第一話:夏と化け狸
以前までは違うサイトで違う話を書いていましたが今回からはこちらで小説を書くことにしました。推理小説というのは始めて書くので単純なトリックになるかもしれませんがご了承ください。一度に更新するのは大変なので一話、二話というように分けて書きます。
暑い。最近では暑さに耐えられる妖怪もいるようで、うらやましすぎる。下界の町は俺達が住んでいる山よりも暑く、町にいった者は暑さに耐えられず死んでいくという昔話を聞いたことがある。人間というのは不思議な生き物である。この暑さにも耐えられ、さらには『心頭滅却すれば火もまた涼し』などという訳の分からないことわざを作ったそうだ。意味は心の持ちようでどんな苦難も乗り越えられる。わけがないだろう。
「おい統高!仕事だ!」
今の一言のせいで、せっかくのお昼寝タイムが台無しだ。仕事なんて面倒くさい。だが俺の仕事は、ひいひいひいひいひいじいちゃん(ばあちゃん)から続く大事な仕事なのだ。やりたくなくてもこの仕事は俺達の妖怪になった者は強制的にしなければいけない。いや、やらなくてもいいがやらなかった分だけ次の代の給料が減る。つまり自分の息子(か娘)の生活が難しくなり、自分の老後の生活も苦しくなる。というわけで俺は「やれやれ」と相手に聞こえる声を出しながら、腰を上げた。
◆
「……というわけで、ここが昨夜殺害された双火(化け狸)さんのお宅です。」
言い忘れたが俺の仕事は警察だ。今回が初仕事なのに母さんや父さんは優秀だったため、息子の俺は無駄に期待されている。
「と、とりあえず目撃者や近所の者を集めろ。」
「はい。」
初仕事だけあって、少しだけ噛んでしまった。この暑さでも汗はかいているが、冷や汗の方がよっぽど多くかいている。まあ毎年のことだが新人の警察にはベテランの部下がつくようで、少しは荷が楽になった。強制的な仕事ということだけあって、どれだけ優秀でも部下は部下で身分が上になることはなく、命令を無視されることはないらしい。
十分も経たないうちに殆どの妖怪は集められた。今はもう遅いが妖怪たちは集めるのではなく、一件ずつ周るべきだった。何人も妖怪がいると証言が食い違ったりして、正しい証言が分かりにくくなる。なので、統高は証言を聞くのはまた後にした。
「まずは証言を聞かずに、一人ひとりの情報を教えてくれ。」
「はい。まず一人目は双火さんの奥さんの秋夜さんです。双火さんと同じで化け狸です。能力はこの地球上にあるものなら、何でも化けられます。」
「そうか、じゃあ俺に化けて見てくれ。」
統高はためしに一度、化けてもらうことにした。まあ、化け狸ではないわけがないだろうが。
「すいません……。この前から木の葉が一枚もなくなって……。」
秋夜は困った顔になりながら、部下の方を見た。すると部下は何かを思い出し、口を開いた。
「あ、言い忘れましたが化け狸さんはどんなものでも化けられますが、特別な木の葉がないと無理です。」
ずいぶん面倒くさい能力だな。奥さんなら不満がなければ犯行は行わないだろうけど……。でもどんなものでも化けられるなら、一番犯行がやりやすいよな……。
統高が色々考えているうちに部下は化け狸の秋夜を帰して、また次の妖怪を連れてきた。
「二人目は双火さんの近くの家に住んでいる六徳(夜雀)さんです。主に団体で行動しており、人間達が山の道を歩けなくなるように警備をしてくれています。」
「昨夜は何をしていましたか?」
統高は六徳を疑ってはいなかった。何故なら統高は子供の頃に一度、人間と遭遇しそうになった所を助けてもらったことがあるほど、六徳と馴染みが深いからだ。
「昨日の夜は仲間と一緒に山の警備をしていました。疑うのでしたら、仲間に聞いてみてください。」
「ありがとうございました。別に疑ってはいませんから安心してください。」
統高は爽やかな笑顔で六徳を家に帰した。
「六徳さんにはアリバイがあるようだが……。一応他の夜雀にも聞いてみるか。」
六徳が帰ったあと、統高は一人でブツブツと考え事をいていた。
「お前はここで休憩してろ。俺は六徳さんのアリバイを確かめに行く。」
「分かりました。それでは私も聞き込みに行ってきます。」
「じゃあ二時にここに集合で。」
「はい。」
そう言った二人は別々の方向に歩いていった。