オーマイベイビー
さらっと読めます。
何か残ればうれしいです。
ぴぴぴぴぴぴぴ・・・・
電子音でのする方に手を伸ばす。
ガッ、ゴト、ガシャーン
目覚まし時計の横にあったグラスが倒れ、砕ける。
真一は、ため息をついて体を起こした。冬の寒さが身に染みる。
いつもと同じ朝、だったはずだった。
「あ、今日。」
独り言のようにつぶやく。
グラスの破片を集め、掃除機をかけながら思い出した。
キラキラした破片を見つめ、あの日の事を想う。
「…ふざけないでよ。」
のどの奥から絞り出された声は、嗚咽を通りこして人の声には聞こえなかった。死ぬ輪際のがちょうはこんな声を出すのかも知れない。
「ふざけてなんかいない。しかたないことなんだ。」
言うが早いか、グラスが飛んできた。前髪をかすめて飛んでいったグラスのヒュンという音を真一は聞いた。
後ろの壁にあたり、グラスは粉々になる。グラスの中に入っていた赤ワインが当たりを血の海にしていた。
「…よくもそんなことが言えたものね。あなたの子よ!あなたの子どもなのよ!」
「あぁ、それはわかってるよ。俺の子だ。だからこそ言ってる。」
「冗談じゃないわ!」
ありったけの声を出して叫ぶ彼女を、真一は冷めた目で見つめていた。
「…責任とってよ。許さない。絶対に許さないから。」
「…ごめん。責任は取れない。金は出す。だから、お願いだ。」
「いやよ、絶対にいやよ。」
「…頼む。今のままで幸せになる自信がないんだ。もう一度、振り出しに戻って考える必要があるんだ。頼むよ、遙。」
泣きじゃくる彼女の肩に手を置こうとした真一の手を、遙は乱暴に払った。
「…絶対に許さない。私はあなたを愛している。あなたもそうじゃないの?そうだって言ったじゃない?」
「愛してるさっ!」
真一も怒鳴りかえす。
「愛してるさっ!けど、愛だけじゃどうにもならないじゃないか!今のまま結婚してどうする?先なんて目に見えているだろ?別れたいと言っているんじゃない、その子を生むなと言っているんだ。」
一息で言ってしまった真一は肩で息をした。沈黙が辺りを包み、CDから流れるドリカムが哀しく響く。夕食はミートソースのパスタ。もう冷めており、血だらけの胎児を想像させた。
そして、彼女は出ていき、もう会うことはなかった。
そんな遙の誕生日が今日だった。
「もう3年か…」
また独り言をつぶやいてから立ち上がり、グラスの破片をゴミ箱に捨てた。
あの日、俺はこうやって彼女を捨てたのだろうか?
夫婦という形を拒み、恋人という形が崩れた時に。
あれ以来、まったく連絡も取っていない。メールも、電話すらしていない。
あの日、あのまま無言で出ていった彼女を止めることもできず、それから連絡を取らなかったのは怖かったからだろう。
現実を直視することが出来ず、逃げていたのだろう。
携帯を見る。
今の彼女からメール。
「おはよ!今日も寒いね~寒いからって布団から出ないとまた遅刻しちゃうぞ☆」
彼女に返信せずに、まだ残っているアドレスにメールを打った。
「誕生日、おめでとう。」
題名もなく、簡単なメールだったけど、打てば何かが許される気がして。送信ボタンを押すときに少し迷ったが、グッと力を入れて送信完了の文字を見る。
突然、なんだか怖くなり、携帯を投げ出してシャワーを浴びに行くことにした。
シャワーを浴びると、少し気分もすっきりした。
髪を拭きながら携帯をチラと見る。受信のランプがついている。
おそるおそる携帯を開ける。メールの返信が。
「ありがとう。あれからいろいろあったけど、真一にそう言って貰えると本当に嬉しい。ね、今日、会えないかな?別にやり直そうって訳じゃないけど、少しだけ話したくて…だめかな?」
「…いいよ。少しだけならね。今、俺には彼女もいるから、夕食も一緒にすることはできないけど、それでもいいかな?」
「うん。あれから3年だもんね。大丈夫。じゃあ、パルコのスタバの前で。6時ね。」
「わかった。」
「あのころと同じだね。スタバの前の交差点の人並み、あなたを待ちながら寒さに耐えながら待ってたのを思い出しちゃうな。」
「…そうだね、いつも言ってたな。「なんで中にしないの?」って。中にする?」
「いいよ、あの時と同じで。それじゃ。」
メールが終わり、少しの罪悪感と共に出社した。
モヤモヤした気持ちのまま、仕事をなんとか片づけ、5時半に会社を出た。
会社はすすきの、パルコまで10分でつく。
スタバの前にはティッシュを配っている人や、カラオケの呼びかけなど人でにぎわっていた。
時計を見る。5時45分。少し早く着きすぎた。
でも、あれから遙はどうやって過ごしてたんだろう?お腹の子はどうなったんだろう?誰かいい人と一緒になっててくれたらいいんだけど…
プルプルプル…携帯が鳴った。
友人の孝明である。
「あ、真一か、今何してる~?暇なら飯でも食おうぜ~」
「ああ、いいよ。でも、まだ少しかかるんだ。」
「ん?どうしたの?彼女と会うのかい?」
「…いや、彼女じゃなくてな。実はさ、昔つきあってた女に会うんだ。」
「へ?お前そんなんでいいの?彼女にちくっちゃうよ~」
「いやいや、そうじゃなくて。浮気とかじゃないんだ。ただ、あんまり良くない別れ方したからさ、けじめつけようとおもっててさ。」
「ほへ~、そりゃいい心がけだ。ところで、なんで別れちゃったの?どんな別れ方だったの?」
「…いや、あんまり言いたくない。」
「だめだよ、そこまで言ったら言えよ!気になるじゃん。」
「…孕ませたんだよ。堕ろせっていったら、出ていった。」
「うげっ!そんな話だったんだ~、お前も悪い奴だね~ところで、その子どんな子だったの?」
「いや、高校の同級生、西島遙って奴なんだけどさ。」
「西島…なぁ、真一、お前高校どこだっけ?」
「ん?南だけど。」
「タメ?」
「タメ。」
「南でお前と同じ代の西島…ほんとにほんと?」
「ほんとだってば、あー、6時になる。詳しくは後でまた電話するわ。じゃあな、切るぞ。」
「あっ、待てって!南の西島って言ったら…
3年前に自殺したんだって!」
「キキーーーーーッ、ドガァン」
「ちょ、おいっ、真一っ、真一っ!?おいマジかよ。ちょっと
、まずいって!」
「パパァー」
「?!」
「パパァ、あそぼ。
プッ、ツーツーツー」
「真一?おいっ、おいっ~。」
他の媒体で、ラストの描写が甘いとボロクソに言われました(笑)
でも、そのまま出しました。
あなたはどう思いましたか?