9.レベル上げ
「よっと!」
王都への道すがら立ち寄った村。ワタシたちは今、そこで崇められていたゴブリン三匹と対峙していた。もちろん、倒してスキルレベルを上げるためだ。
ドンッ!
ゴブリンの一匹。ワタシは緑色の腹部に軽く蹴りを入れる。それだけでゴブリンの身体は宙を舞い、壁にめり込む。
「ギギィッ!?」
洞穴のジメジメとした地面に崩れ落ちるゴブリン。どうやらこの村のゴブリンは人の言葉を話せないらしく、残ったゴブリンは耳障りな鳴き声を上げた。
「オラァッ! あと一匹ぃ!」
ロクも相変わらずの大振りでゴブリンの頭を殴り潰す。
「キキキッ!」
だが突如、仲間が二人も倒されたというのに嘲笑を上げたゴブリン。振り向くとゴブリンは、生贄として連れてこられた村の少年の首を後ろから掴み、少年の身体を盾のように突き出していた。
「助け……て」
恐怖に涙を浮かべる少年に、ウィリアムは一歩前に出る。
「ウィリアムさん。ワタシがやります」
今やワタシにとってゴブリンはレベル上げのための経験値でしかない。ワタシは黒い瞳でゴブリンを捉え、躊躇なく剣を水平に振り抜いた。
「ひっ……!」
ゴブリンによって盾にされた少年は息を呑み目を瞑る。
スカッ……。
その瞬間、ワタシは剣を僅かに引く。リーチが変わった剣は当然、少年をかわして空を斬った。
「ギギッ!?」
驚いたゴブリンが一瞬動きを止める。対して、剣を振るった勢いのまま回転したワタシは身を捩り、頭上からゴブリンの身体を真っ二つに斬り裂いた。
「スキル『狂戦士化』のレベルが七になりました」
「スキル『見切り』のレベルが七になりました」
「スキル『剣術』のレベルが八になりました」
「スキル『空中歩行』のレベルが三になりました」
「スキル『蹴術』のレベルが四になりました」
やっとレベル上がった……やっぱりレベルが上がるごとに次のレベルにするために倒す魔物の数が増えてるなぁ……。
「ロクさんは今レベルどのくらいになりました?」
「おう、オレ様の『怪力』はもう十二になったぞ」
「ロクとサクラのスキルもだいぶましになってきたねぇ。もう脱獄してから十日だ。そろそろ頃合いだろう」
恐怖からか気絶した少年を背負ったロクに続いて洞穴を出ると、ライラは少し遠くに薄っすらとと見える正方形の城壁を見据えて言う。
「あのカークスの町で路銀を稼ぐよ。その金で馬車をひっ捕まえて王都まで行く。文句はないね? 若造ども」
***
「結構並んでますね」
「そりゃあこの町はイモルター王国西の物流拠点だからねぇ。人の出入りが多くて当然さ」
カークスの町の正門にできた長蛇の列。その大部分は商人と思しき集団で、その後ろにワタシたちも並ぶ。転生直後のゴブリンからの連戦でボロボロになった服が目立たないようにと羽織った紺色のローブを調整し、ワタシは思い当たったことを口にした。
「そう言えばワタシたちって一応脱獄者ですよね? 顔を隠したりとかって……」
「サクラ、あんたも見たろう……あんな手配書でどうやってアタシらが脱獄者だって判断するんだい?」
「そうでした。あれはちょっとひどいですよね」
幸いこの世界の手配書は粗雑で、途中の村で見かけたワタシたちの手配書ではとてもじゃないが脱獄者という情報以外何も読み取れなかった。そんなわけで素直に列に並んでいると、ほどなくして順番が回ってきた。
「ほら次ぃー! さっさと来い!」
頭以外を鉄色の鎧で覆った門兵の男が苛立たしげに槍をトントン地面に打ち付ける。
「よし、問題はないな。では通行料、一人銅貨三枚払え」
えっ!? お金なんて一円も持ってない……。
「アタシらは今金ないんだよ。代わりにこの魔結晶の欠片三つで手を打っちゃくれないかい? これは一つ銅貨五枚分の価値がある。残りはおめぇにくれてやるから文句ないだろう?」
そう言い捨てて門兵の横を通り過ぎるライラに、門兵は何も言わない。その様子を見てロクが続き、ワタシもその後を追う。だが──。
「ちょっと待ちな。こっちは魔結晶の欠片を売りに行く手間まで請け負うことになるんだ。その労力が銅貨三枚分っていうのは、少し足りないと思わないか?」
門兵はワタシの行く手を阻み、ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべてワタシの顎をクイっと持ち上げた。
「そろそろ昼だろう? おれは正午で交代なんだ。それまでそこの休憩室で待っててくれれば通してやってもいい」
じゅるりと舌なめずり。最初に戦ったゴブリンと同等の低俗な振る舞いをする門兵に、ワタシは顔をしかめた。
キモっ! 斬っていいかな? 斬っていいよねっ?
ワタシが剣に手を掛けようとした時、白の隊服が目立たないようにと麻色のローブを羽織ったウィリアムが前に出て、門兵の手を掴んだ。
「なんだ貴様。魔物様よりこのカークスの門兵に任命されたおれに逆らうとでも言うのか?」
「そんなつもりはない。キミの話を要約すると、通行料が足りないということだろう? ならこれで足りるか?」
そう言ってウィリアムがポケットから取り出したのはハンカチだった。だがただのハンカチではない。きめ細かな水色の布に凝った黄色の刺繍が施された、どうみても高価な部類のハンカチだった。
「これをくれるのかっ!?」
「……行こう」
「……あ、はい……」
ウィリアムのハンカチを受け取った門兵が目を丸くする。その間にウィリアムはワタシの手を引いて門を抜けた。
町に入ってしばらく歩くと、ようやくウィリアムはワタシの手を離した。
「ありがとうございますウィリアムさん。でもよかったんですか? あのハンカチ、どう見ても高いやつですよね?」
「構わない。あれはそんな大したものじゃないからな」
そう端的に答えたウィリアムが足を速める。いつもワタシたちに対して壁を作っているウィリアムが損をしてまでワタシを助けた。そのことに呆気に取られていたワタシは、ふっと笑って、小走りでウィリアムの後を追った。
お金がたまったら、お礼に何か買おうかな。
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