豹
聡太は、いつもいじめグループから暴行を受けていた。ある日、放課後の倉庫裏で羽交締めにされ、身動きが取れなくなった。
「なぁ、化粧してやるよ!」
嘲るような声と共に、誰かがポケットから黄色い口紅を取り出した。
豹柄のケース。どこかで万引きしてきたものだろう。
「顔出せ!」
顎を乱暴につかまれ、無理やり顔を上げさせられる。ぐり、ぐり、と。聡太の唇は、容赦なく黄色に塗りつぶされた。
「やめて……やめて……!」
泣き喚く聡太を見て、いじめグループは腹を抱えて笑った。
「やべ、超ウケるんだけど!」
誰かがスマホを構え、動画を撮り始める。
そのときだった。
聡太の喉から、低いうなり声が漏れた。肩が震え、髪が逆立つ。目つきが変わる。
みるみるうちに、聡太の姿は豹へと変わった。
羽交締めを振りほどき、牙を剥く。
「うわっ!」
豹になった聡太は、いじめグループへ飛びかかった。
腕に噛みつかれ、肩に爪を立てられ、悲鳴を上げながら彼らは逃げ惑う。
そして、散り散りになって逃げ去った。
――――
その夜。
いじめグループは「すごい動画が撮れた」と、ネットに映像を投稿した。
再生数はみるみる伸びていく。
だが、コメント欄は想像と違っていた。
「いじめ最低」
「普通に暴行事件」
「学校特定した」
「犯罪だろ」
「は? 人間が豹に変わったんだろ!」
苛立ちながら、もう一度動画を再生する。
そこに映っていたのは――
泣き喚きながら、必死に手足を振り回して抵抗する聡太の姿だけだった。
豹など、どこにもいなかった。
――――
後日。いじめグループは、暴行と撮影・拡散の罪で逮捕された。
聡太は教室の席に座り、窓の外をぼんやりと眺めていた。
ペンケースの中に、あの黄色い口紅が入っている。
聡太はそれをそっと取り出し、ぎゅっと握りしめた。




