6.ヒュドラ戦①
「「「グオォォォオオオォォオオオォォッ!」」」
「この老いぼれが援護してやる! 若造ども、思う存分暴れ回りなっ!」
ワタシ、ロク、ウィリアムがヒュドラに接近すると同時。ライラが地面に杖を突き立て、翡翠色に輝く魔法陣を展開する。
「なにこれ動きやすいっ!」
「……!」
ワタシたちの身体を黄緑色の光が包み込む。
「こいつぁ支援魔術か……気が利くじゃねぇかライラの婆さん!」
「ふんッ……ほれ、ヒュドラのブレスが来るぞ。気をつけな!」
ライラの言う通り、ヒュドラの十二の口すべてが炎を収束させ、円柱状の炎を吐き出す。その瞬間、ワタシは真紅に染まった目に力をこめて、ブレスの軌道を見切った。それも十二個全て。
『見切り』スキルのおかげかな? まあ今はどうでもいいや。
猛る炎に埋め尽くされた視界の中、直径二メートルはあろうかというブレスが時間差で迫りくる。
「全部かわすっ!」
ワタシは地面を蹴り砕き、最初のブレスを回避。先ほどまでワタシが立っていた地面は炎に抉られ、クレーターが発生する。
当たったら即死のブレス……それがあと三個……。
「いいね楽しいよっ!」
ワタシは速度を緩めず前進し左、上と身体をずらし連続でブレスを回避。だが、二度目の回避で宙に浮いたワタシには、最後のブレスを避ける手段がない。
「やばっ!」
パリッ……。
ワタシがブレスの直撃を覚悟したその時、目の前に分厚い氷の壁が出現した。氷の壁はブレスの直撃を受けてなお、まるで溶ける気配がない。
「ったく、世話の焼ける若造どもが。少しはウィリアムの小僧を見習いな!」
水色の光子を周囲に漂わせたライラが、杖でヒュドラの頭上を指し示す。そこには、白のマントを靡かせ宙を舞うウィリアムの姿があった。
「すごいっ……もうヒュドラまでたどり着いたの!?」
「あの野郎、あんな細ぇ身体で武器もなしにどうするつもりだ?」
ワタシと同じく氷の壁に守られたロクが放った問いに、ウィリアムは答えを示す。
「こい……『聖剣グレイシア』」
両手剣を握る形を作ったウィリアムの手に、水色の光が収束していく。その光が織り成す直剣の色は神聖を表す白。そこに水色の刃と装飾が施された剣がウィリアムの両手に収まる。
「ハアァァァアアァッ!」
落下と回転の力を乗せて振り下ろされた聖剣は正確にヒュドラの首を捉え一刀両断。ヒュドラの頭部が地面に落下し砂埃を上げる。
だがそれだけではない。ヒュドラの首の切断面は凍り付き、氷がヒュドラの身体を蝕み始めた。
「「「ググ……オオォォァァアアァアアッ!」」」
絶叫と咆哮。それらが混ざった声を発したヒュドラは自ら、凍り付く首を根元から噛みちぎった。同時に、他の十本の首はウィリアムに襲い掛かる。
「くっ……」
息つく暇もない波状攻撃に、さすがのウィリアムも回避と防御に専念せざるを得ない。噛みつき、薙ぎ払い、叩きつけ、ブレス。ライラの援護もあり、四種の攻撃を完璧に防ぎきるウィリアムに、ヒュドラの全警戒心が向く。
「ねぇ……ワタシもいるよっ!」
ガキィィィンッ!
地を這うヒュドラの首に一閃。だが今のワタシの実力では、ヒュドラの固いウロコには傷一つつかない。
「やっぱり無理? だったら──」
グシャッ!
