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9 おまけ:ついに完成、究極のふわふわ!!

星屑の天球儀(アストラル・オーブ)』の地下、『天球の灯(スフィア・ランタン)』は、今日も今日とて騒がしかった。


「資料室にいないなら、あそこか」


 案内もなしにギルドを闊歩するクロヴィスを、咎める者は誰もいない。


 かつて慢心から大惨事を引き起こしかけた王太子は、今や「社会勉強」の名目でここに入り浸る、良き為政者の卵だ。


 手慣れた様子で目的地を訓練所へ変えた彼は、目的の二人が揃っているのを見つけた。ただし、その「揃い方」は、彼の想定とは大きく異なっていたが。


「……っ!! リンがあの時、ああ言わなければ!」


「お前のためのカニ改造だったんだぞ! 一人で逃げやがって!」


 破壊音が轟き、野良犬のような粗暴さで罵り合う二人に、王族育ちのクロヴィスは言葉を失い立ち尽くした。


「あら、こんなところで突っ立ってどうしたの、王太子サマ」


 背後から肩を叩かれ、驚き振り向くと、赤い巻き毛を高く結い上げた美女――カトリーナが立っていた。


「あーあ、派手にやってるねぇ」


 笑顔のまま、彼女は猛り狂う二人の間に割り込んだ。


「はいはい、二人とも。お客さんだよ?」


「「あれ……殿下じゃん」」


 きょとんとこちらを向いた二人の顔は、残念なほどにボコボコであった。


「……大丈夫なのか、その顔は……?」


「大丈夫よ、へーき、へーき。いつものことだから! さ、治療するよ。二人ともそこに並んで」


 カトリーナの闊達な笑顔に、二人は「うへぇ」と揃って呟き、渋々整列した。


 瞬間、彼女の往復ビンタが炸裂した。


 間髪入れぬ連続の打撃。止めとばかりに鳩尾(みぞおち)に拳を沈めると、リンが息を詰まらせて崩れ落ちた。


「次!」


 続くガイも、バシンという乾いた音と共に足元に(うずくま)った。唖然とするクロヴィスの前で、リンが怒鳴り声を上げる。


「いってぇぇな! クソババァ!!!」


「……あらぁ? おかしいなぁ。まだどこか痛む? もう一発『治療』してあげようか?」


 カトリーナが拳をパキポキと鳴らす。その凄まじい威圧感に、二人は顔を見合わせて「いや! もう完治しました!!」と必死に首を振った。


 一方、クロヴィスは口を挟む余裕すらなかった。


 それよりも、目の前で起きている「現象」が信じがたかったのだ。二人の顔を見て、彼は思わず目を見張る。


(……一瞬で、消えたのか?)


 先ほどまでの痛々しい腫れが、まるで嘘のように引いている。


 内出血も傷跡も、カトリーナの拳が叩き込まれた瞬間にどこかへ霧散してしまったかのようだった。


「あぁ。あたしの治療、対象に衝撃を与えないと発動しないんだよねぇ」


 いまだ震えながら頬をさする二人を横目に、悠然と笑うカトリーナ。 なるほど、このギルドに相応しい「暴力系治療士」であった。


「で、殿下は今日は何しに来たの?」


「……ああ。エレオノーラ嬢に依頼された品を届けに来たんだが」


 クロヴィスが差し出したのは、『聖樹の琥珀涙(アンバー・ティアーズ)』に『星屑の白銀粉(シルヴァ・フロア)』。


 いずれも劣らぬ伝説級の品々だ。


「砂糖に小麦粉……総合的に考えて製菓材料としか思えないのだが、まさかそんなことはあるまいと思ってな。何に使用するんだ?」


「いや、お菓子作りであってるよ」


 リンが吐き捨てるように答えた。


「リリアーヌお嬢様のシフォンケーキのために、ギルド総出で駆り出されてんの」


 まさかのシフォンケーキであった。


 最高のメレンゲのために魔道解析を命じられたシオン、専用オーブン開発に狂奔するカイル。最高位の識者たちの、まさに無駄遣い。


「あ、そういえばシオンが死にそうな顔で探してたわよ。レシピ完成したから『次はお前が作る番だ』だって、ガイ」


「熱伝導とマイクロ波の融合化検証……頭が割れそうだ!!!」


 リンが絶叫し、ガイはレシピの「再現(コピー)」の任務に引きずられていった。


 その阿鼻叫喚の図を眺めながら、カトリーナが思い出したように指を折る。


「そういえば、ナディアとソフィアもさっき帰ってきたわよ。リリアーヌ様に最高の紅茶を出すんだって、辺境の聖域まで『幻の茶葉』を毟り(むしり)取ってきたみたい。レヴィンも霊山で聖水を確保してきたし、準備万端ね」


 クロヴィスは、思わず手元の『聖樹の琥珀涙 (アンバー・ティアーズ)』を見つめた。


  王家の威信をかけて、各国の重鎮に頭を下げて回ってようやく手に入れた至宝だ。それを、このギルドの連中は「ちょっとそこまで」と言わんばかりの勢いで、自力で、しかも人数分揃えてきている。


「……シフォンケーキ、だったな? 儀式用の触媒などではなく」


「そう、飛び切り『ふわふわ』のね!!」


 カトリーナの屈託のない返事に、クロヴィスは遠い目をした。


 後日、彼が聞いたところによると。 シフォンケーキを口にしたリリアーヌ嬢は、満面の笑顔でこう言ったそうだ。


「おいしいわ! お姉様、大好き!!」


 その笑顔ひとつのために、伝説の素材が溶け、最高位の魔導士たちがボロボロになり、精鋭たちが各地の霊峰を駆け巡る。


  本日もまた、『天球の灯(スフィア・ランタン)』は規格外であった。

今回のお話はこれて終了です。ありがとうございました。

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