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3 白銀の都と、全肯定の魔導士

 冬の都ルミナリア。


 数日前まで視界を奪うほどの猛吹雪が吹き荒れていたとは思えないほど、今は穏やかな星空が広がっている。


空には淡い光のカーテン、……オーロラが揺れ、雪に覆われた街並みを優しく照らしていた。


「……少し、やりすぎちゃったな…」


 都の中心にある聖堂のバルコニー。


冬暁明告鶏(ディルクラム)』を抱いた少女、ルミナは、小さく溜息をついた。


その瞳は凍てついた湖のように澄んでいるが、今はどこか申し訳なさそうな陰りが差している。


 彼女の感情に呼応して、精霊たちが街を白一色に染め上げてしまった。自分の未熟さゆえの暴走。それは理解している。けれど。


「でも、あんなに無神経に食べられてしまうなんて。お前と一緒に、一生懸命に育てたのにね……」


 ルミナが抱える雌鶏が、主の心に同期するように「コッ……」と寂しげに鳴いた。


「いいんじゃないの?それくらい怒って当然だよ」


 背後からかけられた、あまりに場違いなほど明るい声に、ルミナは肩を跳ねさせた。


 そこに立っていたのは、王都から共同管理の養鶏場を訪ねてきたという、ガイだった。


ダークブラウンの髪とキラキラとした目、人好きのする笑顔が印象的な青年だ。


「ガイ……。まだ、いたんだね?王都とここじゃ、温度差が大きいから寒いでしょ?」


「うん、やっぱりめちゃくちゃ寒いね。でも気になっちゃって。さっきからずっと一人で反省会してるみたいだったから。……でも俺、ルミナはちっとも悪くないと思うよ」


 ガイはバルコニーの手すりに寄りかかり、満天の星空を仰いだ。


冷たい夜気にさらされて、赤くなった鼻の頭を指でこする。その無防備な様子に、ルミナの表情がわずかに和らいだ。


「精霊が吹雪を起こしたってことはさ、それだけルミナの『楽しみにしてた気持ち』がデカかったってことでしょ? それを一瞬で台無しにされたんだ。街がちょっと凍りついたくらい、しょうがないって」


 優しいガイの言葉は、ルミナの心に柔らかく染み込む。


確かに、育てるのが難しい『冬苺(ニクス・ベリー)』を丹精込めて育てたのは、すべてソルに喜んでほしかったからだ。


 それでも、結局は自分の独りよがりな気持ちでしかないのではないか。大人気なかった…、そう思って俯くルミナに、ガイは屈託なく笑いかけた。


「大人なんて、ならなくていいんじゃない?」


「……え?」


「あいつらがデリカシー無さすぎなんだよ。俺の相棒のリンって奴もそうだけど、こっちがどれだけ『楽しみにしてたか』なんて、一ミリも想像しねーんだから」


 ガイは手すりを軽く叩いて続ける。


「『驚くかな?』とか『喜んでくれるかな?』とか、そういう大事な時間を、あいつらはペロッと食っちまったんだ。だから、納得いかなくて当然だよ。俺なら吹雪どころか、あいつの寝床を全部氷漬けにしてやるのに!」


 ガイの、あまりに直情的で、けれどルミナの「悲しみ」に真っ直ぐ寄り添う言葉。


 ルミナの胸の中にあったモヤモヤとした(おり)が、ガイの熱気で少しずつ溶かされていく。


「……ふふ。ガイも、何か、食べられちゃったの?」


「最高級のベリーを、一口だよ。信じられる!?しかも全然反省してないの!だから俺、決めたんだ。あいつらがちゃんと土下座して謝るまで、俺は絶対ルミナの味方。ルミナは、もっと怒っていいし、もっとワガママ言って、お仕置きしちゃえば良いんだよ!」


 ガイが拳を握って熱弁すると、ルミナの唇から、こらえきれないといった風に小さな笑いがこぼれた。


「ありがとう、ガイ。……少し、心が軽くなったよ」


 ルミナの瞳から暗い色が消え、穏やかな月の光のような輝きが戻る。


それと呼応するように、オーロラが一際明るく輝き、街を祝祭のように照らし出した。


「……よし! じゃあルミナ、そいつをどうやって謝らせるか、二人で作戦会議しよう。絶対詫び入れされないとね!」


 ガイがいたずらっぽく笑うと、空のオーロラがそれに応えるように強く波打った。


その頃、常夏の都ソルシエラにて、リンが猛烈な悪寒に襲われていることなど、この時のガイは知る由もなかった。

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