突如頭上から急降下してきたヒュドラの首が、地面を抉りワタシを吞み込む。ヒュドラの尖った歯が何本も腹部を貫き、風穴を開ける。
ワタシは自分の肉と骨が噛み潰される音を聞きながら、ヒュドラの口内で血を吐いた。
「ガフッ……」
「おい嘘だろ……」
「チッ! バカ野郎が……一人で突っ走るからそうなるんだよ!」
ライラはワタシを助けようと風の刃を乱れ打つ。だが、別の二本の首が盾となり、ワタシを食らった首には届かない。
「チッ! これでもダメかい……」
盾となった二本の首がみじん切りになって飛び散る。だがその間にヒュドラは百メートル以上ある首を天へと伸ばし、今にもワタシを丸呑みしようとしていた。
「クソがぁっ! テメェ! オレ様の子分を返しやがれぇっ!」
ロクが捨て身の特効でヒュドラの胴体に突進。だが、ヒュドラはロクの攻撃に見向きもしなかった。そんな中、ロクとライラの悲壮に満ちた声などいざ知らず、ワタシはヒュドラの口内で狂った笑みを浮かべていた。
自分から口の中に入れてくれるなんて、そんなサービスしてもいいのっ? 外から首を斬れないなら、内側から斬ればいいんだよっ!
ワタシを丸呑みしようと、ヒュドラは鋭い歯をワタシの身体から外し、口を大きく開ける。その瞬間、ワタシは『狂戦士化』スキルの効果で湧き上がった力をもってヒュドラの首を切断した。
「「「グォアアアァァッ!」」」
絶叫を上げるヒュドラ。眼下から迫りくる残り八本の首は例外なく赤い目をいっそう血走らせ、竜の口を大きく開けていた。
「アッハハッ! 全部ワタシが切るっ!」
ワタシは頭を下にして急加速、一瞬でヒュドラの口内に侵入し一回転。剣筋は綺麗な円を描き、ヒュドラの首を刎ねた。
フッ……。
泥のように黒い血飛沫のカーテンが晴れた途端、前後左右の四方向からヒュドラの頭が迫りくる。
「いいよいいよっ! こういうスリルも戦闘の楽しいところだよねっ!」
ああ……生きてるって感じるっ! 刺されたお腹の痛みが今はむしろ心地いい……。
血がにじむ口で至上の微笑みを湛えるワタシに迫りくる四つの頭。それらが同時に開口するその瞬間、ワタシは後ろにある口を狙って剣を投擲した。
「グォアアアァァッ!」
喉の奥に剣が刺さり、後方の頭だけ動きが遅れる。それでも他の頭は動きを止めず、三個の口が同時にワタシの身体にかぶり付く──。
ここっ!
三頭のヒュドラの口が、まさにワタシを食らおうとしたその直前。ワタシは身体を水平にして落下速度を遅くした。ヒュドラはその減速に対応できず、噛みつき攻撃は空を切る。
「足場、ありがとねっ!」
ワタシは攻撃を空ぶったヒュドラの頭を足場にして跳躍。喉に剣が刺さった頭の口に飛び込む。
「これで三本目っ! あと六本っ!」
剣を引き抜き首を両断。またも落下を始めたワタシの身体に、残り全ての首が群がる。
パキッ……。
「えっ!? すごいどうやって……」
空気が凍える音とともに突如目の前に現れたのは、氷の聖剣を手にしたウィリアム。彼は正確無比な一撃をもって、頑丈なウロコごとヒュドラの首を断ち斬る。
やっぱりウィリアムさんも強いな……裏切ってくれないかなぁ。
その一瞬、ワタシの興味がウィリアムに移り、ヒュドラから注意が逸れる。
その隙を見逃してくれるほどヒュドラは甘くなかった。三本の首がウィリアムを足止めし、残り二本の首が無防備なワタシに襲い掛かる。
「やばっ……!」
この話を読んでいただきありがとうございます!
「面白かった!」
「続きが気になる!」
と思っていただけたら、
ブックマーク登録や、
↓の「☆☆☆☆☆」をタップして、応援していただけるとうれしいです!
星はいくつでも構いません。評価をいただけるだけで作者は幸せです。




