8.休憩
「ん……もう朝?」
目を擦り、首をかく。寝起きの悪いワタシは重い頭と気怠い身体で寝返りを打──とうとして地面に落ちた。
「いたぁ……」
「ようやく起きたのかい。まったく、最近の若者はたるんでるねぇ」
「ケッ……やっと起きやがったかサクラ。これ食うか?」
ワタシが地面にぶつけた額をさすっていると、ロクが串肉をくれた。ワタシはほとんど目を閉じたまま、ぼんやりとした動きで串肉を口に運ぶ。
「……ん? おいしい」
鶏肉のような味のする肉で、口の中で転がす度に程よい塩味が舌を打つ。さらに肉の皮は柔らかく、程よい焦げ目がついていて美味しかった。
「もう一本くださいっ!」
たまらず一本目の串を平らげ、二本目を口にくわえる。その頃にはもう、ワタシの頭は働き始めていた。
「ワタシ、ヒュドラを倒してからどのくらい寝てました?」
「おまえさんが寝てたのは半日くらいかねぇ……今は王都に向かってる途中だよ」
杖を傍らに立てかけ、ライラは倒木の上に座ってむしゃむしゃと串肉を食べている。いつの間にか薪用の枝を抱えて戻ってきたウィリアムが腰掛けると、ライラは今後の方針を確認した。
「この烙印がある以上、アタシらは三十日以内に三神獣が一柱──不死鳥のザレクを倒さにゃならん」
ライラはそう言って手の甲にあるザレクの烙印を忌々しげに叩きつけた。
「その烙印ってなんですか? それに三神獣とか不死鳥のザレクとかって……」
「そうか。サクラは異世界人。知らないのも当然だねぇ……この烙印、おめぇの身体にもあるだろ?」
そう言ってライラは手の甲をこちらに向けた。そこには、何本もの鎖に雁字搦めにされた鳥かごと、それを覆うように大きな一対の翼が描かれた紋章が付けられていた。
探したところ、ワタシは背中──肩甲骨の間に烙印が押されていた。
「これはザレクの烙印ってんだが、この烙印を刻まれた人間がひと月以上果ての牢獄を離れると死ぬようにもできてるんだよ。そしてこの烙印を消す方法は唯一、ザレクを仕留めることだけなのさ」
いつになく神妙なライラの言葉を聞いて、ロクの眉間にシワが寄っていく。
「それで、そのザレクって何ですか?」
串肉のコリコリとした食感を味わいながら、ワタシはライラに続きを促す。
「焦るんじゃないよ。まず三神獣ってのはイモルター王国、ゴドラ帝国、アズン魔導国の三つの国──三大国がそれぞれ国として崇める三体の魔物のことだよ」
「つまりザレクっていうのはこの国──イモルター王国? を支配する神獣で、そのザレクをひと月以内に倒さなくちゃならないってことですか?」
ワタシの理解を口にすると、ライラは頷いた。
「まあ言うは易しってやつだよ。アタシらが倒さにゃならん不死鳥のザレクは、無限の再生能力と飛行能力を持ってる。しかもその上ぶっ壊れ性能の魔術をバンバン放ってくるんだよ。まったく、忌々しいったらありゃしない!」
「へぇ……」
「だからなんでテメェは目をキラキラさせてんだよ……」
さっきまで眉間にシワを寄せていたロクが、呆れたように目を細めた。
だってボスの情報が明かされたんだよ? ワクワクするじゃん。
そんなことを思っていると、ライラは「とにかく」と口を開いた。
「今となっちゃあザレクの居場所を知ってる奴は王城にいるザレクの片腕──右翼のブレイズウルフだけだよ。左翼のヒュドラはもう倒しちまったからねぇ」
「つまりはヒュドラレベルの相手を、今度は殺さずに倒して情報を吐かせるってことですか!?」
なにそれ楽しそう。
「そうだよ。だがおそらくブレイズウルフの強さはヒュドラ以上だ」
「へぇ……」
期待感を滲ませた相づちに、ロクが呆れたような目を向けてくる。
「そういうことなら早く王都に行きましょうよっ!」
「そう焦るんじゃないよ。今のおめぇと若造のスキルレベルじゃザレクにも、下手したらブレイズウルフにも歯が立たたないよ。せめて一つのスキルくらいカンストさせな」
「それもそうですね……スキルの最大レベルっていくつですか?」
「十五だ。ちなみにオレ様の『怪力』はレベル七なんだぜ」
親指で自分の胸を指して自慢するロクに苦笑いを返すと、ワタシはライラにもレベルを聞いた。
「ライラさんはレベルいくつなんですか?」
「アタシの『無詠唱』はとっくにレベル十五だよ」
「やっぱりライラさんはすごいんですね」
「サクラ。スキルをいくらでも取得できるおめぇはポテンシャルでいやぁこの世界のだれよりも上なんだ。王都に行く途中にある村や町を牛耳る魔物どもを倒して進みゃあ強くもなるだろう。そこの若造とて、スキルレベルを上げ切ればまだましになるだろうさ」
だといいな。強くなればきっともっと戦闘が白熱して、また違った楽しさを味わえそうだしね。
期待に胸を膨らませて一口、串肉を口に入れる。ウィリアムが焚火に薪を放り込むと、炎がパチパチと音を立てて燃えた。
「あ、ウィリアムさんもスキルレベルを教えてくれませんか?」
「断る」
何の情緒もなく放たれたウィリアムの言葉に、ライラが抗議の視線を向ける。
「アタシらはみんなスキルを言ったってのに、一人だけ話さないのはズルいんじゃないのかい?」
「……わかった言おう。俺は『剣術』、『魔術強化(水)』、『俊足』のスキルがレベル十だ」
「えっ! この世界の人はスキルを一つしか得られないんじゃないんですか?」
「それは魔物を倒してスキルを得る場合だよ。ウィリアムの小僧は騎士団か何かにいたんじゃないのかい?」
もう話すことはないだろうと腕を組み目を閉じるウィリアムの横顔を見て、出会った時の会話を思い出す。
「そういえばウィリアムさん、元王国騎士団の隊長だって言ってました」
「やっぱり小僧は隊長だったのかい。どうりて強いわけだよ」
「それでウィリアムさんがスキルを三つも持ってる理由って何なんですか?」
「王国騎士団に入るとねぇ、ザレクから直接スキルを一つ授かるんだよ。それから上に行けば行くほどスキルをもらえる仕組みで最大三つ、スキルを得られるようになってるんだとさ」
「よく知ってんな婆さん……ライラの婆さんはこの国の出身じゃねぇんだろ?」
「人間、歳を取ると物知りになるものなんだよ。それにこの話はまだ終わりじゃない。ザレクから授かったスキルは最初っからレベル十、その代わりレベルが上がらないって話だ」
「逆に言えば王城に乗り込むときはスキルレベル十の騎士たちとも戦えるってことですよねっ?」
また一つ王城に乗り込む楽しみが増えた! レベル上げがんばろっ。
ワタシは浮足立つ思いで最後の串肉を呑み込んだ。
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