総は目を閉じ、ゆっくり深呼吸を行った。ざわついた気持ちが少し落ち着く。ずっと流していたムードミュージックのテープも止めた。


 ──夏休みが終わる段階で駒方先生と狩野先生との間でなんらかの相談があり、なんとかして杉本たちの家庭教師ごっこをやめさせる方向へと進めようとしていたようだ。理由はひとえに、杉本たちが青大附中の札付きであり公立中学のそちらも札付きふたりとセットで部屋に篭っていた場合、不良の溜まり場扱いされてよからぬ疑いをかけられる可能性大だからというところだろうか。


 この辺りは杉本も早い段階で気がついていたようだ。その証拠に、手作り教科書の写真撮影を丹念に行いその写真を上総に預けている。万が一盗作でもされた時のための対応策とも言える。

 また、九月から十月にかけて杉本の進学事情も関係してか公立高校のふたりとの接触は控えられていたようだ。おそらくかの「なずな女学院」とかいう山の上の寄宿舎つき高校に進学することとなるのだろう。最終確認はしていないが杉本の言動からすると確実だろう。なぜ桜田さんまでもそこに付き合う必要があったのかは謎だがなんらかのもっともらしい理由を告げられたのではないか。

 上総はもう一度目を開き指を数えた。九月、十月、十一月。三本指を折った。


 ──十一月になり、なぜ桜田さんだけがいきなり呼び出されたのか? 


 理由は佐賀元生徒会長からも確認済みだ。

 あの日は生徒会役員改選立候補最終日で、ぎりぎりまで美里や羽飛とだべっていた。どちらが生徒会長で立候補するか悩んでいたようなので思い切って阿弥陀くじを引かせてみた。結果、美里がやる気まんまんという結果となり羽飛は笑顔で支える立場になることを決意している。実に円満な結果だった。ほのぼのした気分でふたりを見送っていたところに、なぜか霧島が現れ上総を連れ出し「あおがたいこいの家」まで引っ張られてしまった。話の内容からして霧島も、上総を連れてくるところまでは佐賀元生徒会長に頼まれていても具体的な内容は把握していなかったようだ。入り口付近で佐賀元生徒会長に捕まり霧島を帰し、そのあと一階大広間でかんたんな説明を受け納得した。杉本を連れ帰るしかないということに。


 ──佐賀さんが言うには、「本当は桜田さんともうひとりのお友だちと一対一で話をするために呼び出したのですが、梨南ちゃんが一緒についてきてしまいました。どうしても今回は梨南ちゃんがじゃまなので連れ帰ってもらえますか」とまあ、ひどい保護者みたいな言い方されたよな。


 詳しく聞く余裕はなかったが、佐賀さんが九月から十月にかけて駒方先生に直々頼まれ、公立中学側の別代表女子と連絡を取り合い、杉本たちのやっていたことを応用する形で教えあいを行ったようだ。しかもそれは佐賀さん曰く、「非常に喜んでもらえた」ということだった。

 杉本の話だと、もともと中学時代仲良しだったという「みよしさん」という女子がなんとしても桜田さんとよりを戻そうとして提案したことらしい。まったくもって確実な情報がほとんどない。そのこともあって大荒れの中、佐賀さんは無理やり杉本を引っ張り出して上総に引き取るよう頼んだと、そういうわけだ。

 ──たちの悪い子どもを引き取る保護者かよ。


 そこから先の事情については霧島の情報収集力を存分に利用した。

 ──霧島も言ってたな。学校側として少しでも優秀な生徒をアピールするために、他学校の生徒との交流を通じた学習支援活動の話を打ち出したいとかな。

 杉本にも大まかな話をしたけれども、学校側としては杉本や桜田さんのような問題児が企画するよりも生徒会長と優等生が企画したという形にどうしてもしたいらしかった。もし杉本が企画したとばれれば「なぜそんな優秀な生徒を青大附中から手放すのか」という声が上がる可能性もある。さらにその進学先が公立の青潟東ではなくなずな女学院という素性の分からない学校となればなおのことかんぐられるだろう。それを避けるために、佐賀さんの行動で九月から十月の間に実績を作ることが必要となる。嘘ではない、それを証明すればいいだけのこと。


 ──たぶん桜田さんは組しやすいと判断したんだろうな。

 東堂からちょこちょこ聞くところによると、桜田さんは結構単純でちょっとしたことで人を信じてしまう性格らしい。恋人の贔屓目もあるのかもしれないが、少しよいことを言われてぼーっとしてしまい、そこをいろいろ不良沙汰やらかした時は突かれたのではの推理だった。

 ──しばらく事情は確認してないけど、桜田さんとその「みよしさん」という人はすでにちゃんと、話ついたのかな。杉本もその話聞いているんだろうか。 

 気になるのはそこだ。どうしてもわからない。桜田さんが杉本の親友を貫いてくれればそれでいい。しかしもし、万が一、佐賀さんの二の舞にでもなったら杉本は。


 ──本当はそのあたりを東堂に確認したいんだけどもう時間、ないよな。

 裏づけを取りたかったが仕方ない。もう杉本からは拒絶されているかもしれないけれども、やるべきことだけはきっちり片をつける。こちらには確かな証拠データがあるわけだし、もし佐賀はるみたちだけの手柄にされるのであればこちらもきっちりと証拠を突きつけるだけのことだ。

 ──中学校舎は学校敷地内だ。文句は言わせない。

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