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魔物が神聖視される世界に転生したら、ワタシは【戦闘狂】に目覚めました〜生贄から始まる狂戦士無双〜  作者: 冬哉


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7.ヒュドラ戦②

 今から回避しても間に合わない……。 


 曇天の空を覆いつくす二つの巨大なヒュドラの口に、ワタシはすぐさま自分の運命を悟る。


「でもっ、そのままワタシを食べるつもりなら首二本はもらうよっ!」


 手足の一、二本はくれてやる。その代わりおまえの首も差し出せと、ワタシは挑戦的に笑う。自然と剣を握る手に力がこもる。


 だが、ヒュドラとてそう何度も同じ手が通じるほどバカではなかった。


「……っ! ここで口閉じるのっ!?」


 回避も防御も反撃も許さない突進攻撃に、ワタシはなすすべもなく吹き飛ばされ──るかに思えたその時、


「オラァァァアアァッ!」


 宙に現れた氷の足場に乗ったロクが、ヒュドラの首に強烈なアッパーを叩き込む。


 バリィィィンッ!


 熊のように大きな体躯から放たれた一撃はヒュドラの頑丈なウロコを割り、顎を砕く。


「前はよくもオレ様の大事な子分をおもちゃにしてくれたなテメェ!」


 砕けたウロコの破片が舞い散る中。ロクは、だらりと口を開いたヒュドラの首に向かって怒声を上げる。


「オレ様はサクラの親分だ! もうこれ以上、オレ様の子分は殺らせねぇっ!」


 これなら口に入れるっ!


「ありがとうロクさん!」


 ロクの攻撃を食らった首は動きを止めた。対してもう一方の首は迷わずワタシに突っ込んでくる。


「ほれ、足場だサクラ。使いな!」


 ライラの声が聞こえた瞬間、ワタシの足元で薄い氷の板が形成される。


 トンッ!


 すぐさま氷の板を蹴り上昇するワタシに、ヒュドラは対応できない。ワタシはヒュドラの首も踏み台にして、顎を砕かれたヒュドラの口に突っ込む。


「これで……終わりっ!」


 ヒュドラの歯に足を掛け、全力の踏み込みで放つ突き。それはヒュドラの頭を貫き、ウロコを吹き飛ばすに至った。


「いい加減くたばりやがれトカゲ野郎っ!」


 ロクは叫び、ヒュドラのもう一本の首に飛びつく。ヒュドラはロクを振り落とそうとその巨大な首をブンブン振り回して大暴れするが、ロクはウロコにしがみついて離れない。


「ウオラアァッ!」


 ロクはありったけの力を振り絞り、ヒュドラのウロコを剥ぎ取る。


「決めろサクラぁっ!」


「ナイスアシスト」


 ロクに言われるまでもなく、ワタシは貫いたばかりのヒュドラの首を蹴っていた。


 ヒュオオォォォッ!


 急速落下による風切り音とともに、ヒュドラの首が眼前に迫る。ウロコが剥がれ肉が露わになった部分を見据え、剣を弓のように引き突きの構えを取る。だがその瞬間、ワタシの脳裏にウィリアムの初撃がよぎった。


 宙を舞い、鋼鉄のウロコもものともせずに首を両断するウィリアムの姿に、ワタシは知らず知らずのうちに憧れのようなものを抱いていたらしい。


 ワタシもあんな一撃を繰り出せるようになりたい……ここで挑まなかったら、絶対に後悔する!


 だが今から狙いをウロコがある部分に変えることはできない。


 だったら首の裏側のウロコまで斬ればいいっ!


 構えていた剣を肩口に寝かせ、身体を仰向けに倒す。急な減速に覚える浮遊感。落下の勢いは余すことなく剣に乗せ、回転する。


 スパァアアァァァンッ!


 ワタシが繰り出した斬撃はヒュドラのウロコまでをも斬り裂き、大気を揺らす。


「やったっ。ワタシにもできたっ!」


 ワタシはえも言われぬ達成感に歓喜する。初めての感覚に身体中が熱を持つ。その感慨に浸りながらワタシは、頭を失い倒れていく首に乗り、土の地面に着地した。


「残りの首は……」


 同じミスはしないと警戒したワタシが空を見ると、三本の首がウィリアムを取り囲んでいた。


 まだ戦える! こんなに楽しいならもう一生戦っていたいな。


 ワタシの瞳は真紅に染まったまま、ヒュドラの首を真っすぐに捉える。ワタシは両足に力を込め、ライラに声を飛ばした。


「ライラさん。足場を──」


 その時だった。急にグニャリと視界が揺らぎ、全身から力が抜けていく。口からは唾の代わりに血が滴り、身体が傾いた。


 あ……れ? なん……で……?


「サクラっ!」


 氷の足場を伝って駆けつけたロクが、ワタシの身体を受け止める。


「おい! しっかりしやがれっ!」


 朦朧とする意識の中、ワタシの顔を覗き込むスキンヘッドの顔の向こう側に、白いマントを靡かせる騎士の姿が映った。彼は氷の聖剣を片手に宙を舞い、三本の竜の首を斬り飛ばす。


 ドシィィィン!


 一拍遅れて地響きが鳴り、ヒュドラの巨体が崩れ落ちたことが分かった。


「ったく血を流しすぎだ。こりゃ内臓もいくつかやられてるねぇ。なんでこんな状態で動けたんだが……生きてることすら不思議なくらいだよ」


 歩み寄ってきたライラがワタシの身体を見て呆れた声を上げる。そしてライラは治癒魔術を発動し、温かい光がワタシを包み込んだ。


「これでサクラは大丈夫だろう」


「ケッ! 無茶な戦い方しやがって……」


「ヒッヒッヒ。若造おめぇ、結局一本も首を潰してないだろう。サクラとウィリアムは五本ずつ潰したってのにねぇ」


「チッ……わかってる。オレ様もガキどもに負けたまま終わるつもりはねぇよ」


 無傷のウィリアムと、ボロボロになりつつも戦果を挙げたワタシを見て、ロクは対抗心を燃やす。


「ぜってぇ追い抜く」


 貪欲な向上心をむき出しにしたロクに、ライラはニヤけた。


「若造。おめぇのそういうとこ、嫌いじゃないよ」


「うるせぇ」


「まだおめぇとサクラのスキルはレベルが低いからねぇ。今度レベル上げに付き合ってやるさ」


 ワタシは薄っすらと二人の会話を聞きながら、意識を手放した。


「スキル『狂戦士化』のレベルが四になりました」


「スキル『見切り』のレベルが二になりました」


「スキル『剣術』のレベルが三になりました」


「スキル『空中歩行Lv1』を獲得しました」

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