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4 太陽の都と、傲慢なる合理主義者

 一方、夏の都ソルシエラ。


 こちらは冬の都とは真逆の熱気に包まれていた。大輪の向日葵が咲き誇り、陽炎がゆらめく街並み。


 だが、その中心にある陽光神殿の広場では、さらに「暑苦しい」男が頭を抱えていた。


「……信じられるか、リン! たかが苺を数粒食っただけで、街一つ吹雪にされるんだぞ!?俺、あっちの都に、絶対行けない!!つうか、歩いて行こうとしたら雪玉が飛んできて、物理的に弾き返されるんだ!」


夏宵暮告鶏(ヴェスペル)』を肩に乗せた青年、ソルが、不満を爆発させるように叫んだ。


 ちなみに隣の都に入れないのは、精霊たちが、愛するルミナを悲しませた男を拒否しているからなのだが。


 そんな彼の隣で、リンは冷めた麦茶を啜りながら、極めて冷静に、しかし深く頷いた。


「全くだ。……ソル、お前の主張は極めて論理的だ。その苺はいずれお前に食わせる予定だったんだろう?」


「ああ! 『二人で食べよう』って言ってたんだからな!」


「なら、先に食おうが後に食おうが、最終的な消費者は同じだ。摂取される栄養価も、胃袋に収まるという結末も変わらない。数学的に言えば、それはただの『誤差』に過ぎねぇ」


 リンの目が、ここではない何処かを強く睨みつけるように鋭い光を宿した。


「食べ物のことでいつまでもネチネチ言う方が異常なんだよ。うちの鳥アタマ……相棒のガイもそうだが、ベリーを一粒、断りなく食っただけで世界の終わりが来たみたいに騒ぎやがって。……いいか、ソル。それを世間では『被害妄想』と言うんだ」


「おおっ、被害妄想!いい言葉だな、それ!」


 リンは王都から例の卵を入手するために特区に訪れたと聞いていたが、ソルにとっては、もはやそんなことはどうでも良かった。


 ただ、自分を全肯定してくれる「知的な味方」の出現に、パァッと顔を輝かせた。


 本来、ソルは単なる「うっかり者」だったのだが、リンという最強の理論武装を手に入れたことで、その態度は急速に「開き直り」へと進化していく。


 僅かばかりあった「罪悪感」が薄れ、事態を悪化させる方向へ着実に進み始めているのだが、残念なことに「繊細さ、思いやり、気配り」といったことに無頓着な男たちは気が付かない。


 それが「あるべき結論だ」とすら思っている。実に深刻なことである


「そうだよな!たまたま、置いてあった、いかにも『食べてくれ』っていう顔をした苺がそこにあったら、食うのが礼儀ってもんだ。精霊だって、空腹には勝てねぇはずだ!」


「その通りだ。生理現象を否定するのは、生命の根源に対する冒涜だ。お前は生命力に溢れているだけだ、何も恥じることはねぇ」


 リンはカニ通信機(左)を睨みつけながら、吐き捨てるように続けた。


「ルミナって子も、ガイも同じだな。やつらは『過程』だの『真心』だのという、数値化できない概念を振りかざして、こちらの正論を封殺しようとするんだよ。そもそも真心で腹が膨れるかっての」


「そうだよな! 何もあんな、生ゴミを見るような目で俺を見ることないよな! ……リン、お前、すげぇ頭いいな! 俺、あの時、何て言えば良いのか分からなかったけど、今なら言い返せる気がする!」


 いったい、どれほど罵倒されたのかは謎であるが、ソルが納得の握り拳を作ると、その情熱に当てられた精霊たちが反応し、神殿の周囲の気温がさらに三度ほど上昇した。


 入道雲がモクモクと湧き上がり、夏の陽気が勢いを増していく。


「……よし。ソル、お前に『正当な反論』の仕方を叩き込んでやる。カニの通信が入ったら、論理の力で粉砕してやろうじゃないか。……苺がなんだ、ベリーが何だ!あんなもん水分とビタミンの塊に過ぎないってことを教えてやる」


 リンの瞳に、歪んだ対抗心が燃える。


 それはもはや「卵のため」ではなく、自分の「デリカシーのなさ」を「正論」として認めさせたいという、極めて個人的で低レベルな意地のぶつかり合いへと変貌していた。


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