4.脱獄
「脱獄……ですか?」
「ああそうだ。この果ての牢獄にぶち込まれた時点でアタシらは終身刑──黙ってても一生牢屋暮らしだ。サクラ。おまえさんもそれは嫌だろう?」
確かにそれは困る。せっかく戦闘っていう生きがいを見つけたばかりなのに、ここにいたら満足に戦えそうにない。
「そうですね。脱獄しましょう」
「ケッ……なんも知らないガキが簡単に言うなよ。この果ての牢獄は囚人脱走率ゼロパー。今まで脱獄に成功した奴は一人もいねぇ……しかも外にはやべぇバケモンまでいるんだぜ」
「化け物?」
「そうだ。ここの門番をしている魔物は左翼のヒュドラっつってな、ここイモルター王国で三番目に強い魔物って言われてんだ。奴はその肩書通り、尋常じゃない強さをしてやがる」
「それは戦ってみたいっ!」
歓喜の声を上げるワタシに、ロクが素っ頓狂な声を上げる。
「はっ? テメェ話聞いてたか? まじでヤバいやつなんだよ。前に一度オレ様が脱獄しようとした時に戦ったが、ありゃ人間が勝てる相手じゃねぇ」
「それがいいんじゃないですか! 弱い相手と戦うより強い相手と戦った方がきっと面白いと思うんです」
「はぁ!? 意味わかんねぇ……」
「ヒッヒッヒ! いいなおめぇ。さすがは狂戦士化のスキル持ちだ。頭のネジが何本かぶっ飛んでやがる」
ワタシ何か変なこと言ったかな? どんなことでも、超える壁は高い方が燃えるじゃん。
首を傾げるワタシに、ライラは愉快そうに笑う。
「おめぇなら、この国最強の『不死鳥のザレク』相手でも使い物になりそうだねぇ……」
何かボソボソと独り言を呟いたライラは、ワタシを手招きした。
「サクラ。脱獄する前にまずは手を出しな」
「ん? 何でですか?」
ワタシは言われた通りに手を差し出す。するとライラの皮ばった手が触れてきた。
「こうすんだよ。その怪我のままだと足を引っ張られかねないからねぇ」
そう言ってライラが握手の要領でワタシの手を握ると、手のひらから温かい何かがワタシの全身を伝う。それと同時に、右肩や脇腹、胸などの傷が優しい緑色の光の粒に包まれ、塞がっていく。
「これって……」
「治癒魔術さ。アタシゃただ歳食ってきたわけじゃないよ」
すごい……本当に全部治ってる。魔術って便利だなぁ……。どうにかワタシも習得できないかな……。
自分の身体を触って傷が完治したことを確認すると、ワタシは二人に向き直った。
「えっと、それじゃあしばらくの間、よろしくお願いしますっ!」
***
「オラァ!」
「「ぐはっ……」」
脱獄開始直後。ロクは巡回中の二人の看守を一撃で殴り飛ばし、拳同士を打ち付ける。
「どうだザコモブ看守どもっ! オレ様の強さにひれ伏せや!」
「いたぞっ! 全員で囲め!」
「ハッハアッ! 全員まとめてぶちのめす!」
ロクのラグビー選手さながらの豪快な突進に吹き飛ばされる看守たち。その間を魔術で飛行するライラがすり抜け、ワタシも走って後に続く。
「ついてきてるかぁクソガキ! オレ様の活躍に惚れたってんなら子分にしてやってもいいぜぇ!」
ワタシは無言でロクにジト目を向け、走り続ける。
「ハッハアッ! オレ様のかっこよさに言葉も出ねぇのかぁ? 喜べサクラ。テメェを──おまえを子分にしてやる!」
「いやそんなこと一ミリも望んでないですよ」
「おらぁっ!」
ロクはワタシの返事に聞く耳持たず、現れた看守を片っ端から投げ飛ばす。
「グエッ……」
ちょうどワタシの目の前に看守が吹き飛ばされて落下する。気が付けば、ワタシの視線は彼の腰に携えてある剣に吸い寄せられていた。
「それくださいっ!」
「えぁ……」
朦朧としたうめき声を上げる看守の鞘から剣を拝借し、ワタシはすぐにロクとライラの後を追った。
「オラオラどうしたザコ看守どもぉ! このオレ様にぶっ飛ばされてぇ奴からかかってこいや!」
暴走列車のごとき突進力で道をこじ開けるロク。彼に続き、ワタシとライラも果ての牢獄内を突き進む。
「看守程度ならロク一人でも事足りるねぇ。だが、ヒュドラを相手するにゃ足りん。アタシの杖を回収したいところだねぇ」
「杖? どこにあるかわかってるんですか?」
「ああもちろんだ。自分の杖も感じ取れない魔術師なんて三流もいいところだよ」
そう言ってライラは真っすぐ前を向く。おそらく今の進行ルート上に杖があるのだろう。
「おいみろよあれ。脱獄しようとしてるぜ」
「バカな連中だ。あのヒュドラに勝てるわけないだろっ」
「ハハッ! ちげぇねえ。少しでもましに生きるには大人しくしてるのが一番なんだよ」
通路に接する牢屋から、嘲笑の声が囁かれる。
「脱獄未遂は即拷問だぜ? やめときゃいいものを……」
「あいつら、そういう変態なんじゃねぇか?」
「ハハハッ! そうかもな」
「それに門番のヒュドラは脱獄者を仲間の目の前でじっくり味わうっていう趣味があるとか」
進むにつれて大きくなる嘲りの声を気にするほど、やわなメンバーはここにはいない。看守との遭遇も減ってきて、ワタシたちはさらに進行速度を上げた。
「なあキミ。俺も連れて行ってくれないか?」
ワタシたちをあざ笑う声の中に、毛色の違う声が一つ混ざる。それは落ち着いたテノールの声だった。
「俺は、役に立つぞ」
だというのに、何故かその声の裏にはどす黒い感情が渦巻いている気がして、ワタシは声の主が入れられている牢屋の前で立ち止まった。
***
数分前──。
騒がしいな……脱走者か?
他の牢とは違い、椅子が一脚置かれているだけの広い牢の中。椅子に縛り付けられた青年が、光を失った金色の瞳を僅かに上げる。その視線の先には、脱走者らしき三人組が近づいてくる姿があった。
……俺は、どうしたい? このまま絶望して果ててゆくのか? それとも──。
青年は奥歯が砕けそうなほど歯を食いしばり、金色の瞳に鋭利な復讐の光を灯した。
俺は必ずあいつらに──俺とエレナを陥れ笑い者にしたあげく、エレナを生贄にした王国騎士団の第二隊と不死鳥のザレクに報いを受けさせてやる!
青年は己の憎悪を胸の奥に秘め、脱走者たちの到来を待った。
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