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第二話

 授業が終わって放課後。俺は教室から人がいなくなるのを待っていた。ぼうっと窓の外を眺めている振りをしながら。窓の傍にはグラウンドを眺めている森崎さんがいた。彼女を観察すればする程、本当に生きているのではないか、と思えてくる。体が半透明だったりと幽霊らしい記号があるわけでもなくて、見た目は先週の森崎さんと全く変わらない。授業中にあった不自然な様子を思い返さない限り、幽霊であるという根拠は見つからず。

 森崎さんが視線に気付いた。今度は逸らさずに見つめる。

「小池君、もしかして私のこと見えてる?」

 教室から人がいなくなり、廊下からの音も聞こえなくなってから森崎さんは言った。俺は頷いた。

「見えてる。聞こえてる」

「本当?やった」

 立ち上がり彼女の傍に行こうとしたところを、喜んだ森崎さんもまた駆けるように近付いてきて抱き付こうとしてきた。しかし彼女の腕はすり抜けてしまう。きちんと色のあるから、森崎さんの腕は俺の体を貫通しているようにしか見えなかった。

「やっぱり触れられないみたいだね」

 カレーをかき混ぜるように森崎さんは俺の体に突き刺さったままの腕を動かす。しばらくそうして、腕を抜く。痛みも何も感じなかったはずなのだが、何かを乱されたような感覚が残った。かなりどきどきしている。

「でもちゃんと見えて話ができるってだけで十分凄いよ。霊感あるんじゃない?」

「そうなのかな。一度も幽霊見たこと無いんだけど」

「だって一人も気付いてくれなかったよ。だから才能あるんじゃないかな」

 そうなのかな、と答える。心の中では、霊ではなく森崎さんを感知する能力があった、ということにしておく。森崎さん以外の霊が見えても怖いだけで全く役に立たない。

「よかったよ、小池君がいて。誰に話しかけても反応無くてさ。ほら、それこそ自殺した張本人が話しかけてるわけでしょ。それなのに皆からは見えてないし聞こえてないしで、もう孤独で孤独で、頭がおかしくなりそうだったよ」

 森崎さんはそう言って頬を緩ませる。

「なんか自殺する時は正気だったみたいな言い方ですね」

 向こうが親しげに話してくるものだから、こちらも親しい相手に言うような指摘をしてしまった。ごめん、と言おうとしたが森崎さんは「まあね」と言って笑っていた。

「自殺する時は気分が沈んでたからね。暗い感じだったんだ。それで、誰からも反応してもらえない時は、こう、ぎゃあって叫びながら走り回りたくなるような感じで、やっぱりこっちの方が明らかにおかしいんじゃないかなって思うんだけど」

「そうなんだ」

 前者はイメージできるけど、後者はあまり。やっぱり落ち込んだ結果自殺に至ったのだ。支えてあげられていれば、と思う。可能だったとは思えないけど、どうしても。

「それからね、えっとね」

 森崎さんは話題を探して、魔法の杖を振るみたいに人差し指を動かす。

「ああ、駄目だ。思い付かない」

 そう言って、森崎さんは魔法使いのようだった右手で自分の頭をばしばし叩いた。

「久々に人と話すから、もっといっぱい話したいんだけど、何も思い付かない。助けて」

「助けてと言われても」

 真っ先に浮かんだのは「どうして自殺なんてしちゃったの?」という問いだった。でもそれに似た言葉を女子が言っていたことが脳裏に浮かんで、言うのをやめる。

 グラウンドでは運動部が活動していた。皆で走っている。俺とは無縁の青春。

「それにしても、よく幽霊になれたね」

「なったって感じじゃなかったんだけどね。気が付いたら幽霊でした」

 幽霊のお決まりのポーズのごとく両手を下に向けて、森崎さんはそれをぶらぶらを振っておどけた。こんなにお茶目な人だとは思っていなかったから嬉しい。もっと早くに話しかけていればよかった、とまた思った。

「でも不思議なんだよね。探してみたんだけど、私の他に幽霊いないんだよ。もしかして霊感無いと見えないのかな」

「実は森崎さんが人類初の幽霊という可能性も」

 それかよく知られている幽霊とは微妙に違うものになっているとか。あまりにも普通の人間の外見をしていて、こうやって話していると、あくまでそういう設定で冗談を言い合っているみたいだ。

「人類初。それじゃあ取材殺到だね」

「発覚しないだろうけどね」

「だよねえ」

 森崎さんは、写真にも写らなかったみたいだ、と言う。

「なんか意外だなあ、それ」

 薄っすらと透けているわけではないのだから、従来のものより写りやすそうなものなのに。それとも彼女のことがはっきりと見える俺が相当おかしな状態にあるのか。どうであっても、この状況は都合がいい、と感じた。

「もしかしたら恋の力で見えるようになるのかもね。俺、森崎さんのこと好きだったから」

 こんな普段だったら絶対に言わないようなことが言える。告白して振られても、死んでいる人が相手なら痛くない。そんな計算をしている自分を、最低だな、と心の中で刺した。

「ええ、嘘、そうだったの?」

「まあ」

「へえ、そうだったんだ。なんか意外」

 そういうのと関係無いと思ってたんだけどなあ、と言いながら彼女は自身の指を見つめていた。

「凄く他人事みたいなんですけど?」

「だって死んじゃったらどうしようもないじゃん」

「そうなんだけどさ」

 余裕のある森崎さんの言葉を聞いて、急に自分の発言が情けなくなってくる。なんて弱い人間なのだろう。

「ごめんなさい。俺も死んでるから別にいいやって思ってつい告白みたいなことをしてしまいました」

 頭を下げると、森崎さんは「そんなに気にしなくていいのに」と言って笑う。

「生きてるって大変だね」

 もう大変ではなくなった森崎さんの笑顔はドラマの表情に近かった。

